2015年11月19日

『恋人たち』

恋人たち飲み込めない想いを飲み込みながら生きている人が、この日本にどれだけいるだろうか。
どうすれば絶望だらけのこの人生から抜け出すことが出来るのだろうか。いったいどこに行けば、自分を助けてくれる人に出逢うことが出来るのだろうか。
そんな希望を見つけることも出来ずに生きている全ての人へ。
まずは部屋を片付けてみなはれ。

通り魔事件で愛妻を亡くした橋梁点検者の篠塚。不条理に対する怒りが彼から幸せの意味を奪おうとする。
関心を持ってくれない夫や義母との生活を送る主婦の瞳子。平凡と退屈が彼女を「皇室」や「美女水」という非日常へと誘おうとする。
ゲイだというだけで周囲が疎遠になっていくエリート弁護士の四ノ宮。誠意や倫理を蔑ろにしてきた完璧主義者に偏見という鏡が現状を映し出す。

金槌で叩かれた橋梁が内部から劣化の度合いを反響音で知らせるように、人もまた心の奥にある理不尽に対する怒りや悲しみといった想いを様々な場面で表に出そうとする。
ただその反響音の多くは、他人への理不尽な態度として表れるのが現代社会。
自分の匙加減で保険証を発行する公務員、八つ当たりばかりする弁当屋の妻、準ミスの過去を忘れられないスナックのママ、偏見を持った妻の言いなりになる学生時代からの友人、成田別居で結婚詐欺だと訴える女子アナ。

いつからこの国には自称「悲劇の主人公」だらけになったのだろうか。誰もが自分が一番の不幸者という顔をして生きている。だから他人に優しくしようとはしない。優しくされるべきは自分なんだと思い込んでいる。

でも本当に自分は一番不幸な人間なのだろうか。ただ視野が狭くなっているだけで、自分より不幸な人間はいくらでもいる。
妹を亡くしただけでフラれた義姉、他人に夢を語りながら薬物中毒から抜け出せない男、恋人に理解してもらえず苦しむ青年。

散らかった部屋、払えない保険料、減らないタバコ、奇妙な自筆小説、壊れたシャワーヘッド、取れない右足のギブス。これらが不幸の溝に嵌った人たちから希望の光を見出すための広い視野を奪う。

しかし視野が狭くなった人たちの心には、希望の光に繋がる「優しさ」が不意をついて変化球のように入ってくる。
一緒にTVを見ようと言い出す祖母の話、もっと話がしたいと言ってくれる片腕の上司、女としてのプライドを思い出させてくれる薬物中毒男の情けない姿、勘違いでも涙を流して喜んでくれる顧客。

そう、この不条理な世の中では誰も助けてはくれない。ただ自分で勝手に助かるだけ。自分で不幸の殻を破るだけ。
でもその「優しさ」というきっかけはどこからでもやってくる。「悲劇の主人公」気取りをやめ、部屋を片付け、相手の話を聞き、腹いっぱい食べて笑っていれば、思わぬところからその「きっかけ」は心に入ってくる。

愛を教えてくれた亡き妻にどうすれば愛を返すことが出来るだろうか。
仕事で失敗続きの自分を変な言い回しで口説いてきた夫との生活には何が足りないのだろうか。
レスポンスの速さ以外で顧客が何に喜ぶのだろうか。

無名の俳優たちがリアルな人間の感情を描き出す、リアルな世の中の辛辣さを映し出す。
だからこそ、彼らの心にふと入ってくる優しさもリアルに観客の心に入ってくる。

明星/Akeboshiの「Usual Life」を聞きながら迎えるEDロール後の篠塚の部屋。
きれいに片付いた無人の部屋から溢れ出す優しさと愛に思わず涙も溢れ出す。

深夜らじお@の映画館も自分の部屋を片付けようと思います。

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