2014年10月08日

『蜩の記』

蜩の記武士としてどう生きるべきか。
これは構成以外に関しては実に美しい映画でした。四季折々の風景、役者陣の所作、武士としての気高き想い、「パリは燃えているか」でお馴染みの加古隆先生の楽曲、そのどれもが美しいこと。
しかしながらテーマだけでなく数多いエピソードも絞り切れていないこの構成は全くもって美しくないのが残念でなりませんでした。

武士とは理不尽な命令であろうと受け入れても、他人に対しては理不尽な要求はしない。つまり人としてどう生きるべきかを実践すべき立場におり、かつ誰よりも正義を貫かねばならない。それが「義を見てせざるは勇無きことなり」を学んだ者の務め。

7年前に大殿の側室との密通により、10年に及ぶ藩の家譜編纂の後に切腹を命じられた戸田秋谷はまさにこの言葉の意味を誰よりも知る武士。立場など関係なく畑仕事もすれば、農民の良き相談役も引き受ける。
対して3年後の秋谷切腹までの監視役及び家譜編纂の助手として戸田家と共に生活をすることになった檀野庄三郎は、まだまだこの言葉の真意を理解しきれていない若造。しかし人を想う心は戸田郁太郎との取っ組み合いを男同士の会話とする行動などからも、秋谷同様に美しきものを持っている武士。

現代の感覚で言えば、播磨屋の先代の娘という身分を武家の娘と偽り大殿の正室となった御美代の方と商人の財力を後ろ盾としたい家老・中根が企てた世継ぎ騒動を幕府に隠すためとはいえ、病床の大殿から無実の罪を背負ってくれと頼まれ受け入れる秋谷はあまりにも不憫でなりません。
彼は世継ぎ騒動で自分の息子を殺された幼馴染でもある側室のお由の方の自害を食い止めただけでなく、この一件が表に出ぬようにと藩を守るために自分の命を投げ出そうと大殿からの理不尽な命令も受け入れた、まさに武士の鑑なのですから。

ですから武士の鑑たる存在である秋谷と3年どころか1年でも共に過ごせば、庄三郎が武士として美しきものへと昇華していくのは自明の理。逆に彼が疑問に思い調べていくうちに明るみになっていく御家騒動の事実の裏に隠された真実はどれもが武士としてだけでなく、人としても恥じるべきことばかり。

農民の子であろうと友の敵を討つため動かねばならない。その行動を止めはしないがしっかりと見届ける。そして正しいことをした若者の命は切腹を待つ命よりも大事にせねばならない。それこそが「義を見てせざるは勇無きなり」の教え。

御家騒動の真実を寺の記録には残すが、家譜には残さないことに理不尽なものを感じようとも、卑しきことはせぬのが武士の務めならば、それを全うしようとする者が放つ気高き武士の美しさを汚すことは何人にも出来ないもの。

岡田准一さんの全く以てブレない殺陣といい、女性陣の凛として着こなしといい、役者陣全てに共通する立ち居振る舞いといい、所作一つ一つに四季折々の風景と同様の美しさを感じさせるがゆえの、ラストの死装束で堂々と歩くも妻や家族への感謝を忘れずに振り返る秋谷の行動もまた美しいならば、そのシーンでBGMとして使われる加古先生が作られたテーマ曲も美しいこと。

なのに食卓に並ぶ卵のくだりなど、「武士としてどう生きるべきか」という主題を描くうえで別に必要でもない余計なくだりが少なからずあるので、映画としては全体的に美しさがぼやけてしまっているのが残念なところ。
もっといらぬシーンを削り、もう少し時間を掛けて深みを出すべきところは出す。そういった演出がなされていないので、ラストも感涙するまでにはいかないのが実にもったいないこと。

是非小泉堯史監督も枚方パークの便乗宣伝ポスターを見ていただき、ここまで潔いと逆に美しさも感じるものであることを学んでいただきたいですよ。

ちなみに「蜩の記」を「枚方の記」と便乗したポスターの宣伝文句はイカの通りでゲソ。
(蜩)「侍として、あるがまま、正直に生きたい。」
(枚)「兄として、ひらパーに、正直に行きたい。」
(蜩)「十年後の切腹を命じられた男。残された時間を、あなたならどう生きるか。」
(枚)「年間100万人動員を命じられた男。残された時間を、あなたならどうもがくか。」
ひらパー





深夜らじお@の映画館はひらパーのネタセンスは大好きです。

※お知らせとお願い
【元町映画館】に行こう!

