2017年10月23日

『あゝ、荒野 後篇』

あゝ、荒野戦え!覚悟を決めたら、どんなに辛くても逃げずに戦え!
スクリーンから目を逸らせなかった。いや目を逸らすことが逃げることだと分かっているからこそ、覚悟を決めた者たちの姿を瞼に焼き付けたかった。
これは映画史に残るボクシング映画だ。命を賭けた青春映画だ。
そして2017年を語るうえで改めて外せないと確信した映画だ。

大風呂敷を広げた前篇での人間関係を全て回収出来ていないという批判もあれど、新宿新次とバリカン建二の2人の「生き様」に焦点を当てたこの後篇には、もはやそんな批判は気にもならない。

なぜなら二木建夫が新次の父親の自殺に関係していようと、芳子とその母親が顔を合わせることがなかろうと、「自殺防止研究会」の恵子と建二に男女の交流がなかろうと、覚悟を決めた者だけが持つあの重量感の前では、それらは全て些細なことでしかないからだ。

逆に注目すべきなのは戦う男たちの「覚悟の差」だ。
例えば立花劉輝への贖罪のために戦う山本裕二と、その山本裕二をぶっ殺したいと思い続けた新宿新次。同じ「勝ちたい」ではない。「勝ちたい」と「倒したい」でもない。「敵意」と「殺意」の差だ。
その微妙でも明確な差が山本裕二を敗者にし、新宿新次に行き場のない苛立ちを残した。

一方で「新次にはなれない」というその真意を悟ったバリカン建二は、破水した西口恵子や二代目社長・石井和寿との出会いを経て、新次との友情、海洋ジムへの恩義、恵子との関係、父親との因縁、誇れる仕事、それら全てを捨ててまで欲しいものは己の手で掴み取るという道を選ぶ。
涙を流しながらも綴った手紙に込めた、「新ちゃん、あなたと戦いたい」という願いを実現させる荊の道を選ぶ。

そんな建二の覚悟に全ての関係者が向き合う。その覚悟が全ての関係者を引き戻す。海に捨てた靴が戻ってくる皮肉は自身の覚悟が中途半端だと悟り新次の元を去った芳子も、何のために生まれたのかと問うた恵子も、生きる意味を探すマコトも。

だがリングの上で繰り広げられる、勢いと手数で勝る新宿新次と相手の懐に入って重量パンチを喰らわすバリカン建二の戦いは生半可なものではない。
しかもどちらにも肩入れ出来ないこの戦いは見ているだけでも辛い。早く終わってほしいとも思えてくる。

しかしそれは覚悟を決めた2人の前では決して願ってはならないこと。だからどんな結末になろうと絶対に目を逸らさないから最後まで戦えと全ての観客が、関係者が2人を見守る。そしてラウンドを増すごとにその想いが自然と流れる涙へと変わっていく。

そんな様々な覚悟と涙が交錯するなかで語られる建二の想い。
ぼくはここにいる。だから愛して。

だが建二がカウントする新次の拳の数が増せば増すほど近づいてくる、片目が、馬場が、芳子が望まぬ結末。
それでもやっと己の手で掴み取ったこの時間を離したくない。誰よりも大切な親友とずっと拳を交えていたい。その想いに新宿新次が全力で応えてくれているこの時間を。

そんな建二に誰も立つなとは言えない。
ただ止まらぬ涙を流しながら、塞ぐことの出来ない口から洩れる嗚咽を耳にしながら、改めてどんな結末になろうと決して最後まで目を逸らさないという想いを自分に言い聞かせながら、建二が命を賭けてでも手に入れたかったこの時間を目に焼き付ける。

人は何のために生まれてくるのか。それは誰かに愛され、誰かを愛するため。
人は何のために生きるのか。それは欲しいものを己の手で掴み取るため。

あんたはアニキのように覚悟を決めて生きているのか。
人生の荒野に踏み出しているのか。
こちらを睨む新次の眼差しがそんな無言の問い掛けを投げ掛けるラストシーンに、バリカン建二の、新宿新次の「生き様」を青春映画の歴史に刻みたい。

深夜らじお@の映画館はこんな映画に出逢えたことを心から誇りに思います。

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acideigakan at 23:59│Comments(6)clip!映画レビュー【あ行】 

この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2017年11月01日 22:07
これは21世紀に蘇った「あしたのジョー」でした。
思えば寺山修司はあの漫画の大ファンで、力石の葬儀委員長でしたよね。
なんだから昭和から現在、2021年(元号は何になってるのでしょうね)をつなげるという非常に野心的な企画だったと思います。
まさに、2017年に作られたことに意味がある映画でした。
2. Posted by にゃむばなな   2017年11月01日 23:53
ノラネコさんへ

確かに「あしたのジョー」でしたね。
寺山修司先生が葬儀委員長でしたか…。
そんな寺山修司先生がもしこの映画をご覧になられていたら、どんな感想を持たれたでしょうね…。
3. Posted by ノルウェーまだ〜む   2017年11月03日 22:27
にゃむばななさん☆
女性から見ると、ちょっと疎外感を感じて後編はうまくハマれませんでした、
これは実際劇中で女性たちが感じていた疎外感なのですが、それを凌駕する二人の魂のぶつかり合いはハンパ無くて、最後はホントに目を背けたいのに出来ないほど圧巻でした☆
4. Posted by にゃむばなな   2017年11月04日 23:17
ノルウェーまだ〜むさんへ

なるほど、確かに指摘されると男性の世界ですね。
でも女性がそう感じるということは、それだけこの作品が新宿新次とバリカン建二の2人の世界を描き切っているという証拠でもあるのでしょうね。
5. Posted by latifa   2018年02月03日 12:17
にゃむばななさん、こんにちは!
前編後編と、続けて見ると、長時間の鑑賞になりましたが、飽きることも、だれることもなく、見せてもらいました。

男子の世界、なんだかちょっと羨ましい気持ちになります。

PS gooの方も最近TB不可になっちゃって、嫌になっちゃいますよね・・・
せっかく、にゃむばななさん、TB版を作ったのに・・。
6. Posted by にゃむばなな   2018年02月04日 22:18
latifaさんへ

観客をこの世界観に引きづり込む魅力。近年では少なくなりましたよね。
昭和臭駄々洩れでしたが、この時代にはこういう映画が必要とされているのかも知れないとも思いましたよ。

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