2015年03月06日

『妻への家路』

妻への家路夫は必ず帰ってくる。妻も必ず帰ってくる。
中国第五世代の張芸謀監督も丸くなったと見るのか、それともパワーダウンしたと見るのか。どちらにしろ、『菊豆』や『秋菊の物語』の頃の張芸謀監督はこの映画にはいない。
それをモデルチェンジしたと見るのか、それとも政府の圧力に負けたと見るのか。

文化大革命により20年以上の投獄生活を送らされた元大学教授の夫・陸焉識と、その夫が一度逃亡した際に家に入れてあげることが出来なかったことにより心因性記憶障害に陥った妻・馮婉玉。
5日に帰ってくると手紙をくれた夫を毎月駅前で待ち続ける妻も、そんな妻に夫本人だと認識してもらえず、仕方なく夫からの手紙を読む人として妻の近くにいることにした夫もまさに中国の黒歴史・文化大革命の被害者そのもの。

ただこの映画にはそんな文化大革命への強い批判があまり存在していないんですよね。かつての張芸謀作品なら文革への強い批判を描くことで市井の人々の喜怒哀楽が際立つ演出が多かったのに、この作品はただ静かに、そして優しく「ある夫婦」を描くだけ。

逃亡犯の夫のために作った饅頭が共産党員の邪魔により無残にも地面に転がり落ちる、人が本来持つ愛や優しさを中国共産党が踏みにじるような演出はOPでの橋の上の引き裂かれるシーンのみ。
それ以外はまるで文化大革命の被害者が世間から忘れ去られたかのように、ただ少ないセリフで静かに描くだけ。妻の記憶が止まったままでも時間は容赦なく過ぎていくことを老けていく容姿で描くだけ。

だからこそ、そこがこの映画の評価の分かれ目。
ある夫婦の愛を描くその裏に文革への怒りがなくなったと見れば、張芸謀監督もパワーダウンしたと感じる。
ある夫婦の愛を描くことに専念し文革への怒りを封印したと見れば、張芸謀監督もモデルチェンジしたと感じる。
ある夫婦の愛を描くだけで文革も歴史の1ページにしたと見れば、張芸謀監督も丸くなったと感じる。
要はこの映画を見て張芸謀監督への印象が「ヘタレになった」「大人になった」「老けた」のどれになったかがそのままこの映画の評価になるのではと思うのです。

娘の丹丹が踊るバレエの演目が銃を持つ共産党員美化だとか、夫の銃殺刑回避を懇願した馮婉玉に何らかの見返りを求めた「方」という邪な共産党員がいたという地味な政府批判はあれど、哀しき愛を描くことで中国の未来を憂いていた頃の張芸謀監督はここにはいない。
ただどんなに苦しく悲しい状況でも消えることのない愛を描く張芸謀監督はまだここにいる。

雪が舞う駅前で夫婦揃って陸焉識を待つラストシーン。
妻が夢見ているのは夫が笑顔で帰ってくるその姿。
夫が夢見ているのは妻が笑顔で自分のことを認識してくれるその姿。
でもその姿が見れる日は来ないかも知れない。

そんな時代と政策に翻弄された市井の人々を忘れてはいけない。そんな怒りも感じないのは、現代中国が過去に向き合わない傾向にあることへの警告なのか。
それもまた見る人によって評価の分かれるところなのでしょう。

深夜らじお@の映画館は1990年代の張芸謀作品が好きです。

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かつてこれほどまでに切ない映画を観た事がない。 ラストシーンの一コマは、今でも脳裏から離れず、多分一生忘れることはないでしょう。
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7. 妻への家路  [ 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜 ]   2015年08月09日 18:14
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8. 「妻への家路」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2015年12月13日 19:20
いやー、泣かされました・・・4つ★半

この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2015年03月14日 23:15
にゃむさん☆
公式サイトを読むとどうやら政府の圧力に負けたというのが正解のようですね。
ただし、私はあまり監督の他の作品を観てないからか、このあえて描かずに「行間」に込めた政府批判が、かえって夫婦の愛に集中することができて結果良かったように感じました。
2. Posted by にゃむばなな   2015年03月14日 23:18
ノルウェーまだ〜むさんへ

そうですか、この巨匠もついに負けてしまいましたか…。
でもその負けをあえてモデルチェンジしたと見たいですね。
これからはこういう夫婦愛に特化した作品を撮るのもいいのかと思いましたよ。
3. Posted by latifa   2015年12月13日 19:19
にゃむばななさん、こんにちは。
今年見た映画の中で、中国映画って、少なかったのですが、印象的な作品でした。
私も、かつてのチャン・イーモー作品が好きです。
4. Posted by にゃむばなな   2015年12月16日 23:55
latifaさんへ

かつての国家を批判していた頃の張芸謀監督作品が懐かしいですね。
あの頃に戻って欲しいですわ。

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