2015年04月06日

『繕い裁つ人』

繕い裁つ人人が服を美しく見せるのではありません。服が人を美しく見せるのです。
「頑固ジジイ」並みの職人気質を持っている南洋裁店の2代目・南市江さんが仕立てる服は「心が大人」の人が着るものだけ。流行に流されてすぐに着る服を取っ替え引っ替えするようなお子ちゃまはお引き取り下さい。
この映画もそんな「拘りあってこそ大人」には向いている作品だと思います。

本当の意味での「大人」が着る服とは何か。それは一張羅ではないかと思うのです。
人は誰でも様々な服を着たいと思うと同時に、いつかは流行に流されてばかりの子供染みた時間は終えて、これぞ自分自身という一着を探し出してみたい。大人になればなるほど、人は自然とそう思うものではないでしょうか。

そんな大人と子供の違いをよく表しているのは舞台となっている神戸という街。寄せては返す波のように流行に左右される若者が集う三宮や元町、ハーバーランドといった繁華街は海側に、自分自身というものを弁え、礼節を重んじる30歳以上の大人にこそ似合う北野は山側にと、街の雰囲気でしっかりと区別されているんですよね。

だからこそ神戸には山側にこそ本当にいいものがある。そして歳を重ねるたびに、本当にいいものが分かるたびに山側の魅力にハマっていく。それが神戸という街の魅力なんです。

ですから市江さんが先代のお客様の仕立てを優先するのは、本当にいいものを守りたいという想い。藤井さんが何度もブランド化を打診しても快諾しないのは、本当にいいものが分からない人に仕立てても仕方ないという想いと同時に、自分が仕立てるオリジナル作品が「本当にいいもの」の域に達しているかどうかの不安もあったと思うのです。

服は着古せば着古すほど「古着という商業的価値」が下がるもの。しかし同時に着古せば着古すほど「愛着という個人的価値」は上がるもの。
ただ子供や若造には「個人的価値」は分からないもの。「商業的価値」とは比べものにならないほどの価値を持つ「愛着という個人的価値」が分かるのは、神戸の山側の魅力が分かるくらいの大人だけ。夜会に参加できる30歳以上の大人だけ。

母親の思い出の青いワンピースを娘用にと仕立て直すその想いもプライスレスなら、死に装束にと渡された思い出の服をガーデニング用にと仕立て直す市江さんの泉先生への想いもプライスレス。引きこもりの車椅子少女を外出させた思い出の服を連想させるウェディングドレスへの想いも、中田さんがお亡くなりになられてもその服がそこに飾られているだけで中田さんがいるように思えることもプライスレス。
それらはマスターカードでもビザカードでも買えない素晴らしき価値があるのです。

南洋裁店が仕立てる服は大丸で取り扱われてもおかしくない商業的価値の高いもの。と同時に先代が認めるほど丁寧な仕事をされるテーラー橋本の実力が分かる人にしか分からない技術的価値も高いもの。
しかしそれ以上に着る人を輝かせる「服としての価値」も高いもの。

モデルが着て美しく見える服に「服としての価値」はない。その服を着てモデルでない人でも美しく見せる服にこそ「服としての価値」がある。
それを理解していたつもりなのが喫茶サンパウロのチーズケーキが大好きな市江さんであり、それを時間を掛けて理解したのが市江さんのオリジナル作品が見たいと言ったお団子嫌いな藤井さんであり、そして藤井さんの想いに動かされて本当に理解したのがオリジナル製作に挑むと決めた市江さんであると思うのです。

今を生きる人に思い出の服を作れるのは今を生きている人だけ。

神戸を舞台にしているのに神戸弁を話す人がいない作品ではない。神戸のような大人の魅力を弁えた街を舞台に本当の意味での「大人」や「個性」を描いた作品である。この作品に関してはそう理解すべきではないかと思えるほど、大人の優しい魅力がじんわりと沁みる映画でした。

深夜らじお@の映画館も思い出の一着をいつかは手に入れたいです。

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1. 映画「繕い裁つ人」  [ FREE TIME ]   2015年04月09日 22:02
映画「繕い裁つ人」を鑑賞しました。
2. 繕い裁つ人  [ そーれりぽーと ]   2015年04月09日 23:42
予告編を観て、子供の頃を懐かしく思い出し、『繕い裁つ人』を観てきました。 ★★★★ 母が家で足踏みミシンを使っていて、オーダー品裁縫関係の仕事をしてたんですよ。 足踏みミシン自体は俺が10歳の時に引っ越しで手放して、電動ミシンに替わり、服飾メーカーの試作品製
3. 『繕い裁つ人』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2015年04月10日 16:27
□作品オフィシャルサイト 「繕い裁つ人」□監督 三島有紀子□脚本 林 民夫□原作 池辺 葵 □キャスト 中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、黒木 華、杉咲 花、       伊武雅刀、中尾ミエ、余 貴美子■鑑賞日 2月7日(土)■劇場 109CINEMAS川崎
4. 繕い裁つ人 ★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2015年04月10日 18:53
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5. 映画・繕い裁つ人  [ 読書と映画とガーデニング ]   2015年04月11日 10:51
2015年 日本 神戸の街を見下ろす高台にある南洋裁店そこの二代目店主・南市江(中谷美紀)が作るエレガントな洋服はいつも即日完売大手デパートに勤める藤井(三浦貴大)は市江にブランド化の話を持ちかけますが“頑固じじい”のような市江は全...
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7. 繕い裁つ人  [ C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜 ]   2015年05月11日 21:41
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なんだか、この感性、こだわりや、展開。ファンタジー要素が、少女漫画の世界だなぁ、と感じてたら、本当に原作は池辺葵の同名コミック、だったのですね。 美術さんに、ロケ地、衣装と、ディテールにこだりようがハンパでなく、そのあたりの好みに賛否両論あったみたいで

この記事へのコメント

1. Posted by FREE TIME   2015年04月09日 22:06
こんばんは。
自分が鑑賞して時期はドラマ「ゴーストライター」がOA中だったので、同じ中谷美紀とは思えないくらい別人に見えました(^^;)
服に対するこだわりは着る人も作る人も、それぞれ違いはあれども、こだわりを持つことは大事ですよね。
それよりも、喫茶店に出てきたチーズケーキの方が自分は気になってしまいましたが(汗)
2. Posted by にゃむばなな   2015年04月09日 23:14
FREE TIMEさんへ

あのホール型チーズケーキ、「喫茶サンパウロ」では取り扱っていないみたいですね。
ああいうのは一度でいいから食してみたいですよ。

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