2018年02月11日

『ローズの秘密の頁』

ローズの秘密の頁本当の被害者は誰か。
ついにジム・シェリダン監督もカウントダウンに入られたのか。「北アイルランド紛争」を描き続けてきた境地がここに結実し始めているのか。
アイルランドを舞台にしたこの5年ぶりとなる新作は、これまでとは少し違うテイストを含んでいる。それは彼の優しい愛なのか、それとも静かな怒りなのか。

御年69歳のジム・シェリダン監督が描き続けてきた作品には、イギリスの抑圧に苦しみ、抵抗し続けてきた「被害者アイルランド人」の魂や愛、傷などが込められている。

だがこの作品は少し違う。とある老女の記憶を精神科医が紐解くというセバスチャン・バリーの小説を基としているとはいえ、ここで描かれるアイルランド人はヒロインであるローズ・クリアを抑圧する存在。イギリスとの関係で見れば被害者だが、ローズというか弱き女性との関係を見れば完全に加害者だ。

イギリスとアイルランド、カトリックとプロテスタント。この時代のローズが暮らしていた場所は派閥が全て。つまり弱き者がお山の大将になりたがる。人々から自由な言動どころか、思想までもを奪う。

しかし強き心を持つローズは決してその抑圧には負けない。ゴーント神父が権力を楯に言い寄って来ても跳ね除ける。アイルランド派閥に属することを強制する過激派の脅しにも抵抗し続ける。そして酒を出さないカフェの従業員であるローズが、酒を売る仕事をしているマイケル・マクナルティと恋に落ちる。

弱き者は自分より弱い立場にいる人間を従わせることで満足感を覚え、やがてそれが暴政へと繋がっていく。
対して強き者は己が進む道を知り、同じく強き者と惹かれ合い、共に新たな道を歩む。

大切な存在を守るために戦場へと向かうマイケルも、その彼を、いや夫を待ち続けるローズも正真正銘の強き者だ。この夫婦は誰の人生にも干渉しない。誰の記憶にも苦い思い出を作らせない。ただカメラはなくとも、自分たちの心に幸せな時間を焼き付けているだけなのだ。

なのに、嫉妬に狂ったゴーント神父がローズを色情魔として精神病院送りにする。彼女を自分の赤ん坊を殺した殺人者として精神病院に幽閉する。過激派がローズがいなくなった家でマイケルの命を奪う。ただ自分たちの小さな幸せを夢見た2人から全てを奪う。

だが人間にはどんな状況下でも決して奪われないものが2つある。それが知識と記憶だ。それらを精神病院に幽閉されたローズが聖書に綴り始める。夫の死を受け入れても、あの日海岸で産み落とした息子の死だけは絶対に受け入れない想いを胸に、40年掛けて綴り続ける。

その聖書を、いやローズ記を読み解くスティーヴン・グリーン精神科医が辿り着く先は、ある意味予想通りの結果ではあるものの、そこには40年掛けて再会した実の母子の愛だけが描かれている訳ではない。
静かではあるものの、こういった悲しき事例を生み続けた「被害者ぶるアイルランド人」への怒りも見えてくる。

スティーブン・スピルバーグやクリント・イーストウッドと同じく、あと何作撮れるか分からない年齢になったジム・シェリダン監督が今一度「北アイルランド紛争」を見つめ直す。
被害者は時に加害者にもなることが出来る。その事実を忘れて未来へと歩むことが出来るのか。

本当の被害者は誰なのか。その被害者にはまだ救いの手が差し伸べられていないのではないか。
戦争の世紀と言われた20世紀で「被害者」となった世界の国々よ、その事実から目を逸らさないでくれ。

深夜らじお@の映画館はジム・シェリダン監督にはまだまだ元気で頑張っていただきたいです。

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acideigakan at 12:00│Comments(0)clip!映画レビュー【ら行】 

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