2017年06月25日

『ありがとう、トニ・エルドマン』

トニ・エルドマンユーモアなくして人生楽しからず。
こんな親父を持つと娘は苦労する。でもこんな親父になってみたいとは思ってしまう。それがトニ・エルドマンの最大の魅力なのかも知れない。
第89回アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた本作が描く、普遍的な父娘関係。やっぱりこの父親にしてこの娘ありですな。

ブカレストでコンサルタント会社に勤務するイネスは仕事ばかりで多忙な毎日を送る、本当に真面目で有能な女性。
ただ堅物に近い風貌に加え、仕事を得るためとはいえ、「私も同感です」という言葉を多用するので、自分の色をあまり出さない。つまりユーモアがないので、どうしても人間としての魅力には欠ける女性。

対してこんな娘を心配してドイツから訪ねてきたヴィンフリートは、どんなにスベっても気にせず悪ふざけを行っては、時に黒髪のカツラを被って「人生コンサルタント:トニ・エルドマン」としても振る舞う、ユーモアセンスに溢れた、偽入れ歯を愛用する父親。

当然、娘のイネスからすれば「いい歳こいて、何してんのよ!」と言いたくなる父親だが、ヴィンフリートからすれば「そんなに多忙で人生楽しいか?」と言いたくなるのがイネスの現状なのだから、そりゃ父親として娘を心配するのは当たり前。

ただ社会人としてそれなりの成功を収め、形だけの彼氏もいる娘にストレートに言っても聞き入れてもらえないのは、世界中どこでも同じこと。
ならば、そんな娘の人生をどうコンサルティングするか?と考えたら、やはり周囲との関係を改善させるのが最も近道な答えだろう。

そしてユーモアセンスに溢れた父親が取った行動がトニ・エルドマンとして娘の行く先々で神出鬼没に登場しては、そこでブーブークッションや誰でも嘘と分かるようなホラで周囲の記憶に残るような「くだらない」悪ふざけを行うこと。

しかも「娘が疎遠なので、代理の娘を雇った」など、相手が答えに困る辛辣なジョークも連発するため、周囲は対応に困る。娘イネスも自分の立場に困る。
けれどそれでもヴィンフリートがやめないのは、ここでユーモアで対応してみろよという無言の要求なのだろう。人生楽しければ、ユーモアにはユーモアで応えることが出来るだろうと。

そんな父親の想いに娘がようやく気付き始めたのは、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love Of All」を父親の伴奏で歌わされるくだりから。
それまでは、どちらかというと石橋を叩いて渡るタイプだったイネスがやけっぱちになって人前で歌声を披露してからは、自分の誕生日パーティでまさかの裸パーティを提案するのだから、やはりあの父親にしてこの娘ありなのだ。

さらに服が気に入らない、脱ぐのも大変だ、もういいわ、裸になる!参加者も裸になりなさい!とイネスが決めれば、その決断にどういう反応を示すかで人間関係も分かってくるもの。
仲の良かった友人や同僚は裸になりたくないと帰り、部下はイネスの新たな一面に親しみを感じて裸パーティ一番乗りを果たし、上司は困惑するものの裸になって再登場すれば、そこで都会に暮らすからこその希薄な人間関係、希薄と思われていたが実はそうでなかった人間関係が分かってくる。

だからイネスはそこで初めて、社会人となって初めて父親に感謝の言葉を伝えたいと思ったのだろう。毛むくじゃらのクケリになってパーティ会場であるイネスの自宅に登場しては去っていく父親を公園まで追いかけ抱きしめる娘の気持ちは、社会人になって改めて親に感謝の想いを伝えたいと実感したことのある人なら誰でも共感できるものではないだろうか。

そんなクケリの着ぐるみを脱ぐのにも大いに苦労したヴィンフリートが実母の葬式でイネスに再会するラストは、まさにこの父娘はやっぱり血は争えんなと思える、微笑ましいシーン。
父親の偽入れ歯を嵌め、祖母の残した帽子を被るイネスは、まさに偽入れ歯を愛用し、カツラを被ってトニ・エルドマンに扮するヴィンフリートそのもの。

それまで堅物表情だったイネスが不細工だけれど、どこか愛嬌のある顔になる。それを写真に撮りたいという父親を静かに待つ、つまりは写真に撮られることを拒否しない。それはイネスの人間としての大きな成長を静かに描いた素晴らしいラストシーンだ。

やはり人生はユーモアなくして楽しからず。

ボケたらつっこみ、ツッコミを期待してボケる関西人として言わせていただくと、笑いは待つものではなく得に行くもの。笑わせてもらうのを待つのではなく、笑わせていくもの。
それはこのトニ・エルドマンの行動にも通ずるものではないだろうか。

深夜らじお@の映画館の父親はトニ・エルドマンとは正反対の性格です。

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acideigakan at 23:30│Comments(0)clip!映画レビュー【あ行】 

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