2016年09月25日

『ハドソン川の奇跡』

ハドソン川の奇跡ハドソン川の奇跡。それはNYをトラウマから救った功績。
2009年1月15日、NYのハドソン川に不時着水したUSエアウェイズ1549便。乗客乗員155名の命を救ったチェズレイ・サリー・サレンバーガー機長は奇跡を起こした英雄なのか、それとも乗客を危険に晒した容疑者なのか。
わずが96分。全く無駄のない映画が語る事実がここにある。

離陸から数分で鳥の群れと衝突し、NY上空で両エンジン停止という危機的状況に陥った時に機長が下した判断は正しかったのか。
命を救われた乗客乗員は口を揃えて正しかったと言う。航空会社はCPのシュミレーションを根拠に疑念を抱く。本当はラガーディア空港に戻れたのではないか。またはテターボロ空港に着陸出来たのではないかと。

いつの時代も、どこの組織も、現場を尊重するという意識が薄れると必ず不幸な結果を招く。にも関わらず、上層部は現場の意見よりも机の上にある報告書を重視する。全ては不確かな感覚よりも、明確な数字が自分や組織を守ってくれると思い込んでいるために。

ただ数字は人が打ち込み計算することでしか存在出来ないもの。だからこそ、打ち込む人間が何かを見逃せば全く違った結果しか弾き出さない。ましてや、数値化できない現場の意見ともなれば、それはもはや最重要視されるべきものでもなくなる。

チェズレイ・サリー・サレンバーガー機長は調査を受ける度に何度も悪夢に苛まれる。もし判断を間違っていたら、1549便は街中に墜落していたのではないか。
そしてその悪夢の映像をクリント・イーストウッド監督は観客に否応なしに何度も見せる。2001年9月11日のトラウマを呼び起こさせるために何度も、様々な角度から見せる。

英雄ともてはやされた男が苦悩する。容疑者として疑いの眼差しを向けられた男が苦悩する。
ただNY市民は、アメリカ国民は彼を決して容疑者とは見ない。彼を英雄として称賛する。
それは決して155名の命を救っただけの機長ではなく、9.11の再来を阻止した英雄として見ているからだ。

もし1549便がNYの街中に墜落していたら、誰もが9.11の再来だと言っただろう。それどころか、街中を飛行機が低空飛行しているだけでも、9.11のトラウマが再発する人々もいただろう。

だが機長は信頼するジェフ・スカイルズ副機長を始めとするクルーと共にハドソン川に不時着水するという決断を下し、それを成し遂げた。その英断にフェリーや警備隊を始めとするNY市民がすぐさま救助に向かった。
それはNY市民が自らの力と絆であの忌まわしきトラウマと戦った姿。前例のない災難に戸惑うことなく戦った男を全力でサポートした美しき姿。

前例のない災難はコロンブスの卵と同じ。現場にいる者以外は単純なことを見逃してしまう傾向が強い。
公聴会でのパイロットによる中継シュミレーションには欠けていた、前例のない災難に対する一瞬の判断という35秒。わずか208秒、たった3分28秒で155名の命を、NYの街を救う英断を迫られた時、その35秒を見逃すことがどれだけ英雄に対する愚行であるか。優先事項を間違えた者はCPには計算できない「人的要因」の重要性を軽んじていた己を恥じるべきだろう。

コクピット内での録音を聞き終わった機長は、席を外すと静かに、そして強くジェフ・スカイルズ副機長を誇りだと称賛する。
ハドソン川への不時着水は決して一人の英雄が成し遂げた奇跡ではない。多くの英雄が集い、手を取り合い、成し遂げた功績であるからだ。
そしてその功績も155名の命を救ったものだけではない。NY市民が自らの手であの忌まわしきトラウマと戦った功績でもあるのだ。

スティーブン・スピルバーグ監督は『ブリッジ・オブ・スパイ』でアメリカが持つべき本当の強さと美しさを描いた。
その同じ年に、こちらも同じくトム・ハンクス主演でクリント・イーストウッド監督がアメリカが持っている強さと美しさを描いた。
こんな偶然もまた奇跡ではないだろうか。

深夜らじお@の映画館はこれほど無駄のない静かで強い映画を見たことがありません。クリント・イーストウッド監督、恐るべき86歳!

※お知らせとお願い
【元町映画館】へ行こう!

