2018年03月01日

『シェイプ・オブ・ウォーター』

シェイプ・オブ・ウォーター甘美で切ない愛の形。
心の奥底に静かに残り続けるロマンティックでビターなダークファンタジーだ。忘れたくても忘れることが出来ない、そんな美しき愛の物語だ。
愛に理由などいらない。愛に言葉などいらない。愛に形などない。そしてこの映画史に残る大人のラブストーリーの素晴らしさを表現出来る言葉も見つからない。

幼き頃のトラウマで話すことが出来ない、とある政府の極秘研究機関の清掃員として働くイライザは地味な女性だ。毎朝決まった時間に起床し、身支度をし、隣人の老いた画家ジャイルズの世話をする。
だが彼女は毎朝バスタブで自慰行為にふける。その行動が彼女の内面を静かに物語っている。そう、彼女もまたごく一般的な女性の一人。誰かと燃えるような恋をしたいのだ。

だが彼女が生きている時代は冷戦下。ソビエトとの関係と同様に、国内でも冷たい関係があちらこちらに存在していた時代。
ストリックランドという傲慢な白人上司が女性を見下す。同僚の黒人女性ゼルダも見下す。少々怪しさもあるホフステトラー博士にも敬意を払わない。そしてアマゾンで神と崇められてきた不思議な生き物であり、半魚人である「彼」にも拷問を繰り返す。

そんな時代にイライザはなぜ「彼」に愛情を抱くようになったのか。
未知の生物への興味か、傷ついた生物への母性か、それとも会話をしてくれる異性か。
イライザが「彼」に対して好意を持ち始めた理由は明確には描かれていない。

けれど愛がどのように生まれるのかを誰も語ることが出来ないように、愛はいつも気付かぬうちに生まれ、気が付いた頃には育っている。
だからこの異種間の愛もごく自然なものとして見ることが出来る。『シザーハンズ』で描かれた愛と大して変わらないものとして見ることが出来る。

だからこそ、イライザが「彼」を研究施設から逃したいと思うのも自然な流れだ。愛する者が解剖という形で殺されるかも知れないのなら、どうにかして逃してあげたい。
それはイライザの友人でもあるゼルダやジャイルズも同じ。ソビエトのスパイとしても暗躍させられているホフステトラー博士も同じ。
大切な友人の愛を守ってあげたい。虐げられている者を無視できない。それらは人間誰もが持つ「優しさ」という名の愛なのだから。

ただイライザと「彼」は全く別の生き物だ。だから恋愛も本来ならプラトニックで終わるはずだが、ギレルモ・デル・トロ監督はこの愛をプラトニックなままでは終わらせない。

なぜなら彼女は毎朝バスタブで自慰行為にふけるほど、恋を、愛を待ち望んでいる女性だ。そんな彼女が思い出をずっと心に留めるような女性で終わっていいのか。彼女には恋する女性として、愛する男性がいる女性として、どこまでも輝いていてほしい。
そんなギレルモ・デル・トロ監督の優しさがバスタブでの愛の行為へと昇華する。映画のヒロインになったかのようなモロクロのダンスシーンで表現される。そしてバスルームを水浸しにした愛の形として描かれる。

そんなイライザと「彼」の愛の形はどのような結末を迎えるのか。自暴自棄になったストリックランドの凶弾に倒れる「彼」とイライザという悲劇で終わるのかと思いきや、アマゾンの奥地で神と崇められ、ジャイルズの育毛を促した再生能力を持つ「彼」がイライザを海中でキスで蘇生させ、首にあった3つの傷跡をエラへと進化させ、彼女を自分と同じ種族に進化させたのだ。

だからこのラブストーリーはジャイルズが語るように「彼女は幸せになったと信じたい」物語なのだ。人間を捨て、故郷を捨て、愛する相手と共に生きる道を選んだ「彼女」は幸せになったと心から願いたい、大人のラブストーリーなのだ。

全てを捨ててまで愛を選ぶ女性の強さを見事に演じ続けたサリー・ホーキンスが唯一セリフを言うミュージカルシーンに込められた、彼女の愛の大きさ、強さ、切なさ、そして美しさ。
それらがダークな色調をより美しく見せる演出で描かれる。

『パシフィック・リム アップライジング』の監督を蹴り、ジェームズ・キャメロンやアルフォンソ・キョアロン、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥがEDロールに名を連ねるほど協力を惜しまなかった希代の才能:ギレルモ・デル・トロ。

そんな彼がオスカー監督になるまであと4日だ!

深夜らじお@の映画館は個人的にはこの作品にアカデミー作品賞を取っていただきたいです。

※お知らせとお願い
【元町映画館】へ行こう!

