2018年02月02日

『デトロイト』

デトロイト今夜を生き抜け!
これは映画なのか、それともドキュメンタリーなのか。そう戸惑うほどに重い映画だ。
例えこれが記録と証言を集めた推測の域を出ない作品だとしても、誰もこれを史実だと証明出来なくても、誰もがこれを事実だと推測するだろう。
そう、これはどこにでも起こりうる悲しみだからだ。

1967年、アメリカ第5の大都市ミシガン州デトロイトで起きた大規模な暴動。のちに「デトロイト暴動」と呼ばれたこの騒乱は、無許可で酒類の販売を行ったバーを深夜に摘発したことから全てが始まっている。

日本では略奪や放火、暴動などは公共の悪だと皆が認識しているからこそ、ほぼ起こり得ないものだが、世界各地では普段からの不満の捌け口が暴動へと変わるらしい。
つまり暴動を起こしたくて起こしているのではない。劇中のニュースリポートにもあったように「遊び半分」で略奪や放火をしている、後先考えないバカ者がいるからこそ、厄介なのだ。

しかもそこに白人警官による横暴な取り締まりが絡む。警告なしに発砲しては、何かと理由を付けて有色人種を「事実上殺害」する差別主義者の犯罪者が権力と銃を持ち、警官の制服を着てデトロイトの街を闊歩しているのだ。

だからこそ、善良なる市民にも悲劇が及ぶ。アルジェ・モーテルに宿泊していただけの善良なる黒人市民と2人の白人女性が差別主義者の白人警官クラウスやフリンから人権をとことん無視した尋問と脅迫を受ける。

そもそもの要因は、「遊び半分」で競技用号砲銃を警官に向けて撃った黒人のバカタレ:カールのせいだ。
そこに差別主義者の警官たちが自分の思い込みで容疑者を量産していくが、実際に増えていくのは被害者だ。差別主義者によって一生ものの恐怖を長時間掛けて植え付けられる、抵抗の術を持たぬ被害者だ。

そんな想像も絶する恐ろしさをキャサリン・ビグロー監督は『ゼロ・ダーク・サーティ』でも見せた、まるで観客さえもその場にいるようなドキュメンタリータッチの演出で、とことん見せつける。
気分が悪くなったから目を逸らしたい。そんな想いさえも消し去る、観客もまたこの嫌な雰囲気が醸し出す空間で逃げ場を失い、嫌でも見せつけられる恐怖。そんな光景が40分も続く。

『es-エス-』でも描かれていたように、人間は強い権力と優位な立場を得ると、際限なく弱者を痛めつけることが出来る。
スターを夢見たザ・ドラマティックスのラリーから希望を奪い、親友フレッドの命を奪い、無抵抗なオーブリーの命も奪い、ジュリーやカレンといった女性たちにも危害を加えるだけではない。

暴動が終わり裁判が始まれば、人種差別がまかり通る時代のデトロイトでは弱者である黒人の声は拾われない。それどころか、黒人警備員のディスミュークスも被疑者にされてしまう。
強い権力と優位な立場を得た白人が、際限なく弱者である黒人を心身共に痛めつける。時間も際限なく。

ラストで聖歌隊に入ったラリーが静かに上を見る。神様は見ているぞ。あの夜に起きた事実も、今も続く悲しみも、全て見ているぞと言わんばかりに。

The Divided States of Americaよ、この悲劇をまた繰り返すのか。

深夜らじお@の映画館は思い出しました。クラウス役のウィル・ポールターって『ナルニア国物語第3章』でリーピチープに教えを乞うたあの少年ではないか!と。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2018年02月02日 22:52
にゃむばななさん☆
いやはやまるでドキュメンタリーでしたね。
まるっきり事件の真っ只中に放り出されて、屈辱と恐怖を体験させられました。
とにかくあのバカタレがいけませんね…
2. Posted by にゃむばなな   2018年02月02日 23:02
ノルウェーまだ〜むさんへ

あの場にいたくないのに、まるであの場にいるような感覚。
映画でここまで「見せつける」キャサリン・ビグロー監督の手腕に驚かされるばかりでしたね。
3. Posted by onscreen   2018年02月03日 09:50
おっしゃる通り、ド迫力の、2時間22分でしたね(汗)
4. Posted by BROOK   2018年02月04日 15:10
さすがビグロー監督といった感じでしょうか。
過去2作よりも一層骨太な作品に仕上がっていましたね。
5. Posted by ノラネコ   2018年02月04日 19:40
バカがバカを焚きつけて悲劇が広がり、善良な人々が犠牲になる。
いつの世でも、これが揉め事の始まりかもしれませんね。
ミニマムは喧嘩から、大きくなると暴動へ、そして究極的には内戦に。
トランプの時代に、意義深い作品でした。
6. Posted by にゃむばなな   2018年02月04日 22:16
onscreenさんへ

この2時間22分には疲れましたよ。
7. Posted by にゃむばなな   2018年02月04日 22:20
BROOKさんへ

この骨太さは男性監督では出せないかも知れませんね。
さすがキャサリン・ビグロー監督ですよ。
8. Posted by にゃむばなな   2018年02月04日 22:22
ノラネコさんへ

何もしていない市民が「なぜ私たちが?」という疑問を抱きながら抑圧されていく。
そんな時代はいつ終わるのか。
バカ野郎がこの世からいなくなる日は永遠に来ないのかとも思えてしまいましたよ。
9. Posted by yukarin   2018年02月08日 12:56
あの状況で遊び半分で競技用とはいえ銃を撃ったらどうなるのかわからなかったオバカですよね。
それにしても裁判での陪審員が全員白人とか...本当に大変な時代だったんですね。
いまだに差別は存在してて....永遠に終らない問題なのかなと思ってしまいます。
10. Posted by にゃむばなな   2018年02月10日 23:26
yukarinさんへ

こんな酷いことが数十年前に起きていたことが、その一部が未だに続いているのがアメリカの悲しき現実ですよね。
ほんと、永遠に終わらない問題なのかも知れませんね。

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