2015年03月17日

『唐山大地震』

唐山大地震家族は永遠に家族だ。
大地震は街を崩壊させる、人々の生活を崩壊させる、多くの人生を崩壊させる、そして親の心も崩壊させる。でも家族の絆だけはどんな大地震でも絶対に崩壊はしない。32年という月日が流れても崩壊しない。
失うことの意味は失って初めて分かる。そして親の気持ちは本当の意味で親になって初めて分かる。

1976年7月28日、中国・唐山市を襲った大地震。石造りの建物を次々と瓦礫の山に変え、多くの人生を容赦なく奪ったこの大地震の揺れを特撮のように見せることで現実味に欠けたものとして見せるのは残念だったものの、揺れが収まった後に繰り広げられる無情な現状は地震の経験有無に関係なく、涙なくしては見れないものです。

特に子供を助けにいった夫を亡くしたうえに、瓦礫の下敷きになった双子の娘ダンと息子ダーの命を選択しなければならないユェンニーの苦悩。
日本でなら母親に選択を迫る時間があれば2つの幼い命を助けるべく誰もが動くものが、震災後進国・中国ではそんな常識は存在しない。それどころか警察も消防も助けに来てくれない。共産党を守るだけの人民解放軍も生き残った被災者しか助けてくれない。そんな状況下で弟の命を選択した母親の苦しさ、その母の決断を聞いてしまった娘の苦しさ。それは想像を絶するものです。

しかも亡き夫の母親は生き残ったダーを引き取りたいと「わざわざ遠くから来たのに」と被災者よりも自分の気持ちを尊重しろとばかりに非常識な態度を取れば、家族の遺体を街中に残したまま被災者は全員移動させられるというのも日本では考えられないことばかりなので、この映画を見て泣けなかったという方の意見もよく分かります。文化の違い、政治の違い、民度の違い、震災経験の違いがこの映画にはあまりにも多くて、地震大国で生まれ育った我々の感覚で見てしまうと違和感が拭えませんからね。

ただ死んだと思われていたのが奇跡的に息を吹き返し、人民解放軍に所属する養父母に溢れんばかりの愛を注がれながら育てられるダンの姿と、左腕を失ったダーを育てながら自分を庇った夫や見殺しにしてしまった娘の死に責任を感じながら必死に生きるユェンニーが同時進行で描かれる中盤以降は、「家族は永遠に家族だ」と「失うことの意味は失って初めて分かる」いう言葉の重みが凄く響きます。

血の繋がりがなくても家族には変わりないという意味と、唐山にいるであろう本当の家族をいつか探しに行けという意味を含ませた「家族は永遠に家族だ」。
家族4人で幸せになる未来を失ったからこそ、亡き夫と娘が帰って来ることの出来る場所は失いたくないという苦しさが伝わる「失うことの意味は失って初めて分かる」。

ダンは母親に見捨てられた記憶が、ユェンニーは娘を見捨てた過去が、ダーは苦しみから解放されない母の姿が、家族は崩壊したままという現実を知らしめる。

しかし2008年5月12日の四川大地震がダンに苦渋の決断を迫られた母親の気持ちを理解させる。そしてダーと奇跡的な再会を果たす。皮肉にも大地震で崩壊した家族で大地震で32年の時を経て再び家族となる。そんな再会が少し淋しくも感じる墓参りのくだり。

見捨てた娘に謝罪をした後に「もっと早く会いに来てほしかった」と叱る母親。墓参りで泣きながら母親に謝罪する娘。日本や欧米的感覚では納得に苦しむくだりではあるものの、2人を同じ母親という立場の女性として見ると、この関係もまた納得は出来るもの。

ユェンニーが望んだのは「子供たち」の幸せ。だからダンにはもっと早くダーに会いに来て欲しかった。母親の私ではなく双子の弟のために。
ダンが理解したことは「母親として」の気持ち。娘という立場ではなく、自分も娘を持つ母親としてこの32年間を振り返った時、養父母の「家族は永遠に家族だ」という言葉が心に響く。親としてその苦しみが分かる「親の言葉」が心に響く。

唐山、神戸、四川、東北。大地震が起こるたびに多くの命が失われ、多くの家族が引き裂かれる。「失うことの意味は失って初めて分かる」という言葉が多くの人を苦しめる。
しかし「家族は永遠に家族だ」という言葉は多くの家族に明日への一歩を促す。

ユェンニーにはディエンディエンという同じ名前の孫が2人もいる。ダンには実父母・養父母の4人の親がいる。ダーには妻と息子だけでなく、カナダには義兄と姪がいる。

失った32年という時間は、増えた家族とのこれからの時間で埋めればいい。時間は永遠にある。なぜなら「家族は永遠に家族」なのだから。

深夜らじお@の映画館は改めて日本の震災対策がハイレベルであることをこの映画を見て実感しました。

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1. 唐山大地震/32年ぶりに動き出した時間、日本はまだ4年  [ MOVIE BOYS ]   2015年03月19日 17:38
公式記録では約24万人が死亡したと伝えられる唐山地震。1976年に起きたこの大地震で被災したある家族の32年間を綴ったヒューマンドラマだ。出演は『雲南の花嫁』のチャン・チンチューとシュイ・ファン。監督は『女帝[エンペラー]』、『戦場のレクイエム』のフォン・シャオ
2. ショートレビュー「唐山大地震・・・・・評価額1650円」  [ ノラネコの呑んで観るシネマ ]   2015年04月06日 22:22
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3. 唐山大地震 ★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2015年04月13日 16:52
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この記事へのコメント

1. Posted by Caine   2015年03月19日 17:42
実はこの作品を観たのは2011年なんです。ちょうど東日本大震災のあった年。あれからその日が来るたびに私はこのレビューを読み返していました。四川大地震そのものもですが、私の記憶の中でこの作品の存在が東日本大震災のアイコンになっている部分があるんです。
32年、まだ32年。あと29年たった時に被災者の方々、私たちはどんなふうにあの震災を受け止められるのかな。
2. Posted by にゃむばなな   2015年03月20日 16:24
Caineさんへ

この映画をどのタミングで見るかで「32年」という時間の捉え方が変わりますよね。
東北なら4年、神戸なら20年。
今年公開された『劇場版神戸在住』と合わせて見るのもいい映画でしたよ。
3. Posted by ノラネコ   2015年04月06日 22:39
いつの間にか、あれから4年も経ってしまい、すっかり公開は諦めていたので、DVDスルーでなく劇場公開が決まったのはうれしい驚きでした。
32年に渡る喪失と再生のプロセスが、中国現代史と重なる物語も興味深く、これはやはり大スクリーンで観られて本当によかった。
松竹の英断に感謝です。
4. Posted by にゃむばなな   2015年04月06日 23:22
ノラネコさんへ

ほんと、松竹の英断に感謝感謝です。
こういう映画はTV画面で見ても本来製作者が伝えたいことがきちんと伝わりませんからね。
日本も震災大国なのですから、この手の映画から学ぶべきことも多いはずですからね。

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