2014年12月20日

『バンクーバーの朝日』

バンクーバーの朝日差別にも負けず、野球で日系移民の希望となったチームがあった。ただそれだけで他に何も描いていない映画。
恐らく各事務所の圧力が入り乱れたがために、石井裕也監督を始め製作陣が映画製作に熱を入れることがなくなってしまったであろうことが容易に読めてしまう、本当に何とも残念な作品でした。

2003年のカナダ野球殿堂にその名が刻まれたことで再び脚光を浴びるようになった、カナダの日系移民の野球チーム:バンクーバー朝日軍。
体格差で負ける相手に対し、正攻法ではなくバントヒットの連続や果敢な盗塁で小回りの利かない白人チームを翻弄し、またアンフェアなジャッジを繰り返す審判に対しても決して逆らわずに、いつしか白人の観客までもファンにしてしまい、やがてはリーグ制覇まで成し遂げた、誇り高き我ら日本人の大先輩。

そんな歴史の闇に埋もれた先輩方をあの石井裕也監督がどう描くのかと楽しみにしていたのですが、前半から気になるのは妙にセリフが少ないうえに、野球を扱った映画の割には全く熱を帯びていないこと。

それでも試合のシーンが始まればちょっとは面白くなるかと思ったのですが、その肝心な試合のシーンも全くと言っていいほど野球映画として描くべきものを全く描いていないんですよね。

特にそれがよく分かるのがレジー笠原が偶然がきっかけで思いついたバントヒットを決めた直後からのシーン。相手の守備の隙をつき決めたバントヒットで出塁するとすかさず盗塁を決めるのですが、ここで監督は一切レジー笠原の足元を映し出してはいないのです。
野球が好きな方ならお分かりでしょうが、選手の実力を計る際に最も注目するのは守備でも盗塁でも打撃でも全て足の動き。一歩目からどう動くか。それでその選手の実力や本気度が伺えるのです。

しかし熱意を失った石井裕也監督はそういう大事なシーンでスクリーンに映し出すのは俳優の上半身だけ。守備に散った際も、他の選手がバントヒットを決める際も、映し出すのは全て上半身のみ。下半身どころか全身を移すこともほぼない。

さらに横浜高校時代に松坂大輔投手とバッテリーを組んでいた上地雄輔さんが捕手役をしているにも関わらず見せ場を作らなければ、亀梨和也さん演じるロイ永西の投球シーンも迫力を持って描かないなど、野球経験者をキャスティングしておきながらこの有り様。

結局、宮崎あおい、貫地谷しおり、ユースケ・サンタマリア、本上まなみといった豪華なチョイ役から察するに、このフジテレビ開局55周年記念作には多くの外部圧力、特に各事務所の「ウチの俳優を出すからには見せ場を…」という横槍ばかりが入ってしまった結果、監督:石井裕也・脚本:奥寺佐渡子という豪華な製作陣でさえ本来の実力を発揮できる状況ではなかったということなのでしょう。

だからこそ、優勝を決めたレジー笠原のホームインのシーンでも審判が「セーフ!」とジャッジするシーンも入れず野球映画としての盛り上がりが全くなければ、こんな差別と偏見の中でも野球を通じて戦い続けたという誇り高き日本人としてのアイデンティティーもない。史実をそのまま描いているだけで、そこに隠された選手たちの想いもさほど描かれていない。
これなら以前この史実を取り上げた「奇跡体験!アンビリーバボー」の再現VTRの方が遥かに面白かったですよ。

栃木県に巨大な日本人街のセットを作り、俳優陣が合宿までして野球に打ち込んでおきながら、外野が目に見えない圧力で映画をダメにしてしまう典型的な作品となったこの映画。
ただこの映画で素晴らしいと思えたのは名脇役でお馴染みの光石研さん・田口トモロヲさん・徳井優さんと、ヒロインとしての見事な目の演技を見せてくれた高畑充希さんだけでしたね。

深夜らじお@の映画館はこの映画を楽しみにしていただけに、この熱意のなさには本当にがっかりです。

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acideigakan at 23:47│Comments(8)clip!映画レビュー【は行】 

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この記事へのコメント

1. Posted by PGM21   2014年12月21日 11:04
何時もお世話になっております。

この映画は時代背景を踏まえて描いているのでその時代がどういう時代だったのかを考慮して観ないと面白いのか面白くないのかで観てしまう作品ではないと思います。
1935年〜1941年は日本が中国と戦争を開始した時代で今の時代のように喜びを大きく表現するような時代じゃなかったし、最終的には戦争で解散となりますが時代背景を確り認識しないと個人的にはどうなのかなと思います。
プレーの演技については妻夫木が野球経験があれば違ったのかなとは思います。
私はこういう事実があったという事を映画として残せただけでも大きいと思います。
あと今年もあの件よろしくお願いします。
2. Posted by にゃむばなな   2014年12月21日 14:18
PGM21さんへ

そういうお考えも理解出来るのですが、でもそれなら「アンビリーバボー」の再現VTRでも十分じゃないかと思えてしまうんですよね。
そしてそう思わせてしまうのはこの映画の弱さ。
これがこの映画が作られるまで知られていない史実なら、また話は違ってきたと思うんですけどね。
3. Posted by えふ   2014年12月21日 19:31
なんとも覇気のない作品で、、、
感動しそうな内容のわりには、
なんとももったいない作品と感じました。
そういう時代だったと言ってしまえばしかたありませんが。。。
4. Posted by にゃむばなな   2014年12月23日 00:33
えふさんへ

時代に合わせて映画を作るのはいいことなのですが、この物語の場合、この作り方で本当に良かったのか疑問ですよね。
5. Posted by FREE TIME   2014年12月23日 21:54
こんばんは。
おっしゃるとおり、大きく盛り上がるようなシーンが、あまりなかったですね。
それでもスポーツを通じて白人達に認められた一方で、戦争によって仲間達がバラバラになってしまう理不尽さと矛盾さを感じました。
やはり戦争はロクなもんじゃありません。
6. Posted by yukarin   2014年12月23日 22:42
こんばんは。
アンビリーバボーのVTRでは感動的だったので楽しみにしてたのに残念な感じです。
試合のシーンもあっさり....盛り上がりなかったですね。
俳優さんたちも見せ場がなかったのも残念でした。もったいない!!
7. Posted by にゃむばなな   2014年12月24日 11:19
FREE TIMEさんへ

野球として盛り上がるシーンがあって、なおかつ戦争に翻弄された人間ドラマを期待していたんですけど、それがありませんでしたね。
残念でしたよ。
8. Posted by にゃむばなな   2014年12月24日 11:20
yukarinさんへ

TV番組の再現VTRよりも感動的でも面白味もないのは残念でしたよね。
同じフジテレビ製作なのに…。

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