2018年10月24日

『若おかみは小学生!』

若おかみは小学生!花の湯温泉のお湯は、誰も拒まない。全てを受け入れて癒してくれる。
自然に流れる涙を拭いながら、つくづく思ってしまう。このタイトル、何とかならなかったのか!子供向け、特に女子児童向けのタイトルでは、多くの大人は足を運ばないよ!と。
これは大人の心を揺さぶる、愛すべき我らがマッドハウス作品だ。

対向車線にはみ出したトラックとの接触事故で両親を亡くした少女:おっこ。だが彼女は温泉旅館を営む祖母に引き取られるため、両親との思い出が詰まった我が家を出る時から全く涙を見せない。「いってきます」と我が家を去ったのに、悲しい顔も全く見せない。

本来なら昔から旅館に住み着く幽霊のウリ坊や美陽、邪鬼の鈴鬼との交流が始まるまでは気が滅入っているのが一般的な少女の精神状態のはずなのに、まるで何も気にしていないかのように平然としている。
それどころか、成り行きとはいえ、祖母の旅館「春の屋」の若女将としての奮闘も始まると、明るく前向きに仕事に打ち込む。

しかしその若女将としてお迎えする3組のお客様との交流が徐々に彼女の本当の精神状態を明かしていくのだが、一般的なこの手の作品と比べると、これが結構地味にヘビーな出逢いばかり。

例えば母親を亡くした神田あかねのくだり。両親を亡くしたおっこからすれば、あかねはまだマシな方、いや羨ましいとも思えるはずなのに、このお客様のために彼女はご要望のケーキに代わる露天風呂プリンの制作に奮闘する。
だがこの時に分かる。おっこは両親の死をまだ受け入れていないのだと。

次に出逢ったグローリー・水領は彼氏にフラれたばかりの占い師だが、おっこの気遣いと明るい性格を気に入り、歳の離れた友人としての付き合いを申し出てくれる。
ただそんな水領と買い物に行く道中でおっこがPTSDを発症する。現実を受け入れていない少女が現実を受け入れねばならない時が徐々に迫ってくる。
けれどおっこは若女将としての「おもてなし」の心を優先して、再び自分の心に蓋をしてしまう。

そして足を怪我した木瀬一家との残酷な出逢い。ライバル少女のピンフリこと真月とのいがみ合いや仲直りを経て、最高のおもてなしを施した相手が、こともあろうに自分の両親を死に追いやった相手だと知った時、おっこの目の前から消えていく両親の姿。

しかもこの現実を受け入れなければならない時に、おっこにはこれまで支えてくれたウリ坊や真陽、鈴鬼の姿が見えなくなり始めているという、さらに残酷な状況がとても子供向けの作品とは思えないほどに重いこと。

でもここで気付かされる。おっこは様々な出逢いを経験し、「春の屋」でおもてなしの精神を理解し、そして両親から受けた数多の愛を思い出しながら、この若女将としての修業に励んできたのだと。

だから彼女はこの残酷な出逢いを経ても、見事にトラウマを克服する。両親の死を受け入れてなお、若女将として木瀬一家を迎え入れる。木瀬文太の「お嬢ちゃんは良くても、俺がいたたまれない」という言葉に、「花の湯温泉のお湯は、誰も拒まない。全てを受け入れて癒してくれる」という両親から受け継いだ言葉で返す。
その年端もいかない少女の大きな成長に、思わず温かい涙が流れてしまう。

またこれまでおっこを支えていた見えない存在のウリ坊や美陽、鈴鬼から、グローリーや真月といった現実世界にいる者がこのタイミングでおっこの支えになっていく過程も、これまた涙腺を刺激してくれる。

誰の人生にも必ず大切な人との別れは来る。その別れを受け入れねばならない時も来る。
けれど誰の人生にも必ず新たな出逢いは来る。何事にも代え難い素敵な出逢いが来る。

それらはいったい誰が教えてくれるのか。自分の人生を振り返れば、特に大人なら誰でも分かるはず。
両親が教えてくれた。近所の大人が教えてくれた。学校や職場の仲間が教えてくれた。

自分を愛してくれる人が教えてくれた。
それがあゝ、素晴らしき哉、人生。

だからこそ、やはりつくづく思えてしまう。このタイトル、何とかならなかったのかと…。

深夜らじお@の映画館は上映が終わる前にこの作品をもっと多くの「大人」に見てもらいたいです。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2018年10月30日 17:25
まあ原作もののタイトルを勝手に変えることは出来ないですからね。
基本このタイトルで親しんでいるファン向けだし。
中身に関しては子ども向け縛りをはるかに超える名作となったので、SNSヒットの隊列に加わったのは良かった。
出来れば次は「若おかみは中学生!」が観たいです。
2. Posted by にゃむばなな   2018年11月02日 22:30
ノラネコさんへ

原作ありきだから仕方ないにしても、副題にするとか、やっぱり勿体無いという気持ちが先行してしまいますね。
それだけ中身がいい作品でしたから。
そして私も『若おかみは中学生!』を観たいです。
3. Posted by ジョニーA   2019年03月30日 03:46
5 はーい、タイトルの「もっちゃり感」に抵抗があって観るのが遅れて
しまっていた典型のワタクシが来ましたよぉーーぅ。まさに「ようやく」
って感じです。タイトルにはやはり、ジブリのジンクス(タイトルに“の”
を付けるとヒットする)を守って、『春の湯のおっこちゃん』とか、『おっこちゃんと3人のかわいいゴースト』とかの
方が一般的な食いつきがよかったんじゃないかなぁ〜?って思います。
いやぁ、泣きました泣きました。良質のアニメって、やっぱりいいもんですねー。
長いこと忘れていましたわ、この感覚。
4. Posted by にゃむばなな   2019年03月31日 01:02
ジョニーAさんへ

お待ちしておりました。ようこそ「ようやく見てきた」の世界へ。
私も劇場公開の終わりの方だったので、その気持ちはよく分かります。
タイトルさえ何とかなれば、もっと話題になっていたのに…。

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