2015年02月18日

『フォックスキャッチャー』

フォックスキャッチャー嫉妬と孤独が愛を憎しみに変えてしまうのか。
スティーヴ・カレルが不気味で怖い。とてもカリフォルニアを激走した40歳の童貞男とは思えないほど、あの半開きの口が怖い。
そして全編に渡って漂うベネット・ミラー監督の淋しさを感じさせるような冷たく暗い演出。これもまた不気味で怖い。

アメリカ三大財閥の一人、ジョン・エルーテル・デュポン。レスリングを心の底から愛する優しきスポンサー。ただレスリングを下品なスポーツと蔑視する母親にはそのレスリング愛を理解してもらえず、より完璧を目指そうとしてしまう静かな男。

ロサンザルスオリンピック・レスリング金メダリスト、マーク・シュルツ。親代わりの兄を慕う優しき弟。ただ金メダルを獲っても正当に評価されない世の中に不満を抱き、やがてその不満はスポンサーに名乗り出てくれたジョン・デュポンにまで向けられる寡黙な男。

そして同じくロサンザルスオリンピック・レスリング金メダリスト、デイヴ・シュルツ。マークの兄にして妻と子供に恵まれ、レスリングのコーチとしてのオファーも受ける、普通に幸せを享受している男。

ジョン・デュポンが望むもの。それは愛する母親にレスリングに注ぐ自分の情熱を認めてもらいたいだけ。だから有能なマークを抜擢した。そのマークにメンタルという不安材料が見つかれば、デーヴを引き抜いた。全てはソウルオリンピックでの金メダル獲得のために。

マーク・シュルツが望むもの。それは「デイヴ・シュルツの弟」ではなく、一人の金メダリストとして世の中から認めてもらいたかっただけ。だからジョンの誘いを受けた。ジョンのデイヴ引き抜きに怒った。全てはソウルオリンピックでの金メダル獲得のために。

この2人に共通するもの。それは正当に評価されない現状に対する不満がもたらす孤独。自分にはない精神的満足を得ているデイヴ・シュルツへの嫉妬。
ただ2人ともデイヴ・シュルツを心から愛している。有能なコーチとして、優しき兄として、そしてソウルオリンピックでの金メダルを約束してくれる存在として。

ただその3人の関係は崩れる。デイヴ・シュルツの引き抜きによって。ジョン・デュポンの母親の死によって。マーク・シュルツのソウルオリンピックでの結果によって。

マーク・シュルツにとってジョン・デュポンは自分を正当に評価してくれる唯一の存在。デイヴのように子供扱いはしない。それが嬉しかったはず。

ジョン・デュポンにとってシュルツ兄弟は自分の夢を叶えてくれる唯一の存在。彼らが互いに協力し合えば金メダルを獲る瞬間に自分は同席出来るのは確実。それが嬉しかったはず。

でも満たされぬ愛にも近い想いが憎しみへと変わっていく。そしてその憎しみはやがて幸せを享受しているデイヴへの嫉妬を増幅させる。
ただそれは大人が抱く、自分の無能さに目を背ける嫉妬ではない。イジけた子供が抱く、愛を求める嫉妬。大人になれば心の調整で何とかなるはずの嫉妬。

なぜ大富豪ジョン・デュポンはデイヴ・シュルツを3発の銃弾で殺害したのか。
なぜ金メダリストのマーク・シュルツは小バカにしていた異種格闘技に身を落としたのか。

この2人に共通するもの。それは真っ白な雪と同じくらい純粋に愛を求める想い。
ただその求めていた愛が得られなかった時、純粋がゆえに嫉妬と孤独が闇へと彼らを導く。
そんな闇が手招きする不気味さが全編に漂う映画でした。

深夜らじお@の映画館は代表最終予選が「シュルツVS.シーツ」と聞いて、つい広島東洋カープ助っ人対決か!と熱くなりました。

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この記事へのコメント

1. Posted by Caine   2015年02月19日 00:43
マークの無言がなんともよく解りました。言えないですよね、自分がどう思ってるかなんて。だって自分に金メダルを獲らせたい兄の想いは当然解るし、そもそも兄弟だし。
なんともやりきれない話なのは間違いないです。
2. Posted by にゃむばなな   2015年02月19日 22:48
Caineさんへ

マークの無言。兄に対する想い、ジョンに対する想い。
どちらにも根底には愛があるからこそ、逆に何も言えなくもなる。
この立場は辛いですよね。
3. Posted by mig   2015年02月19日 23:09
こんばんは。
外から4度も入れたんですがiPhoneから入らないのかなーエラー

作品としては話は単純あっさりとした実話の映画化でした
キャストの名演技がみどころかな。
50シェイズ〜は私は
惹かれ合うのに男女のあれの好みの違いでうまくいかないのが面白く観ました。でもTBも入らないみたいです。

4. Posted by にゃむばなな   2015年02月19日 23:23
migさんへ

ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

この映画は監督の演出も素晴らしいと思いますが、それ以上にスティーブ・カレルの不気味な演技。マーク・ラファロやチャニング・テイタムも素晴らしいですが、やはり彼に尽きますよね。
5. Posted by たいむ   2015年02月23日 08:20
いよいよアカデミー賞の発表ですね。
監督賞、どうでしょう?(^^)
6. Posted by にゃむばなな   2015年02月23日 09:25
たいむさんへ

前哨戦の結果からいくと難しいでしょうね。
でもカンヌでは獲ってますからね。
7. Posted by yukarin   2015年02月26日 12:48
こんにちは。
スティーブ・カレルの演技は素晴らしかったですね。不気味な雰囲気は本当に怖かったです。
アカデミー賞は残念でした...
8. Posted by にゃむばなな   2015年02月26日 22:51
yukarinさんへ

スティーブ・カレルと聞いてイメージしたことが微塵もない。
それほど不気味な存在感でしたね。
でも彼がこういう役でオスカー獲っちゃったら…それはそれでどうなんでしょう?

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