2017年09月12日

『ダンケルク』

ダンケルク残酷なものほど美しい。
凄まじい映画だ。たった106分の映画なのに、何て長く感じることか。もちろん見終わった後は心身共にヘトヘトになるはずだったのに、なぜか見てはいけない美しいものを見た喜びで心の奥底が満たされている。
戦場の臨場感で震えさせたその先に、映画でしか見せることの出来ない美しき光景に言葉を失う。

1940年、第二次世界大戦初頭のドーバー海峡に面したフランスの港町ダンケルク。突然の銃声が撒かれたビラを読む若きイギリス兵士の命を次々と奪う。だがその銃声を発するドイツ兵は一切描かれない。どこから、どれだけの敵が、いつまで自分を狙っているのか。

それらが分からないなかでの必死の逃亡の先に待つのは、救助船の来ない浜辺で立ち尽くし、抗う術もなく空から敵機で狙われる恐怖。まさにいつ死んでもおかしくない。死にたくないのに、助かる術がない。そんな陸上で逃げ惑う若き兵士が「1週間」というタイムスパンで描かれる。

一方、イギリスの港では民間船を動員した救助作戦が始まる。武器も持たぬ小型の船が一人でも多くの兵士を救いたいという想いだけで戦場へと向かう。だがそこは若き息子やその友人には決して見せたくない光景が繰り返される場所。そんな勇気と困惑と不安が交錯する様が「1日」というタイムスパンで描かれる。

さらに隊長機が墜落し、数的不利な状況下で、しかもメーター機器の故障というアクシデントに見舞われたイギリス空軍パイロットが帰還用燃料のことも気にしながらの戦闘に挑まなければならない様が「1時間」というタイムスパンで描かれる。

陸、海、空。タイムスパンの違う3つの場面が、物語が同時進行で描かれる。

だから頭では同じ時間帯に起きていることではないと理解していても、心では同じ時間帯に起きているかのような緊張感が張り詰め、つい願ってしまう。早く3つの物語がどこかで繋がってほしいと。
もし海の「1日」が、空の「1時間」が、陸での「1週間」の救出劇にピンポイントで合わないなら、それは海や空での不幸を意味する過去であり、時に未来にもなってしまう。

もちろん史実だから結果は分かっている。でもハンス・ジマーの一派が書き下ろした鳴り止まぬスコアがそうさせるのか、一切の安堵を許さない、緊張感が張り詰めたなかで「見る」ではなく「体感」するこの映画は、戦場で救助を待つ兵士と同じく、少しでも希望を見出したいがために、3つの物語にどこか同じシーンはないのかと探してしまう。

それはまるで脳内でパズルを組み立てるように観客を楽しませた傑作『メメント』と同様に、観客の脳内で3つの物語を1つの物語に再構築させようとする素晴らしき演出。

だがその一方で時折、その再構築を不意に止めてしまわざるを得ないシーンがある。
それが駆逐艦や戦闘機でさえもオブジェのように見える、空から見た戦場となったダンケルク港の光景。
心神耗弱状態の暴挙イギリス兵に視力と命を奪われた友人のことを話さなかった少年の、戦場を経験したが故の表情。
帰還兵が臆病者と罵られる覚悟で見た、窓の外で待ち構えていた母国の喝采。

そのどれもが残酷なまでの光景であり、心情であり、不安であったのに、それらがどれも言葉を失うほど美しいのである。何度も見たいと思わせる美しさではない、一度見ただけで十分な美しさなのだ。

士官が逃げ遅れた二等兵と共に乗り込んだ最後の救助船から見た、フランス兵のために戦場に残った上官の男前すぎる表情。
亡き友人の想いを汲んで、新聞社に彼の功績を掲載してもらった少年が見た新聞記事。
そして燃料を使い果たすも敵機を全滅させたパイロットが不時着した戦場で眺めた、自らの手で火をつけた戦闘機。