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. ハドソン川の奇跡  [ あーうぃ だにぇっと ]   2016年09月25日 13:19
ハドソン川の奇跡@ワーナーブラザース映画試写室
2. 劇場鑑賞「ハドソン川の奇跡」  [ 日々“是”精進! ]   2016年09月25日 13:29
「ハドソン川の奇跡」を鑑賞してきました2009年にニューヨークで旅客機がハドソン川に不時着し、世界中で大きなニュースとなった奇跡の生還劇に秘められた知られざる実話を、クリン...
3. ハドソン川の奇跡 / Sully  [ 勝手に映画評 ]   2016年09月25日 16:32
後に“ハドソン川の奇跡”と呼ばれることになるUSエアウェイズ1549便不時着水事故の機長チェズレイ・サレンバーガーの著書『機長、究極の決断』を下にした映画。 いやぁ、あの奇跡の後、サレンバーガー機長がここまで厳しい追求を受けていたとは、寡聞にして知りませんでし.
4. ハドソン川の奇跡  [ 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜 ]   2016年09月25日 17:20
評価:★★★★★【5点】(10) 今まで、着水なら安全と思っていた大きな勘違いに反省しきり。
5. ハドソン川の奇跡 ★★★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2016年09月25日 17:53
俳優としても監督としても著名なクリント・イーストウッド監督と、名優トム・ハンクスがタッグを組んだ人間ドラマ。2009年1月15日、突然の全エンジン停止という危機に見舞われながらも、ハドソン川に不時着して乗客全員が生還した航空機事故のてん末に迫る。『サンキュー...
6. ハドソン川の奇跡  [ みすずりんりん放送局 ]   2016年09月25日 21:02
 『ハドソン川の奇跡』を観た。  【あらすじ】  2009年1月15日、真冬のニューヨークで、安全第一がモットーのベテラン操縦士サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、いつものように操縦席へ向かう。飛行機は無事に離陸したものの、マンハッタンの上空わずか850メートル
7. 「ハドソン川の奇跡」:またしてもクリントの軌跡  [ 大江戸時夫の東京温度 ]   2016年09月25日 22:21
映画『ハドソン川の奇跡』は、まだ記憶に新しい2009年の出来事とその後の日々を描
8. ハドソン川の奇跡  [ Akira's VOICE ]   2016年09月26日 10:04
命が救われた気分を味わえる映画。  
9. 『ハドソン川の奇跡』  [ 時間の無駄と言わないで ]   2016年09月26日 22:55
クリント・イーストウッド監督作ってコトでまぁテンポがイイ。 起承転結全てがもうサックサク。 でも駆け足感はないし、90分の短さなのにとても充実している。 早い展開で飽きさせ ...
10. 映画「ハドソン川の奇跡(字幕版)」 感想と採点 ※ネタバレなし  [ ディレクターの目線blog@FC2 ]   2016年09月27日 19:55
映画 『ハドソン川の奇跡(字幕版)』(公式)を本日、劇場鑑賞。採点は、★★★★☆(最高5つ星で4つ)。100点満点なら70点にします。 ざっくりストーリー 2009年1月15日、厳冬のニューヨーク。160万人が暮らすマンハッタン上空850メートルで、
11. 「ハドソン川の奇跡」☆見事な邦題  [ ノルウェー暮らし・イン・原宿 ]   2016年09月28日 15:57
トム・ハンクスが主役を演じた時点で、もう120%成功したと言っても過言では無い。
12. ニューヨークの善意。『ハドソン川の奇跡』  [ 水曜日のシネマ日記 ]   2016年09月28日 20:03
2009年1月15日、ハドソン川に不時着して乗客全員が生還したという実際に起きた航空機事故の様子とその後を描いた作品です。
13. 「ハドソン川の奇跡」  [ YUKKOのI LOVE MOVIES ]   2016年09月28日 22:22
2009年1月15日で起こった飛行機がハドソン川に着水し乗客155名を全員救ったという実話に基づくお話です。機長役がトム・ハンクス、監督がイーストウッドとくれば見ないわけにはいきま ...
14. 「ハドソン川の奇跡」  [ ここなつ映画レビュー ]   2016年09月29日 15:12
縁あってジャパンプレミアに参加することができた。今回も又舞台挨拶の写真撮り放題で、更にラッキー!最近のSNSなどが大流行りの時代に、効果的にインフルエンスさせるには写真及び動画が最適ツールだと主催者が認識した結果なのかどうかは判らないけれど。肖像権が大流行り
15. 「ハドソン川の奇跡」凄い、素晴らしい…。  [ シネマ親父の“日々是妄言” ]   2016年09月29日 21:33
[ハドソン川の奇跡] ブログ村キーワード  世界中を驚愕させた実話をトム・ハンクス主演で映画化。「ハドソン川の奇跡」( ワーナー・ブラザース)。メガホンを取ったのは、クリント・イーストウッド。いやあ〜、この人やっぱり凄いわ〜!  2009年1月15日、ニューヨークのラガ
16. 『ハドソン川の奇跡』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2016年10月01日 09:11
