2017年06月24日

『ハクソー・リッジ』

ハクソー・リッジ武器を持たずに英雄になった兵士がいた。
これが信仰の為せる業なのか。これが実話だというのか。
沖縄戦終結から72年。衛生兵としてハクソー・リッジこと前田高地にて75人の兵士を救ったデズモンド・ドスの雄姿を描いた本作は、改めて戦争の恐ろしさを映像で描く傑作。そしてメル・ギブソン監督らしい力作である。

幼少期に弟をレンガで殴ってしまって以降、聖書の「汝、殺すなかれ」という教えを何よりも守り通すデズモンドにとっての苦悩。それは祖国のために戦いたいが、信念に従う以上は銃を手に出来ないというジレンマ。

第一次世界大戦のPTSDに苦しむ父親に銃口を向けてしまったことにも悔やみながらも、ナースのドロシーとの婚約にまで漕ぎ着けた彼にとって、そのジレンマを解消してくれるのは衛生兵という任務だけだが、信頼と規律を重んじる軍において特別扱いはありえないこと。

厳しい訓練や仲間からの仕打ち、上官からの嫌がらせにも耐え、さらに軍法会議に掛けられても曲げないデズモンドの信念とは何か。
当時の日本でなら非国民扱いされるものが、良心的兵役拒否という信仰の自由を認めるアメリカならではの制度に救われた彼を見て思う。その信念は本当に強いのか。戦地でもその信念を曲げずにいられるのかと。

そんな疑念を抱きながらも間髪入れずに平時から戦時へと切り替わる後半からは、前半の平時がどれほど大切な時間だったかを痛感すると同時に、戦場へと送られた者たちが抱く恐ろしさを、多少日本兵を誇張することで描いているところがとにかく素晴らしく、また恐ろしいこと。

例えば己の命を投げ出してでも敵を倒す日本兵は、当時のアメリカ人にとっては自分たちの常識では計り知れない敵だろう。まさに人間の姿をした別の生き物と戦うような恐ろしさに加え、「のこぎり崖」と呼ばれる崖を登り切った場所、つまり逃げ場がほぼない場所で戦うとなると、その恐ろしさはもはや想像を絶する域だ。

なのにデズモンドは、そんな場所で己の危険も顧みずに「絶対に助ける」と約束した仲間を一人また一人と運んでいく。

けれど彼が負傷兵を救う場所は艦砲射撃による砂埃で流れ弾さえ見えない戦場だ。その砂埃が撤退した味方と共に去ると、そこは誰も彼を助けてくれない孤独な戦場だ。
また夜になれば敵に見つかりにくい反面、物音を立てられない緊張感とも戦わなければならない戦場にもなる。日が昇れば夜通し単独で動き続けた疲れから一瞬の気の緩みが死に繋がる危険度が一気に増す戦場にもなる。

そんな戦場で彼はブラジャー結びのロープに負傷兵を絡ませ、屈強な男たちを一人また一人と安全な崖下へと下ろしていく。
だがそんな行動を繰り返せば、いくら同じ軍事訓練を受けた彼でも相当の負荷が身体に溜まっていくはず。となれば自然と観客の心には「もういい、あなたは十分多くの仲間を救った。だからお願い。早くその危険な場所から逃げて!」という想いが生まれる。

でも彼は自分を守る武器も持たず、自分を守る仲間もおらず、自分の命は自分で守るしかない状況下でただただ「神様、お願い。もう一人助けさせて」と繰り返し祈るだけで動いている。本当に信仰心だけで彼は動いている。

だからこそ軍曹を救助し、一度は戦場から離れた彼を仲間の誰もが勇敢な兵士だと讃える。上官からの催促よりも彼の安息日の祈りが終わるのを全員が待つ。そして自分の命を預けるに相応しい仲間だと認め、再び戦場へと戻っていく。

しかしメル・ギブソン監督は最後まで彼を戦場の英雄としては描かない。戦場で仲間を救った英雄としてしか描かない。
祖国を想い戦ったのは敵も同じ。日本兵に治療を行ったシーンを描いたのも「戦わない勇気」を貫く強さこそ、本当に必要とされているものであるというメッセージなのだろう。

戦場は経験した者にしか語れない、いや経験した者だからこそ語れない悲惨な場所だ。そんな場所で「負傷した者を救う」ことで英雄になった実在の人物を描いた本作を見ることで我々は知らなければならない。本当の勇気と強さというものを。

深夜らじお@の映画館は戦争について改めて学ぶためにも、いつか沖縄を訪れたいと思います。

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映画 『ハクソー・リッジ(字幕版)』(公式)を昨日、劇場鑑賞。採点は、★★☆☆☆(最高5つ星で2つ)。100点満点なら40点にします。 ざっくりストーリー 田舎町で育ったデズモンド・ドスは、幼少期の苦い経験から、人を殺すことを禁じる宗教

この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2017年06月25日 05:59
メル・ギブソンはまた凄い戦争映画を完成させましたよね。
アカデミー賞のいくつかの賞を獲得したのも納得の出来となっていました。

戦闘シーンの描写は凄まじいのひと言でした。
2. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年06月25日 08:55
にゃむばななさん☆
日本兵を悪く描いているにもかかわらず、日本人の私たちでさえ胸が熱くなる見事な作品でした。
正しい信仰の在り方を痛感しました。
3. Posted by にゃむばなな   2017年06月25日 15:19
BROOKさんへ

オスカー編集賞を受賞した作品は面白いという通説に疑いなしでしたよ。
やっぱりメル・ギブソン監督は容赦しないところがいいですよね。
4. Posted by にゃむばなな   2017年06月25日 15:20
ノルウェーまだ〜むさんへ

日本兵を誇張して描くことで、日本人にも見易い作品になっていたのかも知れませんね。
それにしても信仰の強さって凄すぎますわ!
5. Posted by FREE TIME   2017年07月02日 21:59
こんばんは。
TBはgooに送信してみましたがコメントはこちらでいいのでしょうか?

実話を基にした作品だけに戦場の様子がリアルに伝わってきて恐ろしく感じました。
やはり戦争なんてするもんじゃないですね。
沖縄の悲劇を繰り返してはいけません…。
6. Posted by にゃむばなな   2017年07月02日 23:41
FREE TIMEさんへ

TBの送信、ありがとうございます。
コメントは引き続き、こちらのlivedoorブログにてお願いします。

そうそう、日米共に多くの犠牲を出した戦争でしたからね。
もうこんな悲劇は御免被りますよ。

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