それらも冷静に考えれば残酷な話だ。上官やパイロットの命運も、友人を失った少年の苦悩も楽観視など出来ない。

けれどそれでも美しいと思えたのはなぜなのか。

もしかしたら残酷な状況下で人間が「希望」を見出そうとした時に生まれる「副産物」が、その「美しさ」なのかも知れない。

深夜らじお@の映画館はこんな美しさを体感するのは映画の中だけで十分です。

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この記事へのコメント

1. Posted by 汗(はん)   2017年09月13日 02:29
にゃむばななさんの映画評の濃密さにはいつもながら驚かされます。何度も見てないはずなのにこの読み込みの深さと情報量はなんなのかと。
ダンケルク、クリストファー・ノーランなので是非見たいです。インセプションにおけるハンス・ジマー、大好き。
2. Posted by BROOK   2017年09月13日 06:06
さすがノーラン監督でしたね。
時間軸をジラしているものの、終盤にそれが集約されていく…見事としか言いようがありません!
3. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:58
汗(はん)さんへ

私の映画評は基本的にアシッド映画館を聞き込んでいたが故のものです。
平野センセに触発されちゃったのかも…。

それはさておき、ハンス・ジマーファミリーは本当にいい仕事をしますよね。
この映画を見ても改めてそう思いましたよ。
4. Posted by にゃむばなな   2017年09月13日 23:59
BROOKさんへ

まさに『メメント』を見た時のような面白さ。
大金をつぎ込んだ映画なのに、その造り方は極めてインディペンデント。
こういうところがクリストファー・ノーラン監督の素晴らしいところなんでしょうね。
5. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年09月13日 23:59
にゃむばななさん☆
その美しさはやはり、相手の国を倒すためではなく、戦場に送られた若き兵士たちの命を守ろうと国民総出で命がけで尽したからこその美しさなのではと思いました。
6. Posted by 源之助   2017年09月14日 02:08
初めまして、TBありがとうございました。

徹底して生身のドイツ兵士が描写されないのは、言わば大抵の映画なら当たり前の様に挿入される神の視点からの俯瞰が無いって事で、
説明的な台詞がほぼないのも相まって物凄い臨場感でしたね。

とても疲れる映画ではあったのですが、にゃむばななさんが書いているようにあらゆるシーンが美しく、見終わった後ある種の爽快感を覚えました。
7. Posted by yukarin   2017年09月14日 11:27
こんにちは。
冒頭から最後まで緊張感ある展開で見応えありました。
見るではなく体験する作品でしたよね。
戦争映画は苦手ですが今までとは違った戦争映画でした。
8. Posted by ノラネコ   2017年09月14日 22:24
美しいのは、最後にすべてダンケルク・スピリットの神話に昇華されたからでしょうね。
まさに英国魂で、クリストファー・ノーランの思想の根源を見た気がしました。
壮大な戦争叙事詩でした。
9. Posted by FREE TIME   2017年09月15日 22:17
こんばんは。
従来の戦争映画と違って戦う事よりも逃げる事を描いた内容でしたが、それでも最初から最後まで見応えあって臨場感も感じる内容でした。
ラストで無事に帰還した兵士達が見た物や感じた物って、果たして何だったのでしょうね?
10. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:12
ノルウェーまだ〜むさんへ

そうでしょうね〜。そこが紳士の国であるイギリスらしさというか、アメリカではほぼお目に掛かれない美しさなんですよね。
11. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:15
源之助さんへ

俯瞰映像がないということは、この映画を客観的に見るという術を奪っているということでもあるのでしょうね。
それでより体験型の映画としても見れたのだと思いましたよ。
12. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:17
yukarinさんへ

冷静な判断を奪う主観的な映像の数々。
でも時にその主観的な映像でさえも霞んでしまう美しい映像。
これは戦争映画であって戦争映画でないような映画でしたね。
13. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:19
ノラネコさんへ

これはある意味イギリス人にしか撮れない映画なのでしょうね。
アメリカのように「正義の戦争」なんていうこともなければ、「反戦」も声高に訴えない。
まさにイギリスらしい映画でもありましたよ。
14. Posted by にゃむばなな   2017年09月16日 23:23
FREE TIMEさんへ

帰還兵が見た・感じたものは難しいですよね。
ある者は戦場で散った仲間の顔を、ある者は帰還して逢いたい人の顔を思い浮かべているかも知れませんからね。

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