□オフィシャルサイト 「ハドソン川の奇跡」□監督 クリント・イーストウッド□脚本 トッド・コマーニキ□キャスト トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー■鑑賞日 9月25日(日)■劇 場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★★(5★満点、☆は
17. 『ハドソン川の奇跡』をトーホーシネマズ渋谷2で観て、そんなんでもなかとよふじき★★  [ ふじき78の死屍累々映画日記 ]   2016年10月02日 22:12
五つ星評価で【★★周囲の評判はいいしイーストウッドなのだけど、かなり退屈】 そんなに長い映画ではないのだけど、中盤までかなり退屈だった。 いわゆる「奇跡」を起こしてから ...
18. 映画「ハドソン川の奇跡」  [ FREE TIME ]   2016年10月02日 23:14
10月1日のファーストデーに、映画「ハドソン川の奇跡」を鑑賞しました。
19. ハドソン川の奇跡  [ ★yukarinの映画鑑賞ぷらす日記★ ]   2016年10月03日 16:20
【SULLY】 2016/09/24公開 アメリカ 96分監督:クリント・イーストウッド出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー 155人の命を救い、容疑者になった男。 STORY:2009年1月15日、真冬のニューヨークで、安全第一がモットーのベテラン操縦士サレンバーガ
20. ハドソン川の奇跡  [ ★ Shaberiba  ]   2016年10月04日 13:53
何はともあれこの奇跡に いや真実に 感動しない人はいないでしょう。
21. ハドソン川の奇跡  [ 花ごよみ ]   2016年10月09日 21:41
監督はクリント・イーストウッド。 主演はトム・ハンクス。 2009年1月15日、ニューヨークで起こった 航空機事故からの、生還劇。 マンハッタンの上空850メートルで、 乗客乗員155人を乗せた 航空機をおそったエンジン停止事故。 機長のサリーは ハドソン川への不時着...
22. ハドソン川の奇跡  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2016年10月11日 20:17
 『ハドソン川の奇跡』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。 (1)クリント・イーストウッドの作品だというので映画館に行ってきました。  本作(注1)の冒頭は、機長の「離陸する」の声。それから「操縦不能」「ラガーディアに引き返す」「低すぎる」「もう少しだ、頼むぞ」...
23. 映画:ハドソン川の奇跡 当ブログは目撃者なので当事者?のため、涙が止まらない… 評論不可(笑)  [ 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜 ]   2016年10月12日 00:46
実は当ブログ、たまたまNYで この現場に居合わせてしまった。 その様子は当時、以下のようにレポート。 NY ハドソン川飛行機墜落事故 現場リポート (1) NY ハドソン川飛行機墜落事故 現場リポート (2) NY ハドソン川飛行機墜落事故 現場リポート (3) この調子で、
24. NY ハドソン川飛行機墜落事故「ハドソン川の奇跡」 現場リポート(総論)  [ 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜 ]   2016年10月12日 00:46
NY旅行中に、雪が降った先週の木曜の午後、新名所ミートパッキング・ディストリクトで遭遇した「ハドソン川の奇跡」の一部始終の総論です。 歩いていると、ヘリコプターがぐるぐるとハドソン側周辺〜ミートパッキング地区をまわりだし、最初は1機だったのがどう...
25. ハドソン川の奇跡  監督/クリント・イーストウッド  [ 西京極 紫の館 ]   2016年10月26日 21:28
【出演】  トム・ハンクス  アーロン・エッカード  ローラ・リニー 【ストーリー】 2009年1月15日、真冬のニューヨークで、安全第一がモットーのベテラン操縦士サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、いつものように操縦席へ向かう。飛行機は無事に離陸したものの...
26. ハドソン川の奇跡  [ 銀幕大帝α ]   2017年02月02日 20:49
SULLY 2016年 アメリカ 96分 ドラマ 劇場公開(2016/09/24) 監督: クリント・イーストウッド 『アメリカン・スナイパー』 製作: フランク・マーシャル クリント・イーストウッド 出演: トム・ハンクス:チェズレイ・“サリー”・サレンバーガー アーロン・エ.
27. 『ハドソン川の奇跡』(2016)  [ 【徒然なるままに・・・】 ]   2017年02月16日 20:30
2009年1月15日、USエアウェイズ1549便は、ラガーディア空港離陸直後にバードストライクによって両エンジンが停止。サレンバーガー機長は苦渋の末に市街地を避けハドソン川への不時着水を敢行。乗員乗客155名に一人の犠牲者も出さなかったその決断は賞賛され、一躍英雄となる

