2016年04月16日

『スポットライト 世紀のスクープ』

スポットライトこの事実を記事にしなかった場合、誰が責任を取るのか。
何と地味なオスカー作品だろうか。しかし何と渋くて格好いいオスカー作品だろうか。そして何と無駄なシーンのないオスカー作品だろうか。
腐敗した権力に立ち向かったボストン・グローブ紙の正義感と罪悪感。そこに本当のジャーナリスト魂があるのではないだろうか。

ボストン・グローブ紙の新任編集長マーティ・バロンの意向により「スポットライト」チームが暴く真相。それは30年間も続いていた神父による少年少女への性的虐待とカトリック教会による組織的隠蔽。レッドソックス愛に溢れたボストンの警察も新聞も黙殺してきた街の汚点。

母子家庭や貧困家庭にとっては救いの手であり、カトリック信者にとっては神様の代名詞でもある神父や教会。その神父が権力と異常な欲望で年端もいかない子供たちを餌食にしていたという事実。日本で置き換えるなら回忌供養をして下さる住職が子供たちに性的虐待をしていたら、そんな住職に我が家の仏壇の前に座っていただけるか?という愚問と同じく、まさに想像しただけでも気持ち悪くなる事実。

そんな黙殺されてきた事実を白日の下に晒すため、4人の記者が地道な取材を重ね、膨大な資料を集めては整理し「世紀のスクープ」として記事にした様を描いたこの作品は、決して正義が勝ったという高揚感を味あわせるシーンは用意されていない。
なぜなら新聞は真実を暴く媒体であり、またこのボストン・グローブ紙がこれまで多くの情報提供がありながら取り上げてこなかったという後悔がこの映画の根幹にあるから。

だからこそ、この映画には見逃してきた事実がまるで破れた壁紙から垣間見えたカビを掃除しようと壁紙を全て剥がすと、壁一面がカビで覆われていた時のような、いかに大きな恐怖であったかをあらゆる形で見せてくる。
自宅近くに虐待神父が住んでいたという恐怖。大好きな祖母の心の拠り所を潰してしまうという罪悪感。ミサで歌っている子供たちの誰かが神父の毒牙に襲われているかも知れないと想像してしまう後悔。学生時代にホッケー部に入部していなかっただけで、運良く毒牙から逃れていただけという事実。

そして次々と暴かれていく神父の人数。当初13人と聞いた時、ボストンという土地柄からもアメリカ独立州と同じ数字から始まれば、許容範囲は50人くらいまでと連想したのが、容疑者は全部で78人。それら全員が問題が発覚すると病気休養扱いなどになり、数年後には転属されていた、つまりは新たなる場所で被害者を増やしていたという事実。

被害者は理由があって神父の餌食になるのではない。たまたま運が悪かっただけで神父の餌食になる。でもそこは教会なのだから、彼らは思うだろう。私は神に見放されたのかと。
そして情報提供をしても何も取り上げてくれない新聞社からも見放されたのだろうと、被害者や彼らを助ける弁護士たちも思ったのだろう。
そんな被害者たちの想いも見過ごしてきたという後悔から来る恐怖。

そんな様々な心に来る恐怖に立ち向かった「スポットライト」チームが暴いたカトリック教会の罪が記事になったラストには、正義が貫かれたという高揚感も気持ち良さもない。代わりに真実が暴かれるという本当の意味が、さらに大きな恐怖を味わうという形で示される。それがEDロール前のテロップ。

ボストン・グローブ紙の記事により発覚した虐待神父の数は249人。ボストンだけで78人だったのだから、虐待神父のいた街も日本語字幕でも表記できるくらいの数だろうと思っていたところでの、あの異様な街の数。オーストラリアやカナダなど全世界で三桁にも及ぶ街でも同様なことが行われていたという事実と、被害者の数が1,000人を超えていたという事実。

その事実に愕然となる。その事実が30年間も見過ごされてきたということに恐怖を覚える。そしてその恐怖が身近では起こらないという保証がない現実を突きつけられる。
そんな事実と恐怖を描いた作品こそが第88回アカデミー賞で作品賞を受賞した映画である。

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人が人を殺す事は、ある。しかし、組織が人を殺す、それを暴いたのがこの作品である。実際に刃物や銃器で殺される訳ではない。だが、被害者達は一度精神的に殺されている。そして被害者達が後に自殺をしてしまうケースも多い。世紀のスキャンダル。聖職者が教会の地位を利用

この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2016年04月17日 06:05
アカデミー作品賞を獲得したのも納得の出来でした。

