2018年06月11日

『羊と鋼の森』

羊と鋼の森柔らかい羊と硬い鋼が豊かな森を奏でる。
第13回本屋大賞を受賞した宮下奈都先生の原作を映画化したこの作品は、ピアノの調律師として成長していく青年を通して描かれる、その道で生きていくと覚悟を決めた者たちの静かな感動の物語。
ただ物語の展開や映画の印象が同じく本屋大賞受賞作品『舟を編む』と似ているのが残念無念。

6,000以上あるパーツを全て覚えては、ピアノ演奏者の要望に応えるべく、地道にコツコツとピアノを整えていくという、ピアノ調律師のお仕事。
とは言っても、具体的に数値で表される訳ではない音の世界の仕事なのだから、当然のことながらクライアントも感覚頼りの言葉で要望を出してくる。
だから寡黙な主人公である外村クンが悪戦苦闘するのは、仕事をしている人なら誰しもが容易に想像出来ること。

ただどんな仕事でも、そこに誰かと関わることがあれば、もちろん大事になってくるのはコミュニケーションであり、そのコミュニケーションで最も大事なのは、ニュアンスが相手に伝わるということ。
言葉では全てを言い表すことは出来ないけれど、これだけは相手には伝わって欲しいと願う、微妙な違いや感情。
それらを汲み取るにはもちろん経験が何よりも必要となってくるが、同時に必要なものは、やはり相手を理解したいと思えてくる前向きな姿勢。その姿勢を貫くことで生まれてくるのが、仕事の楽しさではないだろうか。

高校生の頃に偶然出会った板鳥さんに感銘を受けて調律師の道を歩み始めた外村クンも、親には「世界と繋がりたい」と言っていたが、実際のところは調律師になって何をしたいのかは自分でもよく分かっていなかったはず。

でも引き籠り青年の「家族の絆」だったピアノを調律し、静かな姉と活発な妹がそれぞれ違う演奏をする佐倉姉妹との出会いにより、外村クンが勘違いしてしまったのは、調律師の仕事が直接誰かを幸せにするということ。

調律師というのは、ある意味ピアノのお医者さんといったところだろう。
ならば、病気を治すのは医者ではなく患者本人であるように、最終的にピアノの音色を調整するのは調律師ではなく演奏者のはず。
つまり医者も調律師も患者や演奏者のために土台を作り上げるのが仕事。だから必要以上に出しゃばってはいけないのだ。

しかし、そうは言っても出しゃばってしまうのが、若さというもの。仕事の大変さも楽しさもまだ分かっていない若年社会人というもの。
だからこそ、若人は諸先輩方に色々と教えを乞うというよりも、色々と話を聞かなければならない。色々と話をしなければならない。

一人の人間が一生のうちに出来る失敗などは限られている。その限られた失敗だけを糧に成長していくのは限界がある。
だが人が違えば失敗の数も苦悩の数も増えるが、同時にそこから立ち直った経験も一人の時とは比べものにならないほど多くなる。
だから我々の生きる世界にはコミュニケーションが必要なのだ。ニュアンスを伝え、汲み取ることが大切なのだ。
そしてそれらを活発に行うための、前向きな姿勢も大切になってくるのだ。

恐らく特別な才能もないがマジメな外村クンは、佐倉姉ちゃんと同じく、毎日仕事に真摯に向き合っているからこそ、日々実力は上がっているが同時に目標も上がっていることに気付いていなかったのだろう。自分の視野を狭くしたことで遥か上にある自由な空に向かうことを諦め始めていたのだろう。

けれどマジメすぎるのは玉に瑕だ。時には視点を変えれば、時に真摯に向き合うことをちょっとだけやめてみれば、思いの外、視野は広くなる。そうすれば、自由な空がとても近く、しかも思った以上に大きいことにも気付くだろう。あれもこれもやってみたいという前向きな欲望で満たされる喜びを知るだろう。

辞書を編纂する人々に焦点を当てた、同じく本屋大賞受賞作品『舟を編む』と物語の構成も似ていれば、映画を見終わった感想も似ているところがあまりにも勿体無い作品だったが、抑揚のない物語と暗い映像も、大海原を撮るようにピアノ演奏者を見せるシーンと様々なピアノ楽曲で、抑揚と明るい映像を観客に想像させる演出は素晴らしいと思える映画でした。

深夜らじお@の映画館はやっぱり上白石姉妹では姉の萌音さん派です。

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acideigakan at 23:30│Comments(4)clip!映画レビュー【は行】 

この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2018年06月12日 05:38
鑑賞している時、何かの似ているなぁ…と考えてはいたのですが、にゃむばななさんのレビューを読んで、思い出しました。
たしかに「舟を編む」に似ているんですよね。

作品は、北海道の雄大な景色とピアノの音色とか上手く織り込まれているような感じでした♪
2. Posted by にゃむばなな   2018年06月16日 00:15
BROOKさんへ

映画の作り方がそうなのか、それとも原作がそうなのかは分かりませんが、
本当に『舟を編む』と似てましたね。
だから突き抜けたものを感じることが出来なかったのでしょうね。
3. Posted by FREE TIME   2018年06月23日 13:08
こんにちは。
調律師という職業がどのような仕事をしているのかを見る事が出来たし、北海道が舞台ならではの映像も壮観でしたね。

この映画に出演した上白石姉妹。
自分も姉の萌音さん派ですねw
4. Posted by にゃむばなな   2018年06月24日 00:03
FREE TIMEさんへ

実際の調律師はここまでピアニストにべったりではないそうですね。
確かにピアニストはマイピアノを持ち歩いている訳ではないですから。
でも繊細で大変根気のいる仕事だけに、スポットライトが当たることはいいことですよね。

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