2017年09月11日

『三度目の殺人』

三度目の殺人他人の命を奪う。自分に嘘をつく。そして見て見ぬふりをする。どれも「人」を殺めること。
家族ドラマでお馴染みの是枝裕和監督がオリジナル脚本で挑んだ法廷サスペンス。しかしこれは法廷サスペンスとして最後まで走り切れず、無意識のうちに十八番の人間ドラマを重視してしまった構成ミスの作品。
だからあまりにも勿体無い。

勝利を重視する弁護士・重盛が渋々引き受けることになった前科者・三隅は、解雇された工場の社長への殺害と死体への放火は認めているものの、動機の話になると妙な間が生まれる。果たしてこの容疑者は何を隠し、何を守ろうとしているのか。その謎を探るべく、この映画は静かに淡々と歩を進めていく。

強盗殺人なら死刑は免れない。ただ盗み出された財布に油が付着したりなど、妙な疑問点が残る。
殺人と窃盗なら死刑は免れる。そしてそれは重盛にとっては弁護士としての勝利と同じ意味を為す。だから無期懲役に持って行く方向で事件を洗い直す。

ところが三隅の供述は二転三転する。被害者の妻・美津江からの殺害依頼とも思えるメールも出てくる。左足を引き摺る娘・咲江の存在感も増してくる。ますますこの容疑者の動機を聞かれた時に見せた妙な間が気になる。

しかし重盛が留萌を訪れ、被害者の娘・咲江と三隅と共に雪合戦をするイメージ映像が入るあたりから、この映画はサスペンスとしての歩を進めることをやめ、人間ドラマとして歩を進めてしまう。しかも時間が足りずに深くは掘り下げることの出来なかった人間ドラマとして。

もちろん咲江の実父からのDV告白や美津江の食品偽装疑惑で、三隅の動機は安易に分かってしまううえに、それらはこれまでに何度も描かれた新鮮味のない物語ではあるからこそ、法廷サスペンスよりは人間ドラマ重視で歩を進めることも致し方ない。

けれど重盛の万引き娘が結局のところ重盛が咲江を理解するための要素にもなり切れていないなど、重盛と三隅だけに焦点を当てた人間ドラマはどうしても中途半端に見えてしまう。咲江の存在感もこの辺りから中途半端に感じてしまう。

そうなると行き着く先が分かっているこの映画に観客が求めるものは、大切な咲江を守るために社長を殺め、咲江に捜査が行かぬよう自分が不利になるように供述を二転三転させ、最後は心配する咲江の視線さえも見て見ぬふりをする三隅の「自己犠牲愛」に、その三隅の「自己犠牲愛」に何もしてやれない重盛の苦悩なのに、三隅の見て見ぬふりを受け入れるしかない咲江の苦しさなのに、そこまで掘り下げることの出来なかったのはあまりにも勿体無い。

これなら始めから法廷サスペンスとしての要素を排して、供述を一転否認した殺人犯とその心に触れる弁護士との交流ドラマとして描いて欲しかった。是枝裕和監督が十八番とする家族のように心を通わせる人間ドラマとして描いて欲しかった。

恐らく死刑制度の賛否を用いた「弱い立場の人々への不条理」がこの作品のテーマだったのだろうが、法廷サスペンス要素を入れすぎ、人間ドラマ要素に充てる時間を十分に確保出来なかったこの映画を見ると、そのテーマに見合った構成ではなかったと残念でならない。

やはり是枝裕和監督が原案及び脚本も担当したのが原因かも。共同脚本という形で第三者の目線が入っていればと思ってしまったのは私だけだろうか。

深夜らじお@の映画館は是枝裕和監督には人間ドラマに集中してほしいです。

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この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2017年09月12日 06:10
淡々とした展開ながらも、飽きさせなかったのは評価出来るのですが、
どうもモヤモヤ感が半端ないので、その辺りがちょっと残念でもあり。
きちんとした真相が知りたかったです。
役所さんの演技はとても印象に残りました。
2. Posted by kossy   2017年09月12日 10:33
弱者の不条理感は全て「生まれてこなければよかった人間」に集約されてましたね〜
それと対をなす「殺されて当然の人間」
あれこれ考えるうちに、
一番言いたかったことは何だったのか?
などと、ますますモヤモヤ感が増してしまいました。
3. Posted by yukarin   2017年09月12日 13:31
こんにちは。
予告編では見応えがありそうだったんですが、モヤモヤ感が残るラストと全体的に乗りきれずいまひとつな感じになってしまいました。
でも役所さんの演技はさすがでした!!
4. Posted by mori2   2017年09月12日 19:36
すっかりご無沙汰しちゃってる間に、TBがこんなことになっておったんですね〜。

