2016年04月17日

『ボーダーライン』

ボーダーライン越えてはいけない一線がある。分けるべき一線もある。
これがメキシコ麻薬カルテルの恐ろしさなのか。これがドナルド・トランプ候補が国境線に壁を建てたいと主張した実情なのか。
法と倫理が通用するボーダーラインは必ずしもアメリカとメキシコの国境とは限らない。その事実を知った時、善悪というボーダーランは存在すべきなのか。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品には神への問いかけをテーマに添えると、異様な精神的重さを醸し出す傾向がある。しかしこの作品に関していえば、神への問いかけが存在しないので、その異様な精神的重さも存在しない。

代わりに存在するのは映像から感じる重さ。何か重い物を背負ったという重さではなく、まるで気圧の違う所に放り込まれて身体がだるく感じるような重さ。それがマット率いるカルテル殲滅部隊に召集され、異様な現状に戸惑うケイトの心情と同じく、観客からも心と身体の自由を奪う。

カルテルのアジトを襲撃した際に発見した壁に埋め込まれた無数の遺体で戸惑っていたことがまるで世間知らずだったかのように、国境を越えたメキシコ・ファレスの街では普通に首のない遺体があちらこちらに吊るされている。太陽が沈めば砲撃弾や爆破が遠くからも容易に見る事が出来る。子供たちがサッカーに興じる時間でも近くのホイッスルよりも遠くの銃声が耳に入ってくる。

アメリカでは通用する正義が国境という線を越えただけでまかり通らない現実。地元警察がカルテルに買収されているのは当たり前。国境検問所で渋滞に巻き込まれれば襲撃される前に襲撃するのが当たり前。カルテルに家族を殺されたアレハンドロのような存在を国家が利用するのも当たり前。そして因果応報により、カルテルのボスもまた家族を先に殺されてから始末されるのも当たり前。

ケイトのように正義感に燃えて法で取り締まることで効果があるのは、あくまでも犯罪の撲滅が見えているアメリカ国内での案件だけ。メキシコでの現実はカルテルの大元を根絶しない限り、犯罪の撲滅は見えてこない。いや現状では大元を始末しても、また別のところから新たな大元が生まれているのだから、犯罪の撲滅など夢のまた夢なのかも知れない。

だからマットの言うように国土安全保障省が大元になれば秩序が生まれる。パワーバランスが保てない現状に混乱を起こし、パワーバランスを構築する。それがアメリカの正義が通用しない現場で行うべきこと。
国境というボーダーラインを越えれば、時に善悪というボーダーラインも越えなければならないこともある。

マットの目的は秩序の構築。アレハンドロの目的は殺された家族の復讐。しかしケイトの目的はカルテルの殲滅。一区切りしてもまた同じ目的を持たなければならないという点においては、マットやアレハンドロよりも明確性に欠ける目的。
だからFBI捜査官という立場を利用された。現場へのストレスで用心せずに殺し屋と一夜を共にしようとした未熟さも利用された。そして銃で脅されながらアレハンドロの要求通りに書類にサインするという弱さも利用された。

ベランダから道行くアレハンドロに銃を向けるケイトが泣きながら越えてはいけない一線で踏みとどまるラスト。どんな一線でも越えるには覚悟がいる。ケイトにはまだその覚悟は持てていない。ならば分けるべき一線があることを理解するしかない。自分の信じる正義が通用しない一線を理解するしかない。

移民労働力による経済の安定、麻薬カルテルによる犯罪の常習化。国境付近には様々な問題が山積している。国境がアメリカの正義が通用する世界のボーダーラインでなくなりつつある現在、果たして国境に壁は必要でないと言い切れるのか。
暴言王ドナルド・トランプ候補の主張があながち暴言ではないという現実がそこにはある。

深夜らじお@の映画館は改めて日本は島国で良かったとも思えました。

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この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2016年04月17日 16:45
たしかにこの作品を鑑賞すると、
トランプ氏の言っていることが正しいように思えてきますね。
アメリカの麻薬戦争の現実を垣間見ることの出来る映画でした。
2. Posted by にゃむばなな   2016年04月17日 22:59
BROOKさんへ

トランプ候補の主張は正しいとは言い切れませんが、ただ間違っているとも言い切れないのがこの映画を見ると分かりますよね。
ほんま、アメリカとメキシコの国境って怖いですわ。
3. Posted by えふ   2016年04月22日 21:43
子供たちがサッカーの試合をやってるさなか、
銃撃の音が鳴り響く・・・
それがメキシコなんですね。。。
なんかすごい国を見てしまいました。。。
4. Posted by にゃむばなな   2016年04月22日 23:04
えふさんへ

未来の夢と現実の死が隣り合わせ。そんな国がアメリカの隣にある現実。
改めて島国である日本の有難味も感じましたよ。

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