2018年06月03日

『万引き家族』

万引き家族家族の絆を繋ぐもの。
血の繋がらない家族と血の繋がった家族。心の繋がった家族と心の繋がらない家族。
第71回カンヌ国際映画祭にてパルムドールを日本映画として21年ぶりに受賞した是枝裕和監督作品が問う、家族のあるべき姿。
心が休まり、慈しみの笑顔が絶えない家族の絆を繋ぐものは血縁か、金銭か、それとも…。

初枝の年金を頼りにボロ家に5人で住む甲斐性なしの治、クリーニング店で働く信代、風俗店で働く亜紀、そして就学年齢になっても学校には行っていない祥太。
年金や給与では足りない分を万引きで補填するこの家族には、家族のはずなのに妙な違和感が随所に垣間見れる。治のことを「父ちゃん」とは呼ばない祥太。初枝を「おばあちゃん」と呼んで甘えるのに、治のことは「お義兄さん」とは呼ばない亜紀。でもその亜紀を妹のように大事にする信代。

そんな家族が寒さに震え、おなかをすかせ、虐待の痕だらけの少女・ゆりを迎え入れる。新しい家族として6人で過ごすようになる。
ただそこからこの家族が疑似家族であるということが少しずつ明かされる。家族のいない初枝。その初枝の亡夫が作った不倫相手との家族の孫娘である亜紀。夫婦ではなく共犯関係にある治と信代。そして拾われてきた祥太と、ゆり改め凛。

我々が生きているこの世界に存在する3つの基準。法律、常識、人情。
その法律や常識で測れば、この家族は存在すべきでない家族だ。ゆりを家族に迎え入れることも誘拐だ。万引きも未就学も祥太には不幸なことだ。

けれど人情で測ると、一人では死にたくない初枝の家に転がり込んだ治たちは、血は繋がっていなくても、心は繋がった立派な家族だ。一緒に暮らす相手に慈しみの笑顔を絶やさない、愛に満ちた家族だ。

だからこの家族の食事シーンは常に2人以上で描かれている。また男同士だから出来る性教育にも、虐待を受けた者同士の入浴にも、名前を複数持った者同士の鏡越しの会話にも、常に大人が子供に向ける愛情で溢れている。

だが駄菓子屋の店主に「妹にはさせるな」と諭された祥太が万引きはいかなる理由があっても犯罪ではないかと疑い始めてから、この疑似家族は崩壊への道を歩み始める。祥太が凛を守るために自己犠牲の道を選んで捕まったことで疑似家族はバラバラになる。

ただこの家族には誰も祥太を責める者はいない。例え亜紀が空き家になった元我が家を訪れても、治が「普通のおじさんに戻ってもいい?」と淋しく呟いても、信代が服役しても、誰も血の繋がらない家族であるはずの祥太を責めない。

血の繋がりが余計な期待を生む。

家族の絆を繋ぐものは血縁でもなければ、金銭でもない。見えない花火をみんなで楽しんだ思い出と、相手を思い遣る慈しみの笑顔だ。自分のことよりも家族のことを優先する優しさだ。

それらを是枝監督は家族の中心である2人の母親:初枝と信代を通じて、様々な形で描き出す。
特に家族旅行で海へ出掛けたくだりでの、何か言いたげで、でも自分の中で静かに消化する死期を悟った初枝と、逮捕後に女性刑事から「産まなきゃ母親になれない」という言葉に静かに涙を流す信代は、実生活でも母親である樹木希林と安藤サクラの見事すぎる演技に圧倒されてしまう。

接見の場で祥太に拾った時の状況を話した信代は、ラムネを飲みながら祥太と歩いた時と同じように母親の顔をしていた。
祥太を見送ったバスをいつまでも追いかける治は、祥太と一緒にコロッケ入りラーメンを食べた時以上に父親の顔をしていた。

バスの中で振り返った祥太は何を思ったのだろう。
実母から虐待される日々に戻った凛改めじゅりが疑似家族に教えてもらった数え歌を歌いながらビー玉を集めていた時に見た先には、どんな未来が、希望がいるのだろう。

鑑賞中に涙が溢れる映画ではない。
けれど見終わって時間が経てば経つほど、じわじわと心に沁みてくる映画だ。
そして「スイミー」こそが家族の基本だと思い出すことが出来た映画だった。

深夜らじお@の映画館は松岡茉優さんが豊満さんであったことも忘れられませんが、膝枕をしてもらった4番さんを演じた池松壮亮さんが羨ましすぎる!

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この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2018年06月04日 05:54
これはたしかにパルムドールを獲るだけの作品ではありましたね。
“家族”のあり方について、非常にメッセージ性が高く、それに答えを出している作品ではないが、何かを考えるきっかけにはなると思いました。

物語の“その後”を敢えて描かない結末は賛否両論あるかもしれないけど、余韻に浸れることだけはたしかですね。
2. Posted by にゃむばなな   2018年06月05日 22:59
BROOKさんへ

こういう余韻に浸ることの出来る「大人の映画」こそ、カンヌが好む作品ですよね。
そして是枝裕和監督らしい映画だとも思いました。
家族の在り方が問われている昨今だからこそ、多くの方に見ていただきたいですね。
3. Posted by onscreen   2018年06月07日 01:17
ラムネのげっぷとか、餡蜜の餅、とか、痺れるディテールが満載で、何度となく観たい映画に仕上がってました(汗)
4. Posted by にゃむばなな   2018年06月08日 00:48
onscreenさんへ

そうそう、そういう細かいところに日常の家族風景を感じるんですよね。
是枝裕和監督はそういうのを描くのが巧いですからね。
5. Posted by ノラネコ   2018年06月08日 21:49
ゆり役の女の子がアマゾンのパンのCMに出てるんですが、ちょっと寂しそうな表情が映画のまんまで。
ダメ親のところに戻った彼女が元気でいるといいなあ、なんてついつい思ってしまう。
フィクションを超えて、リアルを感じる映画でした。
6. Posted by にゃむばなな   2018年06月08日 23:39
ノラネコさんへ

ゆり役の女の子の無表情がこういう話ではリアルに感じますよね。
だからこそのあのラストも切ない。
どんな形でもいいから、彼女が元気でいてほしいと思ったのは私も同じでしたよ。
7. Posted by FREE TIME   2018年06月14日 22:28
現代社会をそのまま映画にしたような映画でしたね。
パルムドールに輝いたのは伊達じゃない内容でした。
また、家族の繋がりって何なのかも感じさせられました。
8. Posted by にゃむばなな   2018年06月16日 00:17
FREE TIMEさんへ

疑似家族が本当の家族のようで、本当の家族に絆が見つけられない。
そんな世の中になっているのを是枝裕和監督が見事に描き出してましたね。
こういう作品が最近パルムドールを受賞しているのは、世界的な流れなのかも知れませんね。
9. Posted by ノルウェーまだ〜む   2018年06月16日 00:58
にゃむばななさん☆
二人の女優がとにかく素晴らしかったですね!!私は涙があふれて仕方なかったです。
お互いを思い遣る慈愛に溢れていたばっかりに、この家族が崩壊へ向かっていくのが何とも切なかったですね。
初枝が月命日にお金を無心に行くのも、私は自分の金の為ではなく、亜紀のために貯めてくれていたのではないかと思っています。
10. Posted by にゃむばなな   2018年06月23日 23:57
ノルウェーまだ〜むさんへ

自分のことよりも一緒に暮らす者を優先する。
それが家族の基本なのでしょうね。
そういう意味ではこの家族は本当の家族。
その崩壊は本当に切なかったですよ。

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