2017年10月08日

『あゝ、荒野 前篇』

あゝ、荒野怒れ!弱虫な自分に怒れ!
あっという間の157分だ。早く後篇を見たい、作品を一気に味わいたいという渇きが充満する157分だ。それゆえに見終わっても40%程度の満足感しか得られない157分だ。
これはとてつもない青春映画だ。現代に生きる心が求めている映画だ。そして2017年を語るうえでは外せない映画だ。

1966年に刊行された寺山修司先生唯一の小説を、舞台を東日本大震災や東京オリンピック後の2021年に変更しても映画全編に駄々洩れしている昭和の臭い。
だがこの昭和臭を感じながら思う。あゝ、歴史は繰り返されるのだと。55年経ってもこの苦しさは、淋しさは、怒りは、悦びは、そして愛しさは繰り返されるのだと。

だからこそ、新鮮味のないはずの物語がとても心地よくも感じる。懐かしさだけではない、現代に生きる我々が今最も必要としている「己の手で掴み取る」という力強さが描かれているからだろう。

特にそれは物語の中心にいる、幼少期に心の支えとなってくれるはずの親との関係が満足に築けなかった3人の男女を見ればよく分かる。
父親が自殺し、母親には捨てられた、少年院から出たばかりの新次。母親を亡くし、父親からの暴力には逆らえないでいる、吃音と赤面症に悩む建二。震災経験後に娼婦の母親とは疎遠になった、身体を売ることで自我を保っている芳子。

それぞれが心の孤独を感じたまま大人になり、そして運命が導くままに出逢う。

だがこの作品はそんな3人をあえて突き放す。もう大人になったのだから、自分で何とかしろと。いつまでも親のせいだ、他人のせいだと言い訳するなと。

それを暗に匂わせていたのが、大学生のサークル「自殺防止研究会」のくだり。自殺志願者は誰もが他人のせいだと言い訳し、いざ自殺を迫られると逃げる。主宰の川崎敬三も自らが死を以て訴えるだけで、自らの手で変革を成し遂げようとはしない。そして建二の父親である建夫のように変革を諦めた者は悲観を受け入れて生きるしかない。
そう、誰もが「己の手で掴み取る」という選択をしていないのだ。

だが山本裕二をぶっ倒したいと渇望する新次は、吃音と赤面症を治したいと願う建二は、片目と馬場の元でボクシングで生きる道を選んだ。そして芳子は新次の想いと愛に呼応するかのように身体と心を彼に捧げることにした。
己が渇望するものは己の手で掴み取る。3人は自らの意志でその道を選んだのだ。

ただバリカン建二は優しさが怒りを凌駕してしまうために、ボクサーとしての秘めたる才能を発揮できない。
新宿新次は山本裕二への憎しみから、再会した母親への気持ちから、いつ暴発してしまうか分からない。
そして芳子もまた母親との再会が果たされれば、どうなってしまうかは分からない。

けれど映画全編に漂う昭和臭が、否応なしに何とかして自分を変えたいと足掻く建二のまだ開花せぬ重量パンチに、それらの不安を全て払拭してくれるのではないかという淡い期待を抱かせる。

後篇では自殺防止研究会の恵子と出逢うことになるバリカン建二がアニキと慕ってくれる新宿新次とリングの上で対決する、つまりは新次と山本裕二の対決は露払いになるのであれば、それはまさに「己の手で掴み取る」という強き心を持った者同士の戦いになるはず。

そんなこの作品の最も見たいところが、最も面白いところがこの前篇では見ることが出来ない。だからこの満たされぬ渇きが157分をあっという間に感じさせるのだ。前篇だけでは満足させないという構成が、2週間後の後篇公開を長く感じさせるのだ。

狂気を体現する菅田将暉と、静かに耐え忍ぶヤン・イクチュン。2人の演技が、熱量が、青春映画に新たな一頁を刻む。

人生という名の荒野に踏み出す勇気を持っている、もしくは欲している方には是非ご覧になっていただきたい映画だ。

深夜らじお@の映画館は鑑賞後にガッツリと昼食を取らずにはいられませんでした。まさに生命力に溢れた映画だ!

※お知らせとお願い
【元町映画館】へ行こう!

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acideigakan at 23:59│Comments(4)clip!映画レビュー【あ行】 

この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年10月09日 10:56
にゃむばななさん☆
長い映画もあっという間に感じる熱量でしたね!
まさに主役の二人と同様、自分の力で掴み取るために足掻いている感覚を見ているこちらも味わえる…前後編にあえて分けた理由がそこにあるとしたら、監督は物凄いやり手ですね〜〜
ダダ漏れする昭和感も良かったデス☆
2. Posted by にゃむばなな   2017年10月09日 15:29
ノルウェーまだ〜むさんへ

足掻いて足掻いて、それでもまだ足掻く。
その熱量が一本の映画では収まりきらんのでしょうね。
このやり手監督さんが後篇でどんなものを見せてくれるのか楽しみでなりませんよ。
3. Posted by ジョニーA   2017年10月15日 00:54
全く長さを感じさせず、157分の予告編やったんちゃうか〜?
と言われたら納得してしまいそうな出来栄え。ただ、個人的に
「自殺防止サークル」のくだりは、「それ必要あるシーン?」と
若干疑問に感じる瞬間もあるにはあったが・・・。きっと
後編で素晴らし回収を見せてくれるのだろう、と期待も込めて・・・
後編開始までのインターバルを楽しみたいと思いますぅ〜。
4. Posted by にゃむばなな   2017年10月15日 23:54
ジョニーAさんへ

私もあの「自殺防止研究会」のくだりはどやねん?と思いましたが、
これだけの熱量のある作品だけに、きっと意味があるのだと信じています。
劇場に張られた人物相関図では建二と恵子に関係性が持たされるみたいですよ。

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