acideigakan at 15:06│Comments(6)clip!映画レビュー【は行】 

この記事へのトラックバック

1. 蜩ノ記  [ Akira's VOICE ]   2014年10月08日 15:34
鉄板を堪能できる時代劇。  
2. 映画・蜩ノ記  [ 読書と映画とガーデニング ]   2014年10月08日 16:06
2014年 日本原作 葉室麟「蜩ノ記」 ある罪で十年後の夏に切腹を命じられ、不条理な運命にある戸田秋谷(役所広司)彼は、いよいよ三年後に迫った切腹までに藩史の編纂を仕上げるよう命じられ、その作業の過程で藩の重大な秘密を握っていたそして、彼の監視役とし...
3. 『蜩ノ記』 (2014)  [ 相木悟の映画評 ]   2014年10月09日 11:24
高潔なる本格時代劇のお目見えとなる筈が…?! 若者を集客する娯楽作から年配層好みの激渋作まで賑わいをみせている時代劇。そんな中、正統派はコレだ!と突きつける真打登場となる筈だったのだが…。 本作は、黒澤明監督の遺伝子を受け継ぐ愛弟子、小泉堯史監督作品。..
4. 蜩ノ記 ★★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2014年10月09日 11:53
直木賞作家の葉室麟のベストセラー小説を、『雨あがる』『博士の愛した数式』の小泉堯史監督が映画化した人間ドラマ。無実の罪で3年後に切腹を控える武士の監視を命じられた青年武士が、その崇高な生きざまを知り成長していく姿を師弟の絆や家族愛、夫婦愛を交えて描き出...
5. 『蜩ノ記』 (2014) / 日本  [ Nice One!! @goo ]   2014年10月10日 08:29
監督: 小泉堯史 原作: 葉室麟 出演: 役所広司 、岡田准一 、堀北真希 、原田美枝子 、青木崇高 、寺島しのぶ 、三船史郎 、井川比佐志 、串田和美 、吉田晴登 公式サイトはこちら。 第146回直木賞を受賞した葉室麟の小説を、「雨あがる」「博士の愛し...
6. [映画『蜩の記』を観た(寸評)]  [ 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 ]   2014年10月10日 13:29
☆・・・観るつもりなく、特別上映の『フレンチコネクション』を目当てに映画館に行ったら、時刻を間違えていて、やむなくこちらを観た。 が、淡々とした話ながらも、何故に、役所広司演じる男が「十年後の切腹を申しつけられるに至ったか?」という謎の提示とともに目が...
7. 映画 「 蜩(ひぐらし)の記 」  [ 徒然なるまま”僕の趣味と遊ぶ” ]   2014年10月10日 20:38
原作は、葉室 麟著の第146回直木賞の受賞作のベストセラー時代小説です。前々回見た 「 るろうに剣心 」 は、コミックが、そして前回は 「 柘榴坂の仇討 」 は、直木賞選考委員の浅田次郎の時代劇小説が、 そして、今回の 「 蜩の記 」 は、浅田次郎氏をして、「これ...
「蜩ノ記」は10年後に切腹を命じられた武士が藩の歴史である家譜を記録として残すために全うし、切腹までの間の3年間に監視役を命じられた武士からみた事件の真実を追ったスト ...
9. 『蜩の記』をトーホーシネマズ日本橋9で観て、ジャンプ的ではないふじき★★★  [ ふじき78の死屍累々映画日記 ]   2014年10月13日 20:58
五つ星評価で【★★★とても美しい映画であるとは思う】   映画の中に展開する四季折々の風景や、清廉潔白である武士の人柄など、とても美しい映画。だが、待て。これを娯楽映 ...
10. 蜩ノ記  監督/小泉 堯史  [ 西京極 紫の館 ]   2014年10月15日 21:27
【出演】  役所 広司  岡田 准一  堀北 真希  原田 美枝子 【ストーリー】 7年前に前例のない事件を起こした戸田秋谷は、藩の歴史をまとめる家譜の編さんを命じられていた。3年後に決められた切腹までの監視役の命を受けた檀野庄三郎は、秋谷一家と共に生活するう...
11. 『蜩ノ記』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2014年10月17日 12:28
□作品オフィシャルサイト 「蜩ノ記」□監督 小泉堯史□脚本 小泉堯史、古田求製、作市川南、田村明彦□原作 葉室 麟□キャスト 役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高、       寺島しのぶ、三船史郎、井川比佐志、串田和美■鑑賞日10月5日
12. <蜩ノ記 試写会>  [ 夢色 ]   2014年10月17日 23:53
公開前なので、念押しして、ネタバレ注意!です。単に感想だけ連ねてますが。今回は役所さんが主役で、岡田くんは官兵衛とはまた違う とても若いというか青いという感じの侍、の役でした。初々しかった!堀北真希ちゃんも、とっても可憐で、着物姿が良く似合う普段の演技...
13. 蜩ノ記 : 武士道の奥深さを感じられる作品  [ こんな映画観たよ!-あらすじと感想- ]   2014年10月18日 15:59
 超残念!!、結局2位も確保できないとは…。はい、広島カープのことです。確かにベテランは頼りになりませんが、若手は12球団でもトップレベルの戦力だと思います。まあ、首
14. 蜩ノ記  [ 花ごよみ ]   2014年10月20日 21:29
  葉室麟の直木賞受賞の同名小説を映画化。 監督は小泉堯史。 主人公、戸田秋谷は役所広司、 共演の岡田准一が檀野庄三郎を演じます。 戸田秋谷の娘に堀北真希、 妻には原田美枝子。 10年後の切腹 それが3年後に迫った戸田秋谷(役所広司)を 監視する命を受け、...
15. 蜩ノ記  [ 映画好きパパの鑑賞日記 ]   2014年10月25日 07:29
 古き良き侍の精神をよく映し出した作品だと思います。映像も美しく、善も悪も飲み込むのか、義を貫くのか、人としての正義を考えさせられる作品。でも、感想をみると、特攻の美化につながるとかとんでもないことを書いてあってびっくり。文化の断絶がこんなに深刻なので…
16. 映画「蜩ノ記」  [ FREE TIME ]   2014年10月29日 00:08
映画「蜩ノ記」を鑑賞しました。
17. 蜩ノ記  [ C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜 ]   2014年12月23日 21:32
蜩ノ記 '14:日本 ◆監督:小泉堯史「明日への遺言」「博士の愛した数式」 ◆出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高、寺島しのぶ、三船史郎、井川比佐志、串田和美、吉田晴登 ◆STORY◆7年前に前例のない事件を起こした戸田秋谷(役所広司)は、藩...
18. 蜩ノ記(ひぐらしのき)  [ のほほん便り ]   2016年05月27日 08:38
いろいろな意味で、美しい映画でした。それぞれの、生きる姿勢というか、心根の持ちようといい、映像といい、キャスティングといい… 第146回直木賞を受賞した葉室麟の小説を、「雨あがる」「博士の愛した数式」の小泉堯史監督のメガホンで映画化した時代劇。 「派手な
19. 蜩ノ記  [ 象のロケット ]   2016年05月29日 09:02
藩主の側室と不義密通した罪で、10年後の夏に切腹すること、それまでに藩の歴史である「家譜」を完成させることを命じられた、羽根藩の元郡奉行・戸田秋谷。 切腹の日は3年後に迫っていた。 元右筆(文書係)の檀野庄三郎は、秋谷を監視せよとの藩命を受け、秋谷とその妻・