この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2016年09月25日 13:35
96分の上映時間で一切無駄がなく、
最後の最後までとても見応えのある作品に仕上がっていたと思います。
事故のことは軽く知るくらいだったので、
今作を通して、いろいろと知ることが出来ました。
2. Posted by みすず   2016年09月25日 21:03
こんばんは^^

素晴らしい映画でしたねー^^
ほんと、96分とは思えない、見ごたえありで。
着水のシーンは見るたびに力入りました!
でも、まさかあの事件のあと、こんなことが起こっていなんて。
驚きでした!
3. Posted by にゃむばなな   2016年09月25日 22:38
BROOKさんへ

日本で報道されたのは事故直後のことだけでしたもんね。
まさかその後にこんなことがあったとは…。
どの国でもマジメな方がきちんと評価されないのは淋しい限りですよ。
4. Posted by にゃむばなな   2016年09月25日 22:40
みすずさんへ

事故の映像をメインにするのではなく、フラッシュバックとして使うこの演出。
しかもそんな物語を96分にまとめる凄さ。
恐るべし86歳ですわ!
5. Posted by ノルウェーまだ〜む   2016年09月28日 17:05
にゃむばななさん☆
確かにサリーは155人の乗客とクルーを救っただけではなく、NYの人の航空機事故のトラウマからも救ったのですね☆
イーストウッド監督凄いです!
6. Posted by YUKKO   2016年09月28日 22:21
食い入るように見入ってしまった映画です。イーストウッド監督上手すぎです。そして機長の3分28秒・・・これは凡人では出来ないです。普通の会社員で良かったと思いましたよ。
7. Posted by にゃむばなな   2016年09月30日 00:39
ノルウェーまだ〜むさんへ

NYの街中に飛行機が落ちるというのが、アメリカ人にとってどういうことなのか。
それを考えるとサリー機長の英断は物凄いことですよ。
8. Posted by にゃむばなな   2016年09月30日 00:40
YUKKOさんへ

この3分28秒のために、この機長がどれだけの訓練を重ね、どれだけの実践を重ねてきたか。
それを思うと、これがプロフェッショナルの仕事なのでしょうね。
9. Posted by mori2   2016年09月30日 01:55
“英雄”というのは、究極の“プロフェッショナル”だということを痛感させられました。しかし、相変わらずクリント翁は素晴らしい仕事をされますね。正に“プロフェッショナル”!
10. Posted by にゃむばなな   2016年10月02日 14:30
mori2さんへ

ほんま、クリント・イーストウッド監督もまたプロフェッショナルですよね。
だらこそ、サリー機長の素晴らしさも同じプロフェッショナルとして分かるところがあるのでしょうね。
11. Posted by FREE TIME   2016年10月02日 23:27
上映時間は96分であっても、事故当時の様子や、事故後の主人公を取り巻く環境の変化などシンプルかつ克明に伝えてくれた作品に仕上がっていました。
エンドロールで本物の機長と当時の乗客が語り合う様子が、何だか心に響きました。
12. Posted by にゃむばなな   2016年10月04日 23:27
FREE TIMEさんへ

本当に無駄のない映画って、本当に伝えたいことが明確になっているのに、それを声高に訴えないのが素晴らしいのでしょうね。
その証拠があのEDロールなのかも…。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載