2014年06月04日

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

インサイド・ルーウィン・デイヴィス無名アーティストたちへの挽歌。
サンダンス出身のコーエン兄弟だからこその、成功の女神からの微笑みを受けることなく消えていったアーティストたちへの愛情が詰まった作品です。全編を通して暗くて地味なくだりばかりなのに、なぜか不思議と温かい。
芸術を愛する全てのルーウィン・デイヴィスたちへ捧げられるべき映画でした。

無名アーティストの象徴として描かれる架空のフォークシンガー、ルーウィン・デイヴィス。商業主義による低レベルな創作を受け入れず、独自の拘りを追い続けたがために冬場にコートも買えない貧乏生活からは抜け出せず、恋人からは父親も分からぬ妊娠を告げられ、世話になった友人の猫探しに奔走する、いわゆる負け組男。

でもそれは夢を諦めた人間が引いた線。夢を追い続ける彼が奏で歌うフォークソングは静かに聞き入った後に思わず拍手を送りたくなるほどに素晴らしいもの。
ただレコードは売れない。だから音楽で食べていくことを辞めたい。なのに彼の才能に惚れた友人たちが常に手を差し伸べてくれる。結果として夢を追い続けるアーティストはいつまで経っても無名アーティストのまま。

そんな負の連鎖から抜け出せないルーウィン・デイヴィスが常に行動を共にするのが自由気ままな象徴でもある猫。別に飼っている訳でもない、預かった猫のはずが猫違いで一緒にいるだけの、ただのなりゆき猫ちゃん。そんな猫ちゃんと共にジョン・グッドマン演じるジャズマンたちの車に同乗してシカゴへと行く道中。これが無名アーティストに吹雪のように降り注ぐ現実の厳しさを描いているようで、個人的には凄く物悲しく思えました。

恋人ジーンの部屋で出会った兵士トロイのように売れる作品が作れる訳でもない。でもセッションに誘ってくれた友人ジムのように魂を売り渡すような作品を作る気もない。そんなルーウィン・デイヴィスにとってジャズマンは拘りを捨て商業主義に走ったくせにアーティストとして威張っている歪な世の中でもあると思うのです。

シカゴで劇場主から言われた「金のニオイがしない」「相方とヨリを戻すべきだ」という厳しい現実。でも相方は自殺してしまった。ゆえにルーウィン・デイヴィスの作品からはこれからも金のニオイはしないという悲しき現実。
そして「ニシンの大群」を歌うことでしか親孝行が出来ない無力な自分がいる辛い現実。

NYに帰ってきて船乗りに戻りたくても会費を払ってないやら、会員証紛失による再発行で金が掛かるやらで踏んだり蹴ったりなうえに、いつものクラブでは何の拘りもないまま薄っぺらい歌を歌う中年女性が舞台に立つ。本当に音楽を愛している者が報われず、ミーハーな者が中途半端な脚光に満足する、そんな世の中にルーウィン・デイヴィスがヤジを入れたくなるのもある意味納得。

ただどんな低レベルなアーティストであれ、アーティストに敬意を払うのが真のアーティスト。無礼な無名アーティストを路地裏で殴り倒す、ルーウィン・デイヴィスの友人だと名乗ったスーツ姿の男。
音楽に詳しい方の話によれば、あの男はルーウィン・デイヴィスのモデルであるデイブ・バン・ロンクの友人ボブ・ディランだとか。
そんな男が去っていく様を見送る殴られたルーウィン・デイヴィスが最後に発した言葉。そこには時代の変わり目を受け入れつつ、それでも自身の拘りを捨てないステキなアーティストの魂が込められているような気がしましたよ。

深夜らじお@の映画館は改めてシクト・ロドリゲスだけは特例だったのだと思いました。

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acideigakan at 23:58│Comments(4)clip!映画レビュー【あ行】 

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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌@よみうりホール
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【概略】 1961年。フォークシンガーのルーウェン・デイヴィスは、トラブル続きの日常から逃げ出すように、ギターと猫を抱えて旅に出る。 ドラマ コーエン兄弟が伝説のフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録を元に映画化した本作ですが、彼は勿論の事ボ

この記事へのコメント

1. Posted by えい   2014年06月06日 22:56
こんにちは。

ボブ・ディランは、
ルーウィン・デイヴィスを殴った男ではなく、
彼がクラブから去るときに、そこで歌っていた男です。

この映画、なぜかすごく好きで…。
おそらく、結果的に売れなかった関西フォークが好きなこと、
そして猫の表情が
拍手したくなるほど見事にとらえられているからかもしれません。
2. Posted by にゃむばなな   2014年06月07日 01:08
えいさんへ

あらま、そうなんですか。
私はそのあたりに詳しくないのですが、人違いでしたか。

それにしてもこの映画が描く無名アーティストへの深い愛情。
これが分かるような年齢に私もなってしまったということもあるのでしょうけど、ほんましみじみいい映画でしたわ〜。
3. Posted by RYU   2014年06月08日 23:01
難しい事はよく分かりませんが、スターにも個人の葛藤や悩みがあるという事で、才能をもって渡世するか、財力をもってはばかるかの違いだと思います。

外国バンドには、ローリングストーンズとか、意味深なネームが多いですね。
4. Posted by にゃむばなな   2014年06月11日 16:35
RYUさんへ

売れるアーティストにも悩みがあれば、売れないアーティストにも悩みはあるもの。
そこに大差がないことがわかる映画でもあると思いますよ。

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