2016年11月02日

『湯を沸かすほどの熱い愛』

湯を沸かすほどの熱い愛誰の心にも「お母ちゃん」が必要だ!
人生に迷った時、前に進みたくても進めない時、いつも我々の背中を押してくれるのは血の繋がりを越えた「お母ちゃん」と呼びたくなる女性。
本気で心配してくれて、包み込むように優しく抱きしめてくれて、いつも味方になってくれる「お母ちゃん」に涙が止まらない。

「湯気のごとく亭主が蒸発しました。しばらくお湯は沸きません」という張り紙を張って銭湯・幸の湯を1年間も閉めていた幸野双葉。誰からも好かれるというよりは、誰にでも自分の子供のように世話してくれる彼女の大きな優しさに触れると、自然とこの「お母ちゃん」にいい報告をしたくなる。

学校でイジメに遭っても反抗も認知もしてこなかった安澄が体操服を脱いでお母ちゃんが買ってくれた下着姿になってまで制服奪還を成し遂げる。
誕生日に実母が迎えに来ると信じても叶わずお漏らしまでしちゃった鮎子が泣きながらこの家に置いて欲しいと懇願しながら強い子になると心を決める。
北海道出身と嘘をついたバックパッカーの拓海が日本の最北端を目指すという目標を通して自分の歩む道を照らしてくれたお礼の報告に来る。

これは実母に限らず、職場などでも出逢う母親世代の女性たちに、特に精神面でお世話になった若い世代が自然と抱く気持ち。時に実母以上に親しみを感じる「お母ちゃん」的存在に対し、自分が出来ることなら何でもやります!恩返しをしたいんです!と思える気持ち。

でも「お母ちゃん」は決して恩返しを望んでいる訳ではない。自分の子供のような若者や頼りないダンナのことが心配なだけ。
特に末期がんと診断された双葉にとっては、その心配というのはあまりにも大きすぎるもの。本当に私がいなくてもダンナ・一浩の前妻の娘・安澄は、一浩の愛人の娘・鮎子は、人生に迷った拓海は、娘を育てるという現実から逃げ出した酒巻君江は、片親での子育てと探偵業で忙しい滝本は、そしてピラミッドを見せてくれると約束するも果たしてくれないダンナは大丈夫なのかと。

だから安澄に実母の君江と逢わせる旅に出る。安澄に手話を学ばせていたのもこの時のため。いやこの時から始める大切な時間のため。
鮎子やダンナには家族4人でしゃぶしゃぶを楽しみ、家族4人で毎日銭湯の掃除をする。家族がバラバラにならないように。

そんな双葉もまた実は母親に捨てられた過去を持つからこそ、実母が幸せに生きているという現実に複雑な気持ちを抱く。双葉にも「お母ちゃん」が必要なのに、その「お母ちゃん」は天国にはいない。私は大切な子供たちを残して一人で旅立たねばならないのかという悔しさがより彼女を孤独にする。

けれど双葉には血の繋がりはなくても心が繋がっている大切な家族がいる。そんな家族が夜の病院敷地内で人間ピラミッドを作る。発案者のダンナと共に拓海と滝本が土台になり、安澄と君江が中段に、鮎子が頂上に、そして滝本娘がスフィンクスに。
実物のピラミッドには敵わないかも知れないけれど、世界に二つとない幸野双葉にとっては人生最高のピラミッドに観客の涙が止まらなくなる。

ただ個人的にはあのラストがどうも気になる。人間ピラミッドのくだりで終わらせず双葉の臨終直前のシーンを入れたかと思えば、最後は双葉を幸の湯で火葬するというのは、ちょっとこれまでの流れを考えるとベタから急に奇を衒った展開になったかのようにも思えて仕方ないこと。
確かにこれで「湯を沸かすほどの熱い愛」という妙なタイトルの意味も理解は出来たけれども、そこまで双葉が望んでいたシーンもなかっただけに、ちょっと複雑な気持ちになったまま劇場を出るハメになったのは少々残念。最後までベタを押し通しても良かったのに…。

