2018年07月27日

『ウィンド・リバー』

ウィンド・リバーここでは生きるか、諦めるか。
注目の脚本家でもあるテイラー・シェリダンが第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門にて監督賞を受賞したこの作品は、「フロンティア三部作」と銘打たれた、アメリカの「辺境」での不条理を描いた見事なクライムサスペンス。
ラストに表示されるテロップに映し出される現代アメリカの大きな闇に誰もが言葉を失う。

真夜中の雪原を裸足で逃げるように走る一人のネイティブアメリカンの少女。だがここはワイオミング州ウィンド・リバーという、先住民保有地とは名ばかりの、深い雪に囲まれた辺境の地。ボロボロになった星条旗が逆さまに掲げられたまま、住民の多くが諦めの表情を浮かべて暮らす土地。そしてマイナス30℃の冷気が肺に入ると血液を凍らせ、自らの血で窒息死させるような過酷な場所。

そんなアメリカの辺境の地で少女の遺体を発見した地元のベテランハンターのコリーは、白人でありながら先住民の女性と結婚した男。日々の生活に諦めた表情を見せる妻たちとは違い、何かに抗うかのように静かに執念らしきものを燃やしているが、3年前に娘を失った男。そしてFBIの新人女性捜査官ジェーンと共に事件を追う、この映画のストーリーテラー。

本来なら余所者であるジェーンを主役に描かれるべき物語を、先住民ではないがウィンド・リバーの住民であるコリーを主役にして描くことで見えてくるもの。
それはネイティブアメリカンの少女ナタリーを死に追いやった犯人は誰なのかを追っていくクライムサスペンスから、辺境の地というだけで世間から忘れ去られていく現代アメリカの闇。

余所者視点では描けない、けれど先住民視点でも伝えきれない。辺境の地へと追いやられてもなお自由を侵される者たちの雄弁な代弁者として、コリーはこの映画で静かに真っ白な雪原に現代アメリカの闇を映し出していく。

なぜこの辺境の地ではネイティブアメリカンの少女だけが命を奪われていくのか。男性でもなければ、白人でもない、ネイティブアメリカンの女性だけが。
なぜそんな事件が何年経っても解決しないのか。

コリーたちが追う、雪原に残された、吹雪が来れば消えてしまう様々な痕跡の先に答えがある。
だがテイラー・シェリダン監督はその答えを突然示すことで、白人の身勝手さという現代アメリカの闇をより鮮明に映し出す。

あの日、先住民が白人により追いやられた辺境の地で、石油採掘のためにやってくるも娯楽のない極寒の地に耐えきれずに強姦事件を繰り返してきた白人たちにより命を奪われたネイティブアメリカンの少女と白人の彼氏。

そして今、この場所で銃撃戦を起こすことでその事実を揉み消そうとする身勝手な白人の男たちに、雪に同化した白い衣装に身を包んだハンターが銃弾に怒りを込めて静かに次々と獲物を仕留めていく。

最後まで残った獲物には、肺に入り込んだ冷気により凍っていく自分の血で窒息しそうになりながらも、裸足で何キロも走った少女のように生きる意志を持っているのかを問うコリーは決して感情に身を任せない。裁判という他人任せの結末にも期待を寄せない。

遺族の苦しみは決して癒えることはない。それを受け入れて生きるしかない。

けれど最後に示されるテロップを読んで愕然となる。
ネイティブアメリカンの女性の失踪数は不明であると。調査も行われていないので不明のままであると。

深夜らじお@の映画館は酷暑の日にこそ、こういう映画を見ていただきたいです。

※お知らせとお願い
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acideigakan at 23:59│Comments(6)clip!映画レビュー【あ行】 

この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2018年07月28日 14:37
見応えのある上質なサスペンス作品に仕上がっていました。
サスペンスとは一括りには出来ないのかもしれませんが…。
さすが「ボーダーライン」を手掛けた脚本家だけはあります!
2. Posted by にゃむばなな   2018年07月28日 23:07
BROOKさんへ

『ファーゴ』などの雪山を舞台にした作品を思い出させながらも、決してそれらとは同じ作品にはしないこの監督の巧さ。
これからも上質な作品を作ってくれると期待するには十分すぎる映画でしたね。
3. Posted by ノラネコ   2018年08月06日 22:19
こんばんは。
この映画にはアイディアの元になった事件があって、事件のあらましはだいぶ違うもののウィンドリバーの少女3人が死んでるんですよね。
徹底的な土地のリアリティというか、その場のにおいまでもが漂ってきそうな作り込みはこの作者の特質かもしれません。
4. Posted by にゃむばなな   2018年08月06日 23:14
ノラネコさんへ

実際にそこに住んでいても、その土地のリアリティを映像でも脚本などの言葉でも描くのが難しいなか、この監督のお仕事ぶりは素晴らしいの一言。
それゆえに『最後の追跡』が劇場公開されなかったことが本当に残念でなりませんよ。
5. Posted by ノルウェーまだ〜む   2018年08月15日 00:42
にゃむばななさん☆
事件は解決したにもかかわらず、ラストの物哀しさは得も言われぬかんじでしたね。
この監督の脚本は好きです。
キャスティングもピッタリでした!
6. Posted by にゃむばなな   2018年08月20日 23:12
ノルウェーまだ〜むさんへ

あの最後のテロップがこの厳冬を舞台にした作品の物悲しさを象徴してましたよね。
環境よりも寒々しい人間の差別感情。
まさに現代アメリカはこんな感じなのでしょうね。

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