この記事へのコメント

1. Posted by Ageha   2014年10月13日 02:26
すいません、見に行ってないのにコメントで。
m(_ _)m

永遠の0のときも
「たいくつな時間0」とかいうて便乗ポスターを作ってました。映画の大ヒットでもってひらパーは全国的にも有名になったでしょうね。
ただ、今回の映画ってどっちかいうと役所広司さんが主演のはずなのに
パロディポスターがドドーンと全国のTOHOシネマズに出てるのってどうなんですかね。(^_^;)
ちなみに私の地元なんで駅も電車の中吊りもまじであちこちでこれ見かけます。
あ〜またやっちまったかって。(爆)
・・・ちなみに現在65万強。去年95か6をたたき出したんで園長に就任させて
今年あとプラス5,6万のっけたいようですがさてどうなりますやら・・・(^_^;)
2. Posted by ふじき78   2014年10月13日 07:44
私は卵のシーンは逆に好きでした。あのシーンだけが登場人物の人間味がちゃんと出てる感じがして。

役所広司さんが主役であるのは確かですが、岡田君の出番も主役と同じくらい多かったすな。
3. Posted by にゃむばなな   2014年10月13日 14:53
Agehaさんへ

この商魂は素晴らしいですよ。
ひらパーから遠かろうが関係なく宣伝する。
その攻め魂が目標達成には必要なのでしょう。
4. Posted by にゃむばなな   2014年10月13日 14:55
ふじき78さんへ

確かに人間味が描かれているシーンではあったのですが、それが後々に何かしらに繋がる訳でもなかったのが残念。
伏線にしてほしかったですよ。
5. Posted by FREE TIME   2014年10月29日 00:19
自分の信念に基づいて生きる戸田秋谷の生き様に心打たれる一方で、理不尽な世の中なのは昔も今も変わっていない事を痛感する映画でもありましたね。
ラストで切腹へと向かうシーンでは、何だか妙な爽やかさを感じてしまいました(汗)
6. Posted by にゃむばなな   2014年10月30日 11:05
FREE TIMEさんへ

戸田秋谷の生き様は素晴らしいんですよね。
理不尽なことでも受け入れるその覚悟。
さすが武士ですよ。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載