2017年04月03日

『ムーンライト』

ムーンライトムーンライトに照らされると、黒人の少年も青色に見える。
これは黒人のゲイ映画。誰もが共感する青春映画。でも最後に気付かされるのは、これがその詩的映像美に言葉を失う愛の映画だということ。
『ラ・ラ・ランド』とは真逆の静かさと力強さがずっと心に残る。それが第89回アカデミー作品賞に輝いた映画である。

マイアミの貧困地域、母の麻薬中毒、同級生からのイジメ、そして自分はゲイ。常に怯えながら生きている一人の少年:シャロンは、リトルと呼ばれ、シャロンと呼ばれ、ブラックと呼ばれながら成長していく。
しかしその成長していく姿は何も特別ではない。誰の人生にでも起こりることばかり。生活や家庭環境、人間関係、恋愛感情。それらが3幕に分けられて描かれていく。

フアンと出逢った第1幕「リトル」では、他人でありながら、兄貴分であり、親父代わりであり、子供好きの近所のおじさんでもあるフアンを演じるマハーシャラ・アリを見れば、誰もが彼のオスカー受賞に納得してしまう。
海で泳ぎを教えるシーンがまるで洗礼の如く美しさを放ち、少年に生きていくべき道を示そうとする大人の優しさ。そこに過酷な現実が交差する時、苦しむ少年を導くことの出来ない大人としての悔しさと淋しさが静かにスクリーンに残る。

親友のケヴィンに恋心を抱き始める第2幕「シャロン」では、孤独な思春期に苦しむ青年の姿に思わず心が苦しくなる。フアンは既に何らかの理由で他界しており、母親の麻薬中毒は進み、学校でのイジメも過酷さを増すばかり。
常に「フアンさえいれば」という言葉にならない青年の表情が、ケヴィンと接する時だけは心の奥底に潜む力強さを垣間見せる。
だから青年は親友の殴打に無言で耐え、その親友を苦しませた同級生を椅子で殴り倒した。全ては海辺で結ばれたこの想いだけは誰にも汚されまいという力強さがあったからだろう。

そしてマッチョな売人となってしまった第3幕「ブラック」では、フアンが歩ませたくなかった人生を歩み、麻薬中毒だった母親とも距離を置く大人の男がより孤独に見えるはずなのに、一本の電話がそんな彼を孤独という世界から引き摺り出す。

料理人となった親友ケヴィンからの電話は、シャロンにとっては忘れられない初恋の相手からの再会の約束。だが「ククルクク・パロマ」と共に車を走らせる彼の表情を見て、親友のために料理を作ると言ってくれたケヴィンの表情を見て気付かされる。
あぁ、これは青春映画ではない。ゲイの映画でもない。愛の映画だと。月の光に照らされ青色に見える少年が大人になるために注がれた様々な愛が描かれた映画だと。

フアンはずっと自分と同じ道を進むなと人生を諭してくれた。母親は自分のような弱い人間になるなと涙を流してくれた。そしてケヴィンは俯く癖も売人という仕事も否定せず、今もなおこんな自分を受け入れてくれる。

だからシャロンが親友に打ち明ける。初恋の相手に打ち明ける。あの海辺での情事以降、誰にも自分を触れさせていないと。
それはストイックな愛の告白。ピュアな愛を守り続けた告白。どんなに見た目が代わっても、フアンから教えられ、母親を反面教師にし、ケヴィンを想い続けた、今も変わらぬシャロンの強き想い。

それが美しい映像で力強く、でも静かな余韻を残しながら語られる。何とも心地いいラストではないだろうか。

深夜らじお@の映画館はこの作品のオスカー受賞に納得です。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年04月05日 11:08
にゃむばななさん☆
納得のアカデミー賞作品賞でしたね。
まさに純愛の映画。
愛とは相手をそのまま受け入れることなのかもしれません。
そういう意味ではフアンが頑ななシャロンに向ける無償の愛も、母とシャロンの不器用な愛もケヴィンとの硬い絆にも似た愛も同じなのかもしれませんね。
2. Posted by にゃむばなな   2017年04月06日 00:00
ノルウェーまだ〜むさんへ

そうですね。まさに純愛の映画。
人が生きていくのは周囲からの様々な形の愛を受けるもの。
相手をありのまま受け入れることが軽視される時代だからこそ、オスカーに輝いたのかも知れませんね。
3. Posted by ノラネコ   2017年04月07日 22:06
シンプルながら明確なテーマを持つ物語、綿密に構成された映像と音、そして繊細な演技。
映画のトリニティをじっくりと堪能できる傑作でした。
まさに忘れられない映画です。
4. Posted by にゃむばなな   2017年04月08日 22:59
ノラネコさんへ

ほんと、忘れられない映画ですよね。
静かに、そして力強く、ゲイ映画ではなく、愛の映画として物語を紡ぐ。
その美しさが何とも言えないものでしたよ。
5. Posted by FREE TIME   2017年04月13日 22:38
アカデミー賞作品で予定より早く公開されたので鑑賞してみましたが、何だか重苦しいテーマを扱った映画でしたね。
でも、3世代にわたってざまざまな人生経験をしたシャロンの気持ちが何となくわかる気がしました。
6. Posted by YUKKO   2017年04月13日 22:58
純愛のお話でしたね。男性同士の愛って「ブロ−クバックマウンテン」みたいな感じかと思ってしまいました。本当に切なかった。
7. Posted by にゃむばなな   2017年04月21日 23:30
FREE TIMEさんへ

重苦しいというよりも、誰しもが本当は経験しているのに、その苦しさゆえに忘れてしまっていることを丁寧に描いているように、個人的には思えましたね。
まぁ映画の感じ方は人それぞれなうえに、賛否分かれるタイプの映画ですからね。
8. Posted by にゃむばなな   2017年04月21日 23:32
YUKKOさんへ

『ブロークバック・マウンテン』とは違い、まさにプラトニック・ラブに近いものでしたね。
やっぱり純愛って同性愛・異性愛関わらず、美しいですよね。

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