真実を追い求めて行く記者たちを丁寧に描いていて、
たしかにラストは高揚感はありませんが、
この辺りが同賞を獲得した理由かもしれません。

最後のテロップ表示…この問題はまだまだ奥が深そうです。
2. Posted by mori2   2016年04月17日 22:54
アカデミー賞、授賞式の勢いだと「レヴェナント」に行っちゃうかなあ?と思ってたんですが、土壇場で押し戻しましたね(^^;。
本当に華の感じられない映画でしたが、ここまで社会性の強いテーマに真正面から真摯に向き合い、商業映画として撮りあげた製作チームには、賛辞を送りたいと思います。
3. Posted by にゃむばなな   2016年04月17日 22:56
BROOKさんへ

この作品に高揚感を持たせていないのが、この作品のセンスなんでしょうね。
あくまでも人間味のある記者たちの奮闘記。
それ以上でもそれ以下でもない。その地味な渋さが凄く格好良く見えましたよ。
4. Posted by にゃむばなな   2016年04月17日 23:00
mori2さんへ

ほんと、華のない映画ですけど、それが逆に渋さを際立たせて格好良くも見えましたよ。
こういう映画が作られて、そして評価されるアメリカはやはり映画大国であり、映画天国でもありますね。
5. Posted by yukarin   2016年04月17日 23:05
こんばんは。
作品賞と脚本賞を受賞は納得の作品でした。
地味ですが引きこまれて観てしまいました。
虐待した神父がいた街の多さにも驚きましたが被害者も1000人を超えてたことにも驚きますね。
6. Posted by にゃむばなな   2016年04月17日 23:06
yukarinさんへ

この数字の多さには驚きますよね。
ボストンだけの話じゃない、世界中で何十年も見過ごされてきたという事実。
恐ろしさと驚きで言葉を失いますよ。
7. Posted by オリーブリー   2016年04月18日 12:00
こんにちは。

そうなんですよね、事実を暴いてすっきりするどころか、それを機に拡散していく本当の真実の恐ろしさ。
エンドロールに示された関係施設の多さに背筋が寒くなり愕然となりました。

8. Posted by ノラネコ   2016年04月18日 22:45
6%を多いと考えるのか、少ないと考えるのか。
カソリックじゃないけど、私も子供の頃近所の教会の日曜学校とか行ってたから複雑な気分。
やっぱ神父っていうだけで、なんか逆らえない権威は感じますからねえ。
日本の教会は大丈夫なのかと思ってしまいます。

9. Posted by にゃむばなな   2016年04月18日 22:55
オリーブリーさんへ

本当の真実は我々の想像を超えるものだったという事実。
でもその事実に辿り着くきっかけを作るのがジャーナリズムでもあるんですよね。
それを丁寧に描いたからこそ、あのラストの背筋が寒くなるような愕然っぷりが感じられるんでしょうね。
10. Posted by にゃむばなな   2016年04月18日 23:00
ノラネコさんへ

神父さんの存在が日本でも決して珍しいものではない以上、この6%という数字は少ないとは感じられませんでしたよ。
日本では0%ですと言い切れない以上、そのどこかにいるダメ神父が近所にいたらと考えると恐ろしいですよね。
11. Posted by ノルウェーまだ〜む   2016年04月27日 22:16
にゃむばななさん☆
これは本当に意味のある受賞でしたね。
レヴェナントには申し訳ないけれど、今年はこの作品が獲るしかなかったです。
教会で行われていた恐るべき数字の虐待だけでも驚きますが、これが学校や水面下で表には出てこない「家庭」で起きたりすることを考えると、身の毛がよだつ思いです。
12. Posted by にゃむばなな   2016年04月29日 23:08
ノルウェーまだ〜むさんへ

この作品で描かれているのはあくまでも教会での話。
仰る通り「家庭」という面も考えると、この映画で驚いていた数字以上のものが出現するんでしょうね。
人の心の闇は本当に深いですわ。
13. Posted by FREE TIME   2016年05月17日 06:01
アカデミー賞作品受賞も納得できる作品でした。
真実をしていかに伝えるかという報道のあり方を伝えてくれる内容でもありましたね。
あと、エンドロール後のテロップで伝えた真実には本当に絶句させられました。
14. Posted by にゃむばなな   2016年05月19日 23:02
FREE TIMEさんへ

EDロール前でのあのテロップが一番恐ろしいものでしたね。
知らないだけで世の中にはこんなにも恐ろしいことが身近にある恐怖。
それが世の中だなんて…。

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