2016年10月18日

『永い言い訳』

永い言い訳男はみんなヘタレ。ただ叱られたいだけ。
男って生き物は揃いも揃って、叱ってくれる女がいなくなるとすぐにダメになる。なのにそんな女に甘えてたいのに甘えられず、叱られたいのに叱ってもらえず、いつも素直になれない。
だからこそ天邪鬼な男の人生は「言い訳」を贖罪に、贖罪を「言い訳」にする人生なのだ。

西川美和監督が直木賞候補にもなった自身の小説を映画化したこの作品は、OPから衣笠幸夫という男の天邪鬼ぶりを見事に描き出す。
妻の夏子に髪を切ってもらっているこの男には妻への感謝の言葉がない。でも片づけはハナからするつもりでいる。鉄人と同じ読みの名前であるグチを吐き続ける。でも同情されると素直に受け入れることが出来ずに真逆の態度ばかり取る。
要するに彼は妻を愛しているのに、それを言葉にも態度にも素直に表すことの出来ない、ただの子供っぽい大人。本心は大切に想っている妻に愛を伝えるよりも、叱ってもらった後に慰めてもらいたいだけの、甘えたなヘタレさんなのだ。

浮気をするのも本心は妻に叱ってもらいたいだけなのに、その妻がバスの事故で突然他界してしまうと、途端にこの男は戸惑い始める。妻の死にこれっぽっちも泣けなかったのではない。これから自分はどうしたらいいのか分からず、ただ目の前にある葬式なりをこなすだけしか出来ないだけなのだ。

ところが妻の親友であり、同じく事故で亡くなった大宮ゆきの夫・陽一やその子供である真平や灯と出逢ったことで、彼の中で変わり始めたことがある。
それは自分が妻の代わりを務めること。感謝の言葉さえ伝えることの出来なかった妻への贖罪として妻の想いを代行すること。
言い換えると、幸夫は妻がいなくなったことで多少は大人になったのだろうが、でもそれは妻に謝れなかった罪悪感を妻の代行を務めることで「言い訳」にしているだけの行為。

ただアホというよりも視野が狭く、妻への依存度も高かった大宮陽一という父親を見て、母親役を務めるために受験さえも諦めようとした真平に代わり、幸夫が母親役を務めることで大宮家は上手く回り始める。

これはどの家族にも当てはまることだが、家族には必ず父親「役」と母親「役」が必要なのだ。どちらかが欠けると家族は機能しなくなる。だから性別に関係なく、誰かが空いたポストを埋めなければ、家族は家族として回らなくなるのだ。

私も母が亡くなって以降、炊事を担当してきた分かったことは、やはり母親の苦労であり、悦びであり、大変さでもある。だからこそ生前に感謝の言葉を伝えることが出来なかったことに情けなさと悔しさを感じる。
そしてその感情が今日もまた炊事を面倒臭がらずに行おうという気持ちにさせてくれるが、これもまたいわば「贖罪」という「言い訳」の人生。

だから鏑木優子という存在が大宮家に入ってくると嫉妬する気持ちも分かる。陽一が事故を起こしたと聞き、即座に頼れる者には頼るという素直な精神で鏑木家に灯を預け、父親ではなく母親のように真平を気付かないながら陽一の元に向かう強さも分かる。

海で真平や灯が遊ぶ場にあたかも一緒に来ていたかのように自然と夏子が現れるシーンの秀逸さが物語るように、この時には既に幸夫の中では夏子の代わりに子育てに奮闘するという想いが確立していたのだろう。

妻への想いが整理できた幸夫は今もなお大宮家、いや大宮家+衣笠家の母親「役」である。夏子が夢見た母親「役」である。夏子の夫である幸夫にしか出来ない母親「役」である。
だから大宮家の新たなる「母親」役になりつつある鏑木優子への嫉妬もない。なぜなら彼女は夏子の代役ではないからだ。

男は女に叱られる機会を失って初めて気付く。甘えることの出来る機会を失って初めて気付く。その大切さがいかに大きなものであったかを。
その喪失感が贖罪という「言い訳」を死ぬまで続けさせる原動力になる。だから男の人生は「長い」ではなく「永い」言い訳なのだ。

深夜らじお@の映画館にとって男の魅力は人生における後悔の積み重ねで醸し出される味わいにより熟成されるものだと思っています。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2016年10月21日 00:18
にゃむばななさん☆
やはり女性が観のと男性が観たのとでは感じ方もちょっとずつ違うのですね〜
少なくとも男性は女性に甘えているのだと判りました。
甘える対象が母から妻に変わっても、そのことに男性は気付かないのかもしれないですね☆
2. Posted by ジョニーA   2016年10月21日 22:50
師匠譲りの子役演出が見事でした!ただ可愛いだけでなく、
子供ならではの機嫌の損ね方やわがままな部分、そういう
マイナス面までしっかり再現してるのがスゲエなぁーー、と。
「ちゃぷちゃぷローリー」の脚本も載っているという、DVD付き
パンフレットを買うためだけに、劇場へ足を運ばねばな、
と思ってるところでーす。
3. Posted by にゃむばなな   2016年10月22日 23:30
ノルウェーまだ〜むさんへ

男は基本的にヘタレですからね。
仰る通り、甘える対象が変わっても気付いていないと思いますよ。
それが男って生き物ですから…。
4. Posted by にゃむばなな   2016年10月22日 23:31
ジョニーAさんへ

「ちゃぷちゃぷローリー」の脚本も載っているんですか!
恐るべし、西川美和監督!

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