2014年09月03日

『めぐり逢わせのお弁当』

めぐり逢わせのお弁当600万分の1のミスが繋ぐ明日への希望。
第66回カンヌ映画祭において観客賞を受賞したこのインド映画。お弁当の誤配をきっかけにメールでも電話でもない手紙で交流を深めていく男女を、安易に恋愛関係に持っていくようなことはせず、大人の距離を保ったまま絆を深めていく姿を見せていく心地よさが素敵な映画でした。

インドには各家庭で調理した温かいお弁当を奥様から預かり、昼休み前に旦那が働くオフィスに届け、昼休み後には空になったお弁当箱をまた各家庭に送り届けるというダッバーワーラーという職業があるそうで、ハーバード大学による現地での調査によると5,000人近いダッバーワーラーが誤配する確率は年間で600万分の1だとか。

そんな奇跡に近い、別の見方をすればパーフェクトを拒んだ恥ずべき数字に着目して作り上げられたこの作品が描くのは、家庭に関心のない夫に不満を抱く一時の母イラと、妻に先立たれ定年退職目前の孤独に暮らすサージャンの文通を通して各々が孤独から解放されていく姿。
なので恋愛感情を多少抱くことはあっても、男女関係に陥ることもなければ、インド映画特有の突然集団ダンスもない、正統派で大人の映画に仕上がっているんですよね。

しかもイラの料理から悩みまで全ての相談に乗ってくれるマンションの上の階に住む声だけの出演のおばさんと、サージャンの後任としてやってきた孤児院出身のシャイクという2人の脇役が凄くいい味を出しているので、イラが浮気夫を見限り人生を前に進もうとする姿も、サージャンがシャイクの結婚式に出席するなど久しぶりに家族体験をしたことで心に潤いが戻り始めている姿も凄くステキに見えてくること。

ナンと一緒に来る手紙と相手を想って作られたお弁当を楽しみに待つサージャン。愛というスパイスで味付けされたお弁当を時に一人で味わい、時にシャイクと2人で味わう。そしてシャイクの家族とも交流を持つようになる。それらはサージャンにとって小さな家族団欒のような時間。

空のお弁当箱と一緒に返ってくる返事の手紙に悩みの解決を期待するイラ。無関心な夫とは違い、お弁当を全て残さず食べてくれたうえにおばさんと同じように相談にまで乗ってくれる文通相手は、イラにとって自分の存在を認めてくれる家族のような存在。

だからこそ、まだ見ぬ文通相手を恋愛対象として勘違いしないようにと、サージャンは直接逢う機会にもイラの前に名乗り出ることはない。自分がイラと共にブータンに行ってみたいと書いたことが単なる妻を亡くした淋しさを埋めたいだけの妄言と気付いたから。

イラもサージャンと逢えなかったことと夫の浮気発覚、父の死をきっかけにブータンに移り住む決心をする。いつまでも誰かを頼るだけの存在から、ナーシクに移り住んだと聞かされたサージャンのように自分の足で新しい人生を歩むために。

人は間違った電車に乗っても正しい場所に着く。

1ルピーの価値が5倍になるという国民総幸福量が世界でもトップクラスのブータンに向かうイラと、ダッバーワーラーを通してイラの家を探すサージャンが出会うこともないまま終わるこの映画。
この2人がムンバイで出会うのか、ブータンで出会うのか、それとも出会うことのないままなのか。
その結末は全てこの映画を楽しんだ観客に委ねる。なぜならこの映画はイラとサージャンが孤独から解放される姿を描いた作品。お弁当の誤配送という間違った電車の行く先を描くような野暮なことはしないのだから。

深夜らじお@の映画館はインドのお弁当を食べてみたくなりました。

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1. めぐり逢わせのお弁当 ★★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2014年09月05日 16:20
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5. めぐり逢わせのお弁当 / Dabba / The Lunchbox  [ 勝手に映画評 ]   2014年09月06日 07:55
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11. 「めぐり逢わせのお弁当」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2015年03月16日 18:26
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12. めぐり逢わせのお弁当  [ いやいやえん ]   2015年03月23日 15:19
【概略】 インド・ムンバイ。主婦・イラが夫のために作ったお弁当が、ダッバーワーラー(弁当配達人)によって、なぜか男やもめのサージャンの下に届けられ…。 ドラマ インドの文化って面白いねー。弁当届けるのに持たせるんじゃなくて人を介するのか。 ムンバイで

この記事へのコメント

1. Posted by ジョニーA   2014年09月24日 01:34
文通で心を通わせるも、すれ違いすれ違いで
結局会う事はない。男女ながら恋愛感情はな
く、真のパートナーであることを最後に確認
する、というストーリーが、オーストラリア
のクレイアニメ「メアリー&マックス」を連
想させました♪未見でしたらぜひ。お勧めで
す♪
2. Posted by にゃむばなな   2014年09月24日 22:53
ジョニーAさんへ

オーストライリアのクレイアニメですか。
全く未見どころかタイトルも知らなかったので、探してみます!
ありがとうございます!
3. Posted by kajio   2014年10月12日 13:19
上の階のおばさんの、最後の最後まで姿を見せないし、見せない理由も手紙で明かされているにも関わらず、それでもちょっとは出てくるんじゃないかと思わせる描き方は凄いと思いました。

4. Posted by にゃむばなな   2014年10月12日 13:41
kajioさんへ

上の階のおばさんが結局最後まで出てこなくてもおかしいとは感じない。
そういうところもこの映画の巧さでしたね。
5. Posted by latifa   2015年03月16日 18:30
にゃむばななさん、こんにちは!
レンタル開始になったので、さっそく見てみました。
いやー、今まで見た賑やかなインド映画とは全然違って、しっとり物悲しさが漂っていて、とても好きな雰囲気でした。
あのラスト、その後の2人を色々考えちゃいますよね・・・
6. Posted by にゃむばなな   2015年03月19日 11:34
latifaさんへ

今のインド映画はこれまでのダンス映画とこういうドラマ映画との2つの流れがあるみたいですね。
ダンス映画もいいですが、やはりこういうドラマは『モンスーン・ウェディング』などと同様にいいですよね。

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