2014年06月19日

『太秦ライムライト』

太秦ライムライト斬られ役一筋。福本清三先生の人生、ここにあり。
これはただの脇役俳優を主役に抜擢した映画ではありません。斬られ役一筋55年、5万回斬られた男という異名を持つ名優に敬意を払った、時代劇ファンとしては感涙の映画、福本清三先生ファンとしても号泣の映画です。
いつの時代も必ず「どこかで誰かが見ていてくれる」のです。

日本が世界に誇る映画ジャンル、時代劇。その時代劇を支える斬られ役にスポットを当てた映画となれば、当然地味な映画になるはず。
ところがハリウッド仕込の31歳の日本人監督と撮影監督を始めほぼ外国人だらけの主要スタッフが用意したのは時代劇の格好良さを最大限に活かしたCG全開のOPと、時代劇の大スター・松方弘樹さんによる「遠山の金さん」を彷彿とさせる迫力満点の殺陣シーン。

特に当たり前のように毎週TVで時代劇を見ていた世代にとってはこの殺陣シーンは懐かしさがある一方で、TVでは出せない映画ならではの迫力を兼ね備えているため、この意表を突きながらも抑える処はしっかりと抑えるOPに心は既に鷲掴み状態ですよ。

ただこの時代劇ファンを大いに喜ばせるOPが終わると、待っているのは時代の波に流され仕事が激減していく老いた大部屋俳優の悲哀。
金目しか考えないプロデューサーと時代劇の魂も知らぬ軟派監督と時代考証の欠片もない売れっ子が中身のない時代劇もどきを作り、若い大部屋俳優たちはその波に乗ることこそが正しいと思ってしまう悲しき流れ。
唯一、香美山清一に殺陣を教わりたいと願い出る伊賀さつきだけが希望の星であっても、彼女もまた仕立てから吹替役者を経てヒロインへと出世し、京都を離れてしまう。

さらに俳優を辞める仲間もいれば、「何で京都の時代劇を守ってくれなかったんですか」と悔しさをぶつけてくる若者もいる一方で、映像の仕事はなくなり、左肘の悪化で刀も握れなくなり、映画村内での斬られ役ショーが引退興行になってしまう老兵の引退を労う花道は全く用意されない淋しさ。
若くして亡くした妻への愛と、弟子に教えた「努力していれば、必ずどこかで誰かが見ていてくれる」という信念で斬られ役一筋として生きてきた男へのこの悲しき仕打ちに、これが大部屋俳優の現状とはいえ、見ているのが辛かったです。

でも出世したさつきと大御所・尾上がこの老兵との映画での共演を望み、そのさつきが自ら山村まで引退した香美山先生を説得しに行くと、少年時代を思い出して野山を駆け回り、夕陽を背にシルエットで師弟の殺陣稽古を見せるシーンを皮切りに、この映画は一気に斬られ役一筋で生きてきた男への敬意と愛で観客の涙腺を崩壊させてくれるんですよね。もうこれがたまらんのです。

昔の仲間を集め、一世一代の大仕事に挑む斬られ役一筋の老兵。かつて太秦城のお姫様を「甘ったれるな!」の一言で見事に復活させたその殺気を再び身に纏い、左肘の調子が悪く見せ場がカットされようとしても心を入れ替えたプロデューサーに救われた恩を、自分をずっと支えてくれた全ての関係者への恩を、斬られ役として大いに主役を輝かせることで、そして見事に斬られて舞い落ちる桜と共に散る演技で立派に返す。

特に一度大御所に斬られるものの、再び立ち上がりさつきに斬られるくだりは香美山先生のアドリブだったのではと思えるほど熱き魂が込められたもの。
大御所だけでなくお姫様も輝かせたいという斬られ役としてのプライドと、自分に花道を用意してくれた弟子への感謝、そして愛弟子のさらなる出世を後押ししたいという師匠としての親心。この3つの想いがあの見事な海老反りとして表現される。これぞ福本清三先生にしか演じれない名演技として表現される。

どこかで誰かが見ていてくれる。
これは福本清三先生にとっては決して他人事ではない言葉。

20年前に「探偵!ナイトスクープ」に依頼文を出した依頼者も、『ラスト・サムライ』への出演を成し遂げた日本人キャスティングスタッフも、そして福本先生を「時代劇のカリスマ」と称する時代劇ファンたちもずっとこの斬られ役一筋の名優の姿を見てきたからこそ、「徹子の部屋」への出演も、『ラスト・サムライ』での共演が縁でトム・クルーズからもハリウッドへのお誘いを受けたという史実も、そして70歳にして初主演のこの映画も感慨深いものになるんですよね。

