2015年07月23日

『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』

オン・ザ・ハイウェイわずか86分で男の人生が変わる、男の印象も変わる。
これはサスペンスではない。素晴らしきドラマである。ただ映画の造りはサスペンス。それに気づくのに86分も掛かってしまった。
ストーリーだけを追えば凄く退屈。でも映画としては野心的で面白い。ゆえに映画好きにこそオススメしたいのですが、その前に、ここからはネタバレで参ります。

ヨーロッパ最大規模を誇るビルの基礎工事の現場監督でもあるアイヴァン・ロックがその夜、車を走らせて自宅へ向かう途中、何を思ったのかハンドルを自宅とは違うロンドンへときる。
車の中から方々に電話を掛ける。部下のドナルに明日の仕事を任せるための説明を、上司のガレスには明日の現場には立ち会えないことを伝え、息子のエディにはサッカーの試合を一緒に見れないことを謝り、妻のカトリーナには大事なことを話さなければならないと伝え、ロンドンへ向かう。

ただ映画が始まって10分。ベッサンという女性への電話で彼がロンドンへ向かう理由が明かされる。今宵はかつて一夜を共にしただけの浮気相手が自分の子を産む。その立ち合いに向かうだけ。誰かに脅されるようなこともなければ、誰かを救うために車を走らせる訳でもない。しかもここから話が大きく展開することもない。

仕事も家族も失う可能性があるにも関わらず、ハイウェイを1時間半近くも掛けてロンドンへ浮気相手の出産に立ち会うために向かうアイヴァン・ロック。
彼はいい加減なヤツなのかといえば、決してそうではないことがドナルへの仕事の指示やクビを宣告してきたガレスとの会話で徐々に分かってくる。

上司が一目を置くほど有能な現場監督であり、ドナルがプレッシャーから飲酒に走っても冷静に対処し指示を出すアイヴァン・ロックは間違いなく有能である。
しかも仕事が出来るだけの有能ではなく、彼の名前を出せば助けてくれる警察担当者がいる、役所の担当者もいる、道路工事作業員もいるといった、人としても有能な男である。

では彼は夫として、また父親として無能かというと決してそうでもない。エディとショーンという2人の息子とはサッカーの話をし、かつ安易に子供扱いもしない。
一方で妻カトリーナには真実を話して電話を切られ、冷静に話をしても許してもらえないという状況にも下手な言い訳は一切しない。
ただ自分の罪を認め、現実を認め、冷静に対処するのみ。それは出産前でナーバスになっている浮気相手への対処でも同じ。電話口から冷静に言葉を掛ける。

そんなアイヴァン・ロックがバックミラーを見ながら後部座席にはいないはずの父親に感情的に言葉を発する。恐らく彼の父親もまた浮気相手を孕ませ、家族を崩壊させたダメな男だったのだろう。
でもアイヴァン・ロックはそんな父親と自分は違うとバックミラーに向かって感情的に言葉を並べる。自分は冷静に対処している。仕事にも家族にも責任を持って対処していると。

やがて電話が鳴る。妻のカトリーナからは家には帰ってくるなと宣告される。部下のドナルからは協力者のおかげで仕事の危機が去りそうだと報告を受ける。浮気相手のベッサンからは出産が終わったことを赤ん坊の泣き声で教えてもらう。

そして車を止めて安堵の一息をつくアイヴァン・ロックを見て一つのことに気付く。彼が発した様々な言葉を並べると、私は彼のような男を同性として格好いいと思ってしまったことに。

もちろん浮気も仕事の放棄も許されるものではない。けれど自分の過ちに対して彼は「信念に反する」という理由から立ち向かった。仕事も家族も失ったが、ここから先は何も間違えないという決意の下、感情に流されることもなく、でも相手の感情を汲み取りながら全ての事象に対して冷静に立ち向かった。

今夜、彼には何が残っただろうか。仕事は失った。家族も失った。浮気相手と新しい家族を築く気もなさそうだ。
でも彼には仕事仲間からの信頼はまだ残っている。憎き父親のようなことはしなかったという人としての誇りも残っている。そして仕事と出産という2つの難局を乗り越えた男としての格好良さも残っている。

己の信念に従い、己の過ちを認め、己の損得を忘れ、己の能力を全て使い、己の決断に間違いはなかったという成果を得る。
こんな男を格好いいと思わずして、どんな男が格好いいと言うのか。

わずか86分。一人の男の印象が大きく変わった。それだけを見せるこの映画もまた格好いいではないか。

深夜らじお@の映画館はこういう野心的な映画も大好きです。

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1. オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2015年08月24日 17:56
ロサンゼルス映画批評家協会賞やイギリスのインディペンデント映画賞などで称賛された異色のサスペンス。思わぬ状況に追いやられる中、高速道路を車で走る男の胸中に漂う不安や焦燥を見つめる。監督と製作総指揮に『ハミングバード』などのスティーヴン・ナイトと『つぐな...
2. オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分  [ いやいやえん ]   2015年10月14日 07:51
【概略】 順風満帆な人生を送っていた男、アイヴァン・ロック。だが1本の電話によって、彼は人生のすべてを懸けた決断を迫られることになる。 サスペンス トム・ハーディ主演のワンシチュエーション劇。 演じるのはトム・ハーディのみで、出演はあとは声のみです
3. オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分  [ 銀幕大帝α ]   2016年05月12日 21:13
LOCKE 2013年 イギリス/アメリカ 86分 ドラマ/サスペンス 劇場公開(2015/06/27) 監督: スティーヴン・ナイト 脚本: スティーヴン・ナイト 出演: トム・ハーディ:アイヴァン・ロック 声の出演: オリヴィア・コールマン:ベッサン ルース・ウィルソン:カ...

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