この記事へのコメント

1. Posted by onscreen   2018年03月01日 19:05
もう今作しかないっしょ!!!
作品賞は。
2. Posted by ノルウェーまだ〜む   2018年03月02日 00:30
にゃむばななさん☆
もうすぐアカデミー賞発表ですね〜
実に素敵な大人のラブストーリーでした。
イライザが「彼」を好きになった理由ですが、これぞ純愛で、互いに必要としあう関係ならば自然な事とも思えるのですが、実は私はちょっと違った見方もしていて…
河のほとりで子供の頃見つかったイライザは、実は「彼」と同じ種族で人魚姫のように人間の形で上陸したのではないかと思って観てました。だからこそ冒頭の夢のシーンは水の中でしたし、傷をエラに替えたのではなく、エラが閉じていたんじゃないかなと。
まさに素敵なファンタジーと思いました☆
3. Posted by AKIRA   2018年03月02日 11:05
ラストシーン美しかったぁ。

魅了されるラブストーリーでしたね!

作品賞の本命だと思います。
4. Posted by にゃむばなな   2018年03月02日 23:24
onscreenさんへ

ほんま、作品賞を取っていただきたい!
5. Posted by にゃむばなな   2018年03月02日 23:26
ノルウェーまだ〜むさんへ

これまたロマンティックなサイドストーリーだこと…。
でもあの3つの傷はまさにそんな感じですよね。
監督も狙っていたのかなぁ〜。
6. Posted by にゃむばなな   2018年03月02日 23:27
AKIRAさんへ

ダークな映像なのに、ストーリーが進むにつれて全てが美しく見えるこの魔法。
ギレルモ・デル・トロ監督の渾身の作品がアカデミー賞で高く評価されますように。
7. Posted by mig   2018年03月03日 00:12
早速のコメントありがとうです。
意見がすごく分かれてますよねー
もちろん、オスカーノミニーだけど
個人的にはあまり好きじゃなかったです。
大人なファンタジーなんだけど残念ながら魅力を感じることができず。。。
8. Posted by にゃむばなな   2018年03月03日 00:50
migさんへ

まぁ映画は出逢った時のタイミングですからね。
私も周囲とは違い楽しめなかった作品は数多くありますよ。
例えば『グラヂエーター』とかね。
9. Posted by BROOK   2018年03月03日 15:39
いやぁ…ホント良い作品でした♪
アカデミーの作品賞を是非とも獲得して欲しいところです。

甘美な雰囲気で、それが最後まで持続していました。
ラストシーンももうこれ以上無いと思えるくらい素晴らしかったです。
10. Posted by latifa   2018年03月03日 18:12
にゃむばななさん、こんにちは!
昨日、こちらで感想拝見していたのですが、それほどでもなかったかな・・・という私の感想と、絶賛されている、こちらの感想に、温度差を感じ、そのままそっと立ち去ってしまいました(^-^;
シザーハンドは感動したのですが、ちょっとこちらは、生々しいというか・・・
でも、面白かったんですけれどもね!
11. Posted by yukarin   2018年03月03日 23:16
こんばんは。
絶賛まではいきませんでしたが素敵な作品ではありました。ラストシーンが素敵でしたね。
愛に言葉はいらない....そうですね!!
アカデミー賞のゆくえが気になる所ですね。
12. Posted by にゃむばなな   2018年03月04日 00:07
BROOKさんへ

本当に甘美で切ない大人のラブストーリーでしたね。
そしてこの作品にこそ、オスカーを作品賞で獲っていただきたい!
13. Posted by にゃむばなな   2018年03月04日 00:08
latifaさんへ

好みの問題もあると思うので、感想は人それぞれ。
ただ私は「ラブストーリー」ではなく「大人のラブストーリー」として見た結果、このような感想になっただけです。
その辺りも個人個人の恋愛観もあるのかも知れませんね。
14. Posted by にゃむばなな   2018年03月04日 00:12
yukarinさんへ

地味な女性がどんどん綺麗に見えてくるのが個人的には良かったですわ。
そしてダークな世界観なのに、それが美しく見えるんですから。
アカデミーはどういう結果になるでしょうね。
15. Posted by ノラネコ   2018年03月07日 23:07
この世界の残酷さを十分知った向こう側にある、御伽噺。
だからこそ、この作品は酸いも甘いも知り尽くした大人の心に響くのでしょう。
「パンズ・ラビリンス」とは異なるハッピーエンドの意味を見せてくれた、物語のラストがとても好きです。


16. Posted by にゃむばなな   2018年03月07日 23:31
ノラネコさんへ

そうそう、酸いも甘いもを知った大人のラブストーリーでしたね。
やっぱり映画ファンとして、こういう大人の映画は心に残りますわ〜。
17. Posted by FREE TIME   2018年03月16日 00:02
こんばんは。
アカデミー賞作品という事なので鑑賞してみましたが、なかなか素敵な作品だったと思います。
愛に言葉などいらない。愛に形などないって、まさにその通りだなと思わせる内容でした。
18. Posted by にゃむばなな   2018年03月17日 23:37
FREE TIMEさんへ

純粋なラブストーリーだからこそ、例え半魚人と人間の女性の恋物語でもステキに思えるのでしょうね。
やっぱり大人のラブストーリーはいいですね。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載