2016年09月17日

『映画 聲の形』

聲の形この“こえ”を伝えたくて。その“こえ”を聞きたくて。生きるのを手伝ってくれる大切な人だから。
簡単な想いなのに伝えられない。簡単な言葉なのに聞き取ってあげられない。コミュニケーションはそんな後悔の繰り返し。なのに、どうしてそんなコミュニケーションを続けるのだろうか。
これはそんな疑問に温かい涙で素直に応えてくれる秀作です。

我々は知らないものに対して興味を抱く。でもその興味が薄れると無理解が無邪気の仮面を被る。そして聴覚障害でさえ個性だと言う言葉を生み出す。
ただそれは能天気な言葉だ。もしくは本当の苦しみを経験していながら、それに見合う言葉選びが出来ない人の言葉だ。

始めは誰もが聴覚障害の西宮硝子に興味を抱いていた。でもその興味が薄れると少女は仲間外れにされてしまう。補聴器が何度も壊される。やっと出来た友達も奪われる。
けれど健常者である我々はその少女がそんな時どんな想いで「ごめんなさい」を繰り返し、笑顔を絞り出しているのか想像すらしようともしない。

しかしガキ大将からイジメの対象へと格下げされ、母親の右耳から流れる血と170万円の痛みを知り、なおかつ自殺まで考えた石田将也にはその西宮硝子の想いが分かるはず。
だから5年前のことを謝りたいと手話まで覚えた。彼女のために佐原探しから母親のケーキ作り、みんなで遊園地デートまで積極的に動いた。彼女への贖罪や好意以外にそんな優しさがあったからなのだろう。
そんな彼の周囲にビッグフレンド永束を始め、ツンデレ結弦、天邪鬼な植野、偽善優等生の川井、逃げ腰の佐原、マジメな真柴も集まってきたのはある意味当然の話。

一方でそんな石田将也との再会で彼の手話に驚く西宮硝子の表情は、まるで知らない異国の地で日本語が話せる現地人と出逢ったかのようで、それがどれだけ嬉しいことなのか、年頃の少女にとって出来れば隠したいであろう補聴器を見せてしまうポニテへと髪型を変える勇気を絞り出した経緯と同様に、それもまた我々が想像すらしてこなかったこと。

だからこそ、やっと「話の出来る」友達が出来た西宮硝子が石田将也と距離を縮めたいと動けば動くほど、無邪気な仮面を捨てた無理解が邪魔をする現実にも心が痛くなる。
彼女はただ耳が聞こえないだけで他は普通の女の子。永束クンが背の低い男の子であるように、石田将也が他人の顔をまともに見れない男の子であるように、何かしら欠点を持っている我々と同じ存在なのにと。

でもここで一つのことに気付く。彼女もまた我々と同じなのだから、彼女も変わらなければならない現実があるということ。
ただ自分を変えるには時間が掛かる。その長時間に耐え得る勇気もいる。支えてくれる存在もいる。
なのに、その支えてくれる存在が大切になればなるほど、また苦しみが増える。自分が大切な人を苦しめているのではないかと。自分に生きている意味はあるのかと。

それが自殺という選択肢を石田将也や西宮硝子にもたらす。でも自殺の無意味さを知った少年が少女に生きる意味を自らの命の危険を顧みずに伝える。決して浴衣姿で見た花火を人生最後の思い出にはさせないという彼の想いが彼女に自殺を選択したことへの後悔を、大切な人に生きていてほしいという想いは自分だけが持っているものではないことを彼女に伝える。

だから西宮硝子も必死に変わろうとする。そんな2人の想いに神様がいつもの橋で再会を用意してくれる。「きみに生きるのを手伝ってほしい」という言葉を伝える再会を。

自分の価値は誰が決めるのか。それは自分にとって大切な人が決めてくれる。
自分と一緒にいるとみんな不幸になるという理由で死を選ぶ人がいるが、同時に自分と一緒にいるだけで幸せになる人もたくさんいる。その人たちが自分の価値を決めてくれる。

石田将也には、西宮硝子には、学校に行き始めた結弦がいる。願掛けの髭が似合わない永束がいる。手話を覚え始めた植野がいる。千羽鶴を折ってくれた川井がいる。優しい笑顔で待っていてくれた真柴がいる。もう逃げたくないという佐原がいる。

そして顔を上げれば、周囲の声が聞こえる。様々な顔が見える。それらがいつか自分にとって大切な存在となる日がやってくる。それを知れば、自然と涙が頬を伝う。生きていることがこんなにも素晴らしいことなのだと。

コミュニケーションは自分の想いを伝えるもの。相手の想いを知るもの。相手のことを想う優しさを表現するもの。そして生きていることを実感するもの。
ただその手段が時に日本語になり、時に外国語になり、時に手話になるだけ。つまり、手話も日本語や英語、フランス語と同じ言語なのだ。

そう思うと石田将也と西宮硝子の今後を描かない優しさが心地いい余韻になる。パンフレットに描かれた2人の笑顔が凄く幸せそうに見えてくる。
けれど想像してしまう。きっと石田将也は悩むだろう。あの時「月」と聞き間違えた西宮硝子の想いを考えると、次は自分から想いを伝えねばならないと。そんな想像もまた心地いい余韻となるこの作品は今年の10本に入る素晴らしき映画です。

深夜らじお@の映画館はビンタと土下座を経て親友となったママコンビの今後にも興味津々です。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2016年09月23日 23:50
全7巻の傑作コミックを、よくここまで取捨選択して2時間で纏め上げたと思います。
聾唖という「特殊」なモチーフから始まり、普遍的な人間同士の関わりの物語に落とし込む。
誰もが大なり小なり身に覚えがあるからこそ、心にダイレクトに突き刺さる傑作となりました。
2. Posted by にゃむばなな   2016年09月25日 22:37
ノラネコさんへ

そうそう、誰もが聾唖とか関係なく、「特殊」な対象にやってしまったという経験が根底にあるからこそ、こういう物語は心に染み入るんですよね。
それを見事に映像化した京都アニメーションはやっぱり凄いですわ。
3. Posted by BROOK   2016年11月15日 14:46
遅ればせながら本日鑑賞してきました。

原作(未読)が秀逸なのでしょうね。京都アニメーションの仕事も素晴らしいものがありました。

最後まで心掴まれる展開となっていました。
4. Posted by にゃむばなな   2016年11月20日 15:56
BROOKさんへ

やはり京都アニメーションはいい仕事をしますよね〜。
秀逸な原作に秀逸な演出が組み合わさってこその秀逸な映画が生まれる。
その例に漏れない作品でしたよ。
5. Posted by latifa   2017年05月23日 14:08
にゃむばななさん、こんにちは!
私は映画から先に見て、そのあと、漫画を読んだのですが、2度それぞれ面白く味わうことができました。

単純に絵だけを見ると、映画の方が、漫画より、より一層可愛く描かれていましたが、内容としては、やっぱり原作だけあって、漫画の方が深くいろいろ描かれていて、よかったです。
6. Posted by にゃむばなな   2017年05月25日 00:21
latifaさんへ

これはただのアニメ化ではなく、京都アニメーションという素晴らしきスタジオが映画化したというのがミソなんですよね。
恐らく原作の良さを活かしつつ、「映画化する」という別の楽しみもこの作品に出しているのでしょう。

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