2017年03月20日

『わたしは、ダニエル・ブレイク』

わたしはダニエル・ブレイク私はダニエル・ブレイク。ニューカッスルの一市民。それ以上でもそれ以下でもない。
引退を撤回してまで80歳の巨匠ケン・ローチが伝えたかったこと。第69回カンヌ国際映画祭ではパルムドールを、第70回英国アカデミー賞では英国作品賞を受賞したこの作品で伝えたかったこと。
それを世界は今忘れているという現状に気付いているだろうか。

恥ずかしながら映画ファンを20年もしていながら、ケン・ローチ監督作品を拝見するのは今回が初めて。

そんなケン・ローチ監督は長編映画デビューから50年もの間、一貫して社会派のテーマを描き続けてきたが、その作品は一見すると本当に地味。しかしそれはシンプルが故に本当に伝えたいことがストレートに伝わってくる構造でもあるのだろう。

この映画の主役でもあるダニエル・ブレイクは心臓の病が原因で大工の仕事にドクターストップが掛かったとはいえ、その存在はどこの国にもいる「コツコツとマジメに働いてきた古き良き隣人」そのもの。
そんな彼が困難な状況に陥った時、妻を亡くし一人で生きていかなくてなならないのに、失職した彼を救うことは誰の責務だろうか。私はそれこそ国家の責務ではないかと思う。

失業手当を不当に得る輩がどこの国でもいるこの時代において、彼は基本的には自分の力で生きていきたいという想いを貫こうとしている。
でも命に代用は効かないからこそ「仕方なく」国の援助を頼ろうとしているのに、そこに立ちはだかるのは福祉制度のややこしい手続き。いや正確にはややこしい手続きをさらにややこしくしている職員たちの給料泥棒的な職務態度。

民間企業に勤めていれば利益追求のために顧客サービスにまで磨きをかけるのは当然のことだが、利益追求を最重要課題に挙げないがために公共サービスの「サービス」という部分の意味合いをすっかり忘れてしまった者たちがいる職場では「顧客」の意味合いさえ忘れ去られてしまっている。

しかもそんな輩が手当支給の決定権まで握っているとなれば、もはやそれは市民を不幸にする悪職でしかない。
特にインターネット環境に疎い世代に対し、用語の説明もせずに使用方法を専門用語を連発して説明するくだりなどは、まさに「顧客」の存在も「サービス」の意味合いも理解していない愚者の行為でしかない。

対してダニエル・ブレイクは2人の子供を持つシングルマザーのケイティを自分が出来る範囲で精いっぱい助ける。生ゴミをいつも玄関前に置く隣人の黒人青年がシューズの輸入販売で成功したいという夢にも出来る範囲で協力してくれる。
それは仕事で言えば「顧客」を満足させる素晴らしき「サービス」であるが、日常生活においては実はそれはごく当たり前の「助け合い」そのもの。何も珍しいものでもなければ、専門用語もいらない誰にでも出来ることでもある。

だからこそ、ダニエル・ブレイクは地味でも格好いい。彼が困っているなら誰でも助けてあげたいと願うし、彼が壁にスプレーで主張を書くのも応援したくなる。そして彼の主張に激しく同調してしまう現状はイギリスも日本も変わらないと痛感してしまう。

私たちが出来ることは隣人に手を差し伸べること。国家が出来ることは弱者に手を差し伸べること。
けれど現実はどうだろう。私たちは隣人に手を差し伸べているだろうか。国家は弱者に手を差し伸べているだろうか。

前者は一人一人の想いを行動に移すだけで実現可能だが、後者はそこで働く一人一人が動かねば実現可能にはならない。
だが共に同じなのは、一人一人が「助け合い」の想いを実行に移すだけの話である。大きくは何も変わらない。

なのに、それが実現されていない現代社会。イギリスも日本も先進国なのに、このままで本当にいいのだろうか。80歳の巨匠が引退宣言を撤回してまで伝えたかったことが、どうか世界に広まりますように。

深夜らじお@の映画館も助け合いの精神を大事にしたいと思います。

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3. 「わたしは、ダニエル・ブレイク」  [ ここなつ映画レビュー ]   2017年04月10日 13:00
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