2017年05月21日

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

マンチェスター・バイ・ザ・シーこの冷たい風も、必ず温かい風になる。
実兄ベン・アフレックの影で密かに輝き続けていたケイシー・アフレックが第89回アカデミー主演男優賞を受賞したこの作品は、静かで地味な映画。でも保護者になるという決断をした者の強さを静かに描いた映画でもある。
だからこそ、弟という立場をよく理解しているケイシー・アフレックには相応しい映画なのかもしれない。

仕事は丁寧だが、他人との距離を置く便利屋のリーにある日届いた兄の訃報。とある理由で帰りたくなかった故郷:マンチェスター・バイ・ザ・シーでは人々がリーの顔を見ては腫物に触れるような扱いしかしない。
周囲からの信頼の厚かった兄と、性格的に問題があって故郷を離れたようではない弟。そこに残された甥のパトリックという存在が大きく関わる。

実父を亡くしても二股彼女たちとの情事、バンド活動、アイスホッケー部の友人たちとの時間を優先し、哀しき現実を直視せずに、でも自分なりのペースで、時に叔父とぶつかりながらも父が遺したボートは手放さないと頑固になりながら現実と向き合うパトリック。
一見すれば薄情にも強情にも見える少年も、叔父であるリーの過去を知ると、その薄情さも強情さもある意味少年なりの、甥なりの不器用な叔父への応援なのかも知れない。

というのも故郷には住みたくないというよりも帰りたくないというリーの過去が徐々に描かれてくると、2つのことは分かってくる。
一つは兄を誰よりも信頼し、甥を誰よりも可愛がっていたこと。
もう一つは誰よりも大切にしていた3人の子供たちを自分が犯した暖炉での火の不始末から死なせてしまうも、それに対して法律上の罰を与えてもらえなかったこと。

つまり彼は誰からも責められなかったからこそ、誰からも赦されなかった。
だから自分で自分を責め続けた。誰もが彼を赦しても、彼が彼自身を赦さなかった。
そして近くで最も心配してくれていた兄にその感謝を十分に伝えきれぬまま、今日に至ってしまったのだ。

ただ兄が自分をパトリックの後見人にするという遺書から伝わる想いを知り、パトリックと故郷の冷たい風を全身で受けながら、友人たちの助けを素直に受けて考える。
自分はどうすべきなのかと。パトリックをどう扱うべきなのかと。

やがて彼は答えを出す。元妻ランディの幸せを知り、彼女の謝罪の言葉に自分も自分自身を赦すべきだという涙を流し、兄の想いを思い出して答えを出す。

マンチェスター・バイ・ザ・シーに留まりたいという甥の想いを尊重し、友人ジョージにパトリックを預ける。ボートも家も貸し出すが、決して手放さない。
そして自分はボストン郊外へ帰る。ただし甥が遊びに来るスペースのある新居に帰る。兄ジョーがソファーを複数置いてくれた優しさを今度は活かせる我が家へ帰る。

冷たい冬風が吹く故郷にもやがて温かな春風は吹く。ボストン郊外で雪かきをしなくてもいい季節がやってくる。
そして傷ついたリーの心にも、その傷がようやく癒される日がやってくる。今は亡き兄ジョーが最も待ちわびた日がやってくる。

だがこの映画ではその日は描かれない。春風が吹く日も描かれない。なぜなら誰もがもうその日が必ずやってくることを確信しているからだ。リーの生きる力が蘇ることを誰も疑わないからだ。そんな優しさがこの映画には詰まっている。

深夜らじお@の映画館はケイシー・アフレックにこの役を進めたプロデューサー:マット・デイモンの兄心にも深く感心しております。

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acideigakan at 23:25│Comments(2)clip!映画レビュー【ま行】 

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1. 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」  [ ここなつ映画レビュー ]   2017年05月22日 00:27
ありきたりな表現が許されるなら、傑作である。ただただ、傑作である。ネタバレ含みますので未見の方はご注意下さい。マンチェスター・バイ・ザ・シーの穏やかな海の風景。ヨットで海に出て釣りをする家族の描写。父と子と、子の叔父と。冬の過酷な寒さのボストンの「今」の
2. マンチェスター・バイ・ザ・シー ★★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2017年05月22日 19:10
「ジェシー・ジェームズの暗殺」「ゴーン・ベイビー・ゴーン」のケイシー・アフレックが心に深い傷を抱えた主人公を好演し、アカデミー主演男優賞をはじめ主要映画賞を総なめするなど各方面から絶賛された感動のヒューマン・ドラマ。ある悲劇をきっかけに故郷のマンチェス...
3. マンチェスター・バイ・ザ・シー  [ 心のままに映画の風景 ]   2017年05月24日 18:38
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4. マンチェスター・バイ・ザ・シー  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2017年05月30日 21:39
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5. マンチェスター・バイ・ザ・シー/MANCHESTER BY THE SEA  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2017年05月31日 11:28
泣くつもりなんてなかったんだけど 今年のアカデミー賞にて、作品賞ノミネート ケイシー・アフレックが主演男優賞と、脚本賞で受賞 ある悲劇をきっかけに故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに背を向けて生きてきた孤独な男が、 兄の突然の死で帰郷を余儀な...
6. 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」  [ 或る日の出来事 ]   2017年07月07日 07:18
叔父と甥の会話(言い合い)が、なかなか笑える。ユーモアがあっていい。

この記事へのコメント

1. Posted by ジョニーA   2017年05月30日 05:17
★マイブログに、リンク&引用、貼らせてもらいました。
(トラバは、ヤフーブログ間でしかできない仕様になってしまいましたので、
もう貼れませんー。残念です!)
不都合あればお知らせください(削除いたします!)
なにとぞ宜しく、お願いいたしまっす!

☆個人的には、「北の国から」の丸太小屋火災シーンを思い出してしまいました・・・
2. Posted by にゃむばなな   2017年06月03日 23:06
ジョニーAさんへ

「北の国から」ですか〜。懐かしいですなぁ〜。
リンク&引用は報告さえしていただければ大歓迎なので、今後もよろしくお願いします。

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