電光石火の如く消えていく俳優もどきには出せない、この職人のような名演技。それは本物を知る者にしか出せない唯一無二の魅力。
そんな福本清三先生の魅力を最大限引き出す武術経験豊富なヒロインの殺陣、影で表情を巧く隠すカメラワーク、クライマックスを大いに盛り上げる音楽や監督の演出。その全てに斬られ役一筋で生きてきた老兵への敬意が込められているからこそ、時代劇ファンには是が非でも見ていただきたい。そんな素晴らしい映画でした。

深夜らじお@の映画館が見てきた関西先行上映での観客の年齢層は意外にも幅広いものでした。これが福本清三先生の魅力なんでしょう!

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2. 太秦ライムライト  [ 象のロケット ]   2014年07月22日 14:33
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3. 『太秦ライムライト』をシネマート六本木2(B1F大)で観て、涙ふじき★★★★  [ ふじき78の死屍累々映画日記 ]   2014年08月20日 00:06
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この記事へのコメント

1. Posted by カシス☆   2014年06月20日 14:23
はじめまして
こんな素晴らしい映画ができたんですね!知らなかっです。でも福本清三さん主演映画は作られるべき・・・って思ってましたからなんだか嬉しいです♪
ラスト・サムライのボブ、寡黙ながらも存在感大きかったですね
斬られ役として、斬られ方へのこだわりバリエーションのあみだしも素晴らしく、感嘆してました(過去に何度かトーク番組でみました)
『ほなまた斬られてきまっさー』
って感じの気さくさがすごくよかった
それから
暴れん坊将軍スペシャルでの吉宗との1対1の勝負はすごい見応えでした。

福本清三さんの映画記事が嬉しくて色々書かせていただきました。
でわ
2. Posted by にゃむばなな   2014年06月21日 12:00
カシス☆さんへ

こちらこそ、はじめまして。
そこまで福本清三先生への敬愛があるのでしたら、是非こ映画をご覧になって下さい。
全国公開は7月12日〜ですから。
3. Posted by ノラネコ   2014年07月21日 21:00
>どこかで誰かが見ていてくれる

正にこの映画の存在がその証明ですよねえ。
オープニングの「300」かよ!と思わされる劇画調から、クライマックスの正統派大チャンバラまで、時代劇への愛に溢れた作品でした。
4. Posted by にゃむばなな   2014年07月21日 23:18
ノラネコさんへ

この映画の企画からして、本当に時代劇に対する愛に満ちた作品でしたね。
いや〜、本当にいい映画でした!
5. Posted by ふじき78   2014年08月19日 07:55
海外で賞を貰った凱旋興行という事で見てきました。うわ、おもしれえ。
ほとんど知られてないのが勿体ないいい映画でした。あー、もう、興行にかかる映画が多すぎる。
6. Posted by にゃむばなな   2014年08月22日 00:16
ふじき78さんへ

ほんと、こういういい映画がほとんど知られていないのが残念なんですよね。
先日の福本先生の主演男優賞受賞がヒットに繋がればいいのですが。
7. Posted by ジョニーA   2014年09月13日 00:05
ギリギリで間に合って観て参りました!
ほんと、最初にナイトスクープに依頼を
出した人、嬉しいやろうなぁーーー(ソコ?)
台詞が少なくても、その一挙手一投足こそ
が福本先生の「言葉」であり「表現手段」
なのですもんねー。脇役人生51年の集大成
を観せてもらえて、至福の時間を過ごせま
した!ラストシーン、綺麗だった〜〜
8. Posted by にゃむばなな   2014年09月14日 10:31
ジョニーAさんへ

ほんま、あの依頼者は嬉しいでしょうね〜。
福本先生の人生そのものが描かれているような映画ですからね。
9. Posted by kajio   2014年10月24日 19:07
『イン・ザ・ヒーロー』を観た後にこれを観てしまうと、イン・ザ・ヒーローもあれはあれでええけど、先に今作みたいなのを作らずにイン・ザ・ヒーローを作るだなんて、老舗の東映は一体何をやっとるんや、と言わざるを得ませんね…

10. Posted by にゃむばなな   2014年10月25日 15:52
kajioさんへ

もしこの映画がなければ『イン・ザ・ヒーロー』はそこそこの映画として評価されていたかも知れませんが、なまじこの映画を見てしまうとねぇ〜。
東映もこういう映画を作れるようにならないと、東宝との差はどんどん広がっていくばかりですよ。

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