2015年07月01日

『ラブ&ピース』

ラブ&ピース愛を忘れた大人たちへ。夢を忘れた大人たちへ。人生のピースだけは忘れるな。
これが園子温マジックだ。ずっと求めていた園子温監督にしか描けない映画マジックだ。
愛を求める、夢を求める全てのダメ人間に贈るスローバラード。そこには大いなる反戦への魂と大いなる幸せへの希求が大きな愛として詰められている。

ロックミュージシャンを目指すも挫折し、「朝まで生討論」でもダメ人間として糾弾される鈴木良一、33歳。『新宿スワン』で変顔をさせた綾野剛に続き、長谷川博巳にも変顔をさせた園子温監督はこの鈴木良一という存在を用いて2つのことを描く。
一つは愛と夢を忘れたダメな大人。もう一つは愛と平和を忘れたダメな現代日本。

のろまな亀さんは急激な経済成長を経て平和国家を築いた現代日本への皮肉なのか、大切なものを忘れた現代には鈴木良一のようなダメ人間が平穏に暮らすことの出来る場所はない。
中学の修学旅行で長崎を訪れた際、被爆者の方が仰っていた「平和な社会は身近な戦争であるイジメをなくすところから始まる」という言葉を裏付けるかのように、ダメ人間はどこに行ってもバカにされる。
唯一、そのイジメという戦争から逃れる場所があるとすれば、それは夢を見る世界のみ。

そんな夢を自暴自棄になった鈴木良一によりトイレに流された亀のピカドンが謎の老人と出会ったことでご主人の夢を次々と叶えていく。
ピカドンへの謝罪と後悔と愛を込めた歌詞が反戦ソングとして世間に広まっていく。ダメサラリーマンが大ヒット・ロックミュージシャンへと出世していく。
ただ有頂天になった鈴木良一の「ラブ&ピース」というフレーズから大切なモノが抜けていく。大好きな寺島裕子ちゃんとの心の距離も離れていく。

一方でピカドンはどんどん大きくなる。ピカドンと共に暮らす捨てられて下水道世界にやってきた人形や動物たちの過去の悲しみもどんどん大きくなる。謎の老人の正体も分からないまま、なぜか観客の心の奥にあった、かつて共に暮らしたペットやヌイグルミの記憶もどんどん大きく蘇ってくる。

その理由はワイルド・リョウこと鈴木良一が憧れの日本スタジアムでクリスマスライブを行う日に明らかにされる。
謎の老人はサンタクロース。夢を配り、その捨てられた夢を集め、また新たな夢として届けるサンタクロース。夢見る子供に愛と一緒に人生のピースになる存在をクリスマスプレゼントという思い出として配っているサンタクロース。

子供は大人になると様々なものを忘れる。かつて大好きだったヌイグルミに注いだ愛。大切なペットにも話した夢。それらは全て今の自分の基礎となった人生のピース。

同様に現代日本も平和になると様々なものを忘れる。交戦国、ピカドンの意味、怪獣映画誕生の背景、「ラブ&ピース」の意味。それらは全て現代日本の基礎となった平和への想い。

国会で安保論争が激化するこの時期に巨大化したピカドンが都庁を壊してまで鈴木良一がライブを行っている日本スタジアムに向かう姿を見て、いったいどれだけの人が平和を希求する心が怪獣映画を誕生させたという背景を思い出すだろうか。

イジメやブラック企業による自殺が絶えないこの時代に言葉を話せるようになったピカドンが日本スタジアムで鈴木良一がかつて話してくれた言葉を復唱する姿を見て、いったいどれだけの人がかつて愛したヌイグルミやペットが話せたらという夢を思い出しただろうか。

「全力歯ぎしりLet's Go♪ギリギリ歯ぎしりLet's Fly♪」とライブ会場で歌っていた鈴木良一は日本スタジアムでピカドンが教えてくれた愛を、夢を思い出す。
もうピカドンという人生のピースも、寺島裕子ちゃんへの恋という人生のピースも永遠に失われたのかも知れない。それでも愛と夢を取り戻した鈴木良一はもうダメ人間ではない。

ただ忘れてはいないだろうか。今宵はクリスマス。サンタクロースが愛と夢を届けてくれる日。人生のピースになる存在を届けてくれる日。
ボロアパートに戻った鈴木良一の元に亀がやってくる。扉の外には寺島裕子ちゃんがやってくる。

RCサクセッションの忌野清志郎というサンタクロースがこの世に残した「スローバラード」という名曲が全てのダメ人間に愛と夢を届けてくれるこの作品。
改めて自分の人生のピースを思い出すと、思わず目頭が熱くなる。でもそれが凄く幸せにも感じる。そんな幸せを届けてくれた園子温監督もまたサンタクロースなのかも知れない。

深夜らじお@の映画館はあえてCGを使わず特撮として人形や巨大な亀さんを動かすことで全て観客にかつて大切にしていた人生のピースを思い出してもらう園子温監督の演出が大好きです!

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本当に、園子温監督、長谷川博己を高くかってるのですね。 『地獄でなぜ悪い』のラストに驚いたけれど、(遊び心で、ちょっと出てきますね)ファンタジックで、ややコミック展開な、この物語に、長谷川博己の、オーバーアクト気味な演技がとても、よく合ってた気がします

この記事へのコメント

1. Posted by ジョニーA   2015年07月02日 03:37
上司のマキタスポーツが、いい塩梅に鬱陶しい悪役キャラを演じてましたねー♪
会社でピカドンを見つけて「それが君のピースなのかぁっ!?・・・んむふふふはははは!」
と失笑するタイミングの、まあなんて絶妙なこと!完っ璧なキャスティングだったと言えるんじゃないでしょうかー?
2. Posted by かのん   2015年07月02日 11:40
観終えて「ピカドン」と「ラブ&ピース」をすぐさまダウンロード。どちらもサントラ版収録の短い曲ですが、もととも持っていた「スローバラード」と合わせて映画の余韻に浸ってます。

ちゃんと奥さんも出演してるところも園監督らしいですね(笑)。
3. Posted by にゃむばなな   2015年07月02日 23:36
ジョニーAさんへ

マキタスポーツさんのあの悪役ぶりは本当にいいですね〜。
本当にいてもおかしくないあのキャラ。
情けないオヤジ役よりも好きですわ〜。
4. Posted by にゃむばなな   2015年07月02日 23:37
かのんさんへ

そうそう、神楽坂恵さんもちゃっかり出演されてましたね。

それにしても「ピカドン」と「ラブ&ピース」は何と耳に残る名曲だことか。
見終わった後も思わず口ずさんでしまいましたよ。
5. Posted by ノルウェーまだ〜む   2015年07月16日 18:28
にゃむさん☆
なるほど園監督がサンタだんだったのですねー
あんなに破壊しておいて反戦?と思ったら、怪獣映画としての位置付けがあったとは思いもしませんでした。
6. Posted by にゃむばなな   2015年07月16日 22:45
ノルウェーまだ〜むさんへ

こんなステキな映画を送り届けてくれる園子温監督もサンタクロースだと思いましたね。
怪獣映画が生まれた背景も忘れ去られたこの時代だからこそ、響くものがある。
それがこの映画の魅力だと思いました。
7. Posted by ふじき78   2015年07月18日 00:41
あの、ムチャクチャ疲弊した身体に鞭打つようにかかる「スロー・バラード」にゾクゾク来た。音楽の魔力だよなあ。
8. Posted by にゃむばなな   2015年07月18日 09:24
ふじき78さんへ

ほんま、音楽の力ではなく魔力ですよね。
名曲がさらに名曲として心に残るんですもん。

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