てな訳でやっぱり男は女には敵わない。特に母になった女性には敵わない。だって「お母ちゃん」なんだから!ということを改めて痛感した良き映画でした。

深夜らじお@の映画館にも「お母ちゃん」と呼ぶに相応しいほど、お世話になった女性がたくさんいます。

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2. ショートレビュー「湯を沸かすほど熱い愛・・・・・評価額1700円」  [ ノラネコの呑んで観るシネマ ]   2016年11月06日 22:30
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 余命宣告された主人公が、残された時間でバラバラだった家族の抱える問題を総解決。  
予告編で全部見せちゃってない?と思っていたのだけど、あれ
3. [映画『『湯を沸かすほどの熱い愛』を観た]  [ 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 ]   2016年11月09日 00:27
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4. 湯を沸かすほどの熱い愛  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2016年11月11日 07:04
 『湯を沸かすほどの熱い愛』を渋谷シネパレスで見ました。 (1)宮沢りえの主演作ということで映画館に行ってきました。  本作(注1)の冒頭は、銭湯の煙突。ですが、煙が出ていません  銭湯の入口も閉まっていて、「店主が蒸発し、お湯は沸きません  幸の湯」の張...
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6. 湯を沸かすほどの熱い愛  [ 象のロケット ]   2016年11月11日 12:40
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7. 「湯を沸かすほどの熱い愛」  [ お楽しみはココからだ〜 映画をもっと楽しむ方法 ]   2016年11月13日 23:16
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8. 『湯を沸かすほどの熱い愛』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2016年11月23日 09:23
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12. 湯を沸かすほどの熱い愛  [ C’est joli ここちいい毎日を♪ ]   2017年01月15日 19:41
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14. 「湯を沸かすほどの熱い愛」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2017年04月29日 13:16
花ちゃんとリエさんの演技が素晴らしかった。

この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2016年11月04日 22:12
にゃむばななさん☆
そうなんですよ〜
結構最初の方からずーっと泣き通しだった私が、最後のシーンだけありゃ?!と涙が乾いちゃったのでした。
2. Posted by ノラネコ   2016年11月06日 22:41
私はこのラスト、好きです。
主人公の人生は、もう常識とか法とにことごとく裏切られてきたわけです。
だからそんな建前に守られたモラルをぶっ壊したところに帰結するのは納得でした。
赤い煙とかもありえないんだけど、実に映画的で余計に泣けました。
3. Posted by にゃむばなな   2016年11月06日 23:09
ノルウェーまだ〜むさんへ

あのラストシーンに至るまでに何かしらのネタフリがあれば良かったのですが…。
もしかしたらカットされちゃったのかな?
4. Posted by にゃむばなな   2016年11月06日 23:13
ノラネコさんへ

なるほど、確かに双葉のこれまでの人生を考えるとこの帰結が決して納得できないものではないのは理解出来ました。
ただ個人的な感情としては、やっぱりラストまでに何かしらのネタフリが欲しかったですよ。
5. Posted by FREE TIME   2016年12月04日 23:07
人によって母親像というのは異なると思いますが、この映画でも様々なタイプの母親が出てきていたのが印象に残りました。
宮沢りえと杉咲花の親子の会話も何回かありましたけど、どれも響くものがありましよ。
6. Posted by にゃむばなな   2016年12月07日 23:53
FREE TIMEさんへ

母親像って人それぞれでしょうけど、共通して願うのはやはりおなかを痛めて生んだ子供のことは大切にしてほしいということ。
そういう想いを持てる母親がきっといい母親像なのでしょうね。
7. Posted by latifa   2017年04月29日 13:17
にゃむばななさん、こんにちは!
GWいかがお過ごしでしょうか

これ、レンタル開始日に借りて来ました。
とても良かったのだけれど、私もラストは、うーーんん・・・・と、しばし考えてしまいました。
今もちょっとモンモンとしてる処です・・。
リエちゃんと花ちゃんの演技は素晴らしかったです。
8. Posted by にゃむばなな   2017年04月29日 23:30
latifaさんへ

そうなんですよね、あのラストはどないなんでしょう?
あのラストに至るまでがベタでも心に響くものだっただけに、あのラストをどう理解していいものやら…でしたね。
9. Posted by ジョニーA   2017年05月08日 08:18
リアリティに拘る人は、途中の展開の不満が、徐々に徐々に積み重なっていって、ラストのアレで、「不謹慎だ!」と激怒してしまうようです。
この映画は、観客の倫理観を知るリトマス試験紙のような働きがあるように思いますね。たとえば私などは、いじめに関して、無理やり登校させようとするシーンでちょっと違和感を感じましたが、
その部分に譲れないものを持っているからなのでしょう。ラストの解釈として、猪木イズム説を唱えている人がいました。
面白かったのでリンク貼りますね↓
http://ussii.net/cinema/2016/11/15/%E3%80%90%E3%80%8E%E6%B9%AF%E3%82%92%E6%B2%B8%E3%81%8B%E3%81%99%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%86%B1%E3%81%84%E6%84%9B%E3%80%8F%E3%81%AB%E6%84%9F%E3%81%98%E3%82%8B%E9%81%95%E5%92%8C%E6%84%9F%E3%81%B8/
10. Posted by にゃむばなな   2017年05月17日 23:01
ジョニーAさんへ

これは凄い解釈ですね。
納得するには無理矢理感が否めないですが、こういうのは嫌いではないです。
むしろこの熱さは好きですわ。

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