2016年02月17日

『スティーブ・ジョブズ』

スティーブ・ジョブズ「i」を「スティーブ・ジョブズ」から「私」に変えた14年間。
スティーブ・ジョブズの人間性を彼に関わる限られた人物との会話劇だけで、しかも大事な発表会の舞台裏という限られた時間と空間だけで見せ切るこの野心的でムダのない面白さ。
2013年版とは違い、稀代のイノベーターを「哲学者」ではなく「芸術家」と見せるとは…。

1984年のMacintosh、1988年のNeXT Cube、1998年のiMac。この3回に渡る製品発表会の舞台裏だけで一本の映画にしてしまうこの作品で描かれるのは、スティーブ・ジョブズと近しい人物たちとの会話をフィルターにして見えてくる、「己の哲学を貫く創業者」「柔軟性を持ち合わせていない最低な男」だけではない、稀代のイノベーターの実像。

そもそもスティーブ・ジョブズはどういう人物なのか。この映画ではその答えを小澤征爾先生の名前を出して「指揮者」とし、また近しい人物との比較で「芸術家」としているのではないでしょうか。

例えばこの会話劇から見えてくるスティーブ・ジョブズは社会を最小単位として考える「公」しかない人物。一般人が「私」をベースに家族、組織、社会と「公」の単位を大きくしていくのに対し、「私」を持ち合わせず、常に教育という観点から「公」しか見ない人物。

だからこそApple兇隆愀玄圓房媼を盛り込めと迫るスティーブ・ウォズニアックとの会話も噛み合わない、開発担当のアンディ・ハーツフェルドの意見も聞かない、経営者として見てくるジョン・スカリーとの関係も縮まらない、元恋人クリスアンの話も聞かない。なぜならウォズニアックもハーツフェルドもスカリーもクリスアンもジョブズを自分と同じ「私」をベースにした人間だと思って会話をしているから。

一方でジョブズを支えるジョアンナ・ホフマンなど一部の人物は彼の描く未来像にだけ共感し、基本的に彼の人物像などは気にしないようにしているかのよう。つまり目的だけを共有し、その他に関しては自分の尺度で図ることを避けているかのようにも見えるということ。

一般人の尺度では芸術家の考え方は理解出来ない。同様に楽器演奏者の尺度でも指揮者の考え方は理解出来ない。
でもジョブズを指揮者でも芸術家でもなく、一人の創業者、一人の経営者、一人の父親として見ようとすれば、必ずそこには「一般的な考え方」という尺度で彼を見てしまう。
だから彼との会話が噛み合わない。彼の考え方が分からなくなる。彼との距離も広がっていく。

ただ「もう少し周りを見たほうがええで」「俺の考え方が正しい」でMacintoshが失敗に終わった1984年、「周りを見ろってあれだけ言うやんか」「俺の正しさを理解させる」でNext Cubeをダシにアップル社に戻った1988年、「いい加減にせえよ、まだ分からんのか」「時代がやっと俺に追い付いた」でiMacという成功を得た1998年という14年間を経て、ジョブズもまた自分の中にようやく「私」という尺度を設けるという「成長」が出来たのではないでしょうか。

それが見えたのが言い争いをした娘リサがまだウォークマンを愛用している姿を見てiPodの未来像を語るラストシーン。
iMacの「i」はスティーブ・ジョブズ自身を期待は控えめにと表したものだったかも知れませんが、娘を想う彼にとってのiPodの「i」は確実に娘を始めとする利用者自身を表す「私」。
それがクローズド・システムに拘りながらも、自分の満足ではなく利用者の満足を追求していく、芸術家であり、経営者であり、父親であり、IT業者でもあるスティーブ・ジョブズの多面的な実像。

人は誰でも多面的な魅力を持っているもの。コンピュータとは比べものにならないほどの数多の魅力を持っているもの。
それはスティーブ・ジョブズも同じ。決してカリスマ、哲学者、最低な男だけでは言い表せない、我々と同じ人間でもあることを忘れてはならないと語るこの映画の優しさに心地良ささえ感じてしまいました。

深夜らじお@の映画館はスティーブ・ジョブズの印象が少し変わりました。

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この記事へのコメント

1. Posted by mig   2016年02月19日 12:00
うんうん、確かににゃむばななさんの言ってることそうですね。

>それが見えたのが言い争いをした娘リサがまだウォークマンを愛用している姿を見てiPodの未来像を語るラストシーン

ここも、良かった。

けど映画としてみたとき、やはりジョブズの人間性やその過去の話に興味を持てないとだめな造りになっていたのが単純にダニーボイル映画を期待した私には残念でした〜。
2. Posted by にゃむばなな   2016年02月20日 23:19
migさんへ

私は映画を見る前にこの作品は製品発表会の舞台裏だけを見せていると聞いていたので楽しめましたが、情報なしで見れば、そりゃ発表会での演説を聞きたいのが普通ですわね。
あと個人的にはダニー・ボイルって経歴の割にはオスカー以降、新しいことに挑戦しているイメージがあったので、こういうのもすんなり受け入れられましたよ。
3. Posted by ノラネコ   2016年02月21日 22:51
まあよくこんな構成を思いつたものです。
アイディア賞。
しかも客が物語の背景を全部知ってる前提で、グイグイ進めちゃうのだから凄い。
置いてきぼりになる人も多そうだけど、このジョブズに通じる割り切りは支持したいです。
4. Posted by にゃむばなな   2016年02月23日 10:41
ノラネコさんへ

スティーブ・ジョブズの功績ばかりを誰もが描きたいところを、あえてその功績はほったらかしで、内面性一本に絞るのは面白いですよね。
ほんま、よくもまぁこんな構成を思いついたものですよ。
5. Posted by yukarin   2016年02月25日 13:29
こんにちは。
ずっと口論ばかりしててちょっと疲れました。
まあスティーブ・ジョブズの人となりを知ることができたので良いかなと思ってます。
6. Posted by にゃむばなな   2016年02月26日 10:13
yukarinさんへ

確かに口論ばかりでしたけど、その内容の変化が個人的には面白く見れましたよ。
やっぱり14年も経てば、どんな人間も変わるもんですね。

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