皆さん書かれている通り、モヤモヤ感ハンパない映画でしたね。是枝さん的には、正解だったのかも知れませんが、少々見る者を選ぶような作りになっているのは、否めないかな。
5. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:52
BROOKさんへ

モヤモヤ感が残ってしまうがゆえに、本来のテーマが観客に伝わりにくくなってしまったのは残念でしたね。
ハッキリとした描き方をラストくらいはしても良かったと思うのですが…。
6. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:53
kossyさんへ

そうなんですよね、監督が伝えたいメッセージはたくさんあるのに、そのうちのどれが最も伝えたいことなのか。
それをハッキリさせても良かったのではないかとも思いましたよ。
7. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:53
yukarinさんへ

とにかく地味な映画でしたからね。
それに加えてのあのモヤモヤ感。
ヒットは望めないかも知れませんね〜。
8. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:55
mori2さんへ

見る者を選ぶ作品がダメとは言いませんが、この作品に関してはちょっと評価も興行も厳しいかなと思いました。
描いているテーマや手法にも新鮮味もありませんでしたしねぇ〜。
9. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年09月15日 17:08
にゃむばななさん☆
監督は最初っから真実を暴く気はなかったのでしょうね〜
私、最後の方に一瞬挟まれた『重盛が幼稚園から出てくるシーン』がとっても気になっているのです。
幼い子供がいるといったら、あり得るのは三隅の娘くらいです。断絶していると話しておきながら実はお金を送っていた三隅と娘の関係がそこに集約されているとしたら、1度目の事件もそれなりに凄い訳があったと思われ、たった一瞬のシーンにドラマをぶち込んだ監督って凄いなって思っちゃいました。
10. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:21
ノルウェーまだ〜むさんへ

凄いところに注目されてますね〜。
わずか1シーンでそこまで読めちゃうなんて、凄いですよ。
是枝裕和監督作品だということを加味すると、ありえる話ですよね。
11. Posted by FREE TIME   2017年09月23日 11:33
こんにちは。
他の方もおっしゃっているように多くの疑問点が解決せずモヤモヤ感が残ってしまいましたね。
でも、それが是枝監督の狙いなのかもしれません。

この作品では主演の福山雅治よりも終盤に鬼気迫る演技を見せた役所広司と、まるで今の本人そのものを演じていた斉藤由貴の方が目立ちましたね。
12. Posted by にゃむばなな   2017年09月24日 16:21
FREE TIMEさんへ

既視感のあるテーマで疑問点を残したままで終わられてもねぇ〜でしたね。
もっと他に観客に考えさせたいテーマがあるならまだしも…。
是枝裕和監督作品にしては残念でしたよ。
13. Posted by ジョニーA   2017年11月07日 02:21
弟子の西川美和さんの意見も取り入れたらよかったかもねー(『ゆれる』で「真実は曖昧」というテーマの名作を撮っておられるから・・・)。
ワタクシ的には、真実は、頬をぬぐった3人が殺人を犯した、と考える。一度目は役所、二度目のはすず。(河原でレイプされかけて殺しちゃった。で、電話して
役所に身代わりになってもらった。燃やしたのは父親にすずの体液とかが残ってたから)。で、三度目は福山。本当に殺したかどうか曖昧な人物を死刑に追いやったという意味での殺人。これが一番綺麗だと思うんだが・・・
14. Posted by にゃむばなな   2017年11月11日 23:24
ジョニーAさんへ

真実は曖昧…。確かにそういう意味では西川美和監督作品を参考にすべきだったかも知れませんね。
こういう作品は見た人の数だけ、様々な真実が存在しますからね。
15. Posted by latifa   2018年03月24日 15:40
にゃむばななさん、こんにちは!
そちらも桜が咲き始めたかなー。

うーん、絶賛されている方もいらっしゃる反面、私も本作は、それほど・・でした。

西川美和さんだったら、どんな脚本にされたかしら・・。
16. Posted by にゃむばなな   2018年03月30日 22:42
latifaさんへ

こちら明石は桜がようやく咲き始めましたよ。

さてこの映画は本当に賛否両論ですね。
監督お得意の人間ドラマにしなかった理由も分からずの私にはダメダメでしたよ。

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