2019年02月20日

『ROMA/ローマ』

ROMA楽しかったことも、悲しかったことも、全て思い出の中に。
これは映画史に残る素晴らしき映画だ。Netflix配信作品なので、世界中の人々がいつでも見ることの出来る作品だが、これこそ映画を見る環境が最も整った映画館という場で見るべき作品だ。
流れゆく時は環境を変える。重ねていく歳月は思い出をより深きものにする。そうして人は新しい時代を迎えていくのだろう。

アルフォンソ・キュアロン監督が自らの幼少期の体験も重ねたからだろうか、監督自身が脚本だけでなく撮影も手掛けているからだろうか、それとも『青いパパイヤの香り』と似た空気が漂っているからだろうか、この作品にはとても幸せな気持ちにさせてくれる長回しのカメラワークが凄く印象に残るが、その幸せな気持ちが徐々に変化していくところがこの作品の最大の魅力なのだろう。

例えば子供たちの各部屋を移動していくクレオを吹き抜け部分から眺めるように追うシーンには、家政婦とはいえ、『ALWAYS三丁目の夕日』における六ちゃんのように、キュアロン少年にとっては面倒見のいいお姉さんを眺めているような温かな視線が凄く心地いい。クレオに対する愛情が無言のカメラワークからひしひしと伝わってくる。

一方で街に、デートに出掛けるクレオを追うシーンには、キュアロン青年が一人の女性の恋路を陰ながら応援するかのような愛情も感じられるが、決してクレオの恋を値踏みする意図は感じられない。
だから彼女が武道家もどきのフェルミンに妊娠を打ち明けた途端、映画館でのデート中にも関わらず、無言で逃げられるという酷い仕打ちを受けても、感情的な描き方は一切しない。

また日に日に大きくなるお腹を気にしながら、やっと探し出したフェルミンに酷いことを言われたりするシーンや、大奥様と共にベビーベッドを買いに行ったら建物の外で暴動が起きるわ、店内で射殺事件が起こるわ、そこに銃を突き付けて戸惑うフェルミンがいるわ、終いにはクレオが破水するわといった不幸が続くシーンには、キュアロン少年が知らなかったクレオの時間を大人になったキュアロンがクレオの個を尊重しながら描いているような優しさが常に漂っている。

だからこそ、クレオが死産した我が子を抱くシーンが逆に忘れられなくなる。やっと彼女も自分の家族という幸せを手に出来るはずと思われたものが、するりと手から逃げていく現実。それをキュアロンはただただ黙って見つめているようにも思える。彼女に対する一切の感情を見せず、彼女の人生そのものを彼女を知る一人の大人の視線で黙って見つめているようにも思える。

そして満ちてくる大波に巻き込まれた住み込み先の子供たちを泳げないクレオが助けにいくシーンにも、そんな大人の視線が溢れている。眩しい太陽と力強い大波が生命力の強さを暗示するシーンにも溢れていると同時に我々は気付く。
クレオは雇い主ソフィアから子供たちの世話を任された家政婦として助けにいくのではない。子供たちに慕われているお姉さんとして助けにいくのではない。一人の母親として子供たちを助けに行ったのだと。

だから家族みんなが抱き合うように身を寄せるなかで彼女が吐露した「生まれて欲しくなかった」という死産した我が子への想いには、不思議とクレオの悲しみではなく、クレオの母親としての愛を感じてしまった。

本来ならどんな命であれ、生まれてきて欲しいもの。
でも楽しいことも悲しいことも、いづれ時と共に人生を豊かにする想い出へと変わっていく。そんな想い出を重ねてこその人生なのに、それらを何一つとして経験出来ずに人生を終えても母親の記憶の中には永遠に生き続ける我が娘。それは子供として最大の不幸ではないか。

けれど人生を終えても誰かの記憶に残り続けている限り、その人はまだ生き続けている。
血の繋がった我が子はいないが、クレオの目の前には彼女を慕う4人の子供がいる。雇い主先の子供とはいえ、血の繋がった娘が目覚めさせてくれた母性がこの子供たちの「もう一人の母親」として生きるクレオを支えている。

そんな母親になったクレオがまた日常に戻る。掃除をし、洗濯をし、子供たちや犬の世話をし、狭い駐車場に適した小型車を買ったソフィアのように、身の丈に合った幸せを大事にする生活に戻る。

それをアルフォンソ・キュアロン監督が「大人になった今だから分かる」という気持ちで、優しい視線で描く。見つめるように眺めるように見守るように描く。クレオの幸せを心の底から願いながら。

深夜らじお@の映画館は親戚一同で消火活動中に一人歌う大人がいるシーンから、この映画におけるキュアロン監督の視線は徐々に大人へと変わっていったように思えました。

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acideigakan at 12:00│Comments(4)clip!映画レビュー【ら行】 

この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2019年02月21日 09:24
にゃむばななさん、こんにちは!
3丁目の夕日のロクちゃん、確かに^^

これがもし受賞したら・・映画館で上映しない映画を、っていう事になりますよね。なんかすごい時代になったなあ・・と思います。

こういった映画が劇場で公開できるような資金援助とか、事情とかになるといいなーと個人的に思ったりします
2. Posted by ノラネコ   2019年02月23日 23:16
物凄く小さな私小説的映画なんだけど、同時に非常に大きな時間的・映画的スケールを感じさせる不思議な映画でした。
明後日のアカデミー賞で健闘したら、日本での公開日も決まるでしょう。
もう一度スクリーンで観たい。
3. Posted by にゃむばなな   2019年02月24日 23:26
latifaさんへ

作品賞はムリでも、実質作品賞扱いで主要部門で受賞するような気がしますよ。
でもこういう映画こそ、劇場で見たいですよね。
そのための資金集めとかがよくなるといいのですが。
4. Posted by にゃむばなな   2019年02月24日 23:32
ノラネコさんへ

そうそう、クレオという小さな女性が主人公なのに、彼女の後ろで繰り広げられる様々な光景はスケール大きく動いているんですよね。
このコントラストがさすがアルフォンソ・キュアロン監督ですよ。

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