2019年04月05日

『バイス』

バイス無口な男には気をつけろ。
これがアメリカを、世界を滅茶苦茶にした無口な男の実話とは驚きだ。史上最凶にて最悪の副大統領ディック・チェイニーに権力を握らせたことこそ、アメリカの黒歴史。しかも現在進行中なのだから、驚きを越えて恐ろしくなる。
でもアメリカ人が気にしているのは『ワイルド・スピード』の新作なのね。

酒と喧嘩で恋人リンに愛想をつかされそうになった電気工が一念発起して生まれ変わる。下院議員ドナルド・ラムズフェルドの下で政治を学びながら、徐々に共和党の中心部に自分の居場所を確保し始めるが、そんな彼は初めてもらった、窓もない自分の仕事部屋にも満足し、家族にその喜びを電話で伝えるような優しい無口な男。

だから政治の世界から離れれば、大企業でその実力を如何なく発揮してCEOにまで上り詰めるも、それでも妻と2人の娘を大事にするだけでなく、ブリーダーとしても十分な実績を残すような家庭的な愛に満ちた男。とても「影の大統領」とまで揶揄された男とは思えない。

だが中盤でわざとらしくEDロールを挿入して、ここからディック・チェイニーという男の人生が変わったことを暗示すると、それまでの一般的には知られていなかった無口で実直で家庭的な優しき男のイメージは徐々に薄れていくが、そのイメージが決して消えることはない。

それは彼がピンチをチャンスに変えることが出来る男だからだ。その説明が天の声によって映画が始まった段階で既になされているからだ。

つまりディック・チェイニーは無口で実直で家庭的な優しい男であると同時に、それまでは大統領の死を待つだけのお飾り状態だった副大統領への就任をジョージ・W・ブッシュから打診されたことで、副大統領の仕事内容を変えるという名目で、見事に自身の政治的目的でもあった一元的執政府を実現させるチャンスに変えただけの男なのだろう。

しかし権力はどんな人間であれ、悲しくも悪い方向に変えてしまう。さすがのディック・チェイニーもその例に漏れず、政治の師匠でもあったドナルド・ラムズフェルドたちと共に政権の中枢に居座ると、周囲を自分たちの邪魔にならない者だけで固めてしまい、反対する者はコリン・パウエルくらいにしてしまうのだから、もうこうなってしまうと誰も彼らを止めることは出来なくなる。

そうして暴走列車となったブッシュ政権、いやチェイニー政権はアメリカ同時多発テロという国家的危機でさえも一元的執政府実現へのチャンスに変えてしまい、まるで国王が命令を下すようにイラク戦争を始め、名指ししたことでテロリスト・ザルカウィに勢いを与えてしまい、結果としてアメリカと世界を混沌とした状態へと導いてしまう。

ただそれでも彼もまた悩める一人の人間。次女が同性愛者であること、長女が出馬した折に同性結婚を認めるとは断言しなかったことで姉妹が仲違いしたこと、そして自身が心臓に疾患を持っていることなども同時に描かれるが、この映画が面白いのはナレーションを務める天の声がまさかディック・チェイニーに心臓を提供した男性とは、なかなかブラックユーモアの効いた構成だ。

けれどそれよりもブラックユーモアが効いているのは、やはり本当のEDロール中に挟み込まれた市民討論会だろう。
一人の「影の大統領」のおかげでおかしくなったアメリカは、オレンジ色顔の大統領を支持する派とヒラリー・ファンとで殴り合いをするような時代になったのかと思いきや、中盤で説明されていた通り、金と時間に余裕がなくなれば誰も政治の話はしなくなる時代になっただけ。
国民は大統領の動向よりも『ワイルド・スピード』の新作が気になるなんて、政治の無関心がより国家をダメにするのは日本だけじゃないのね。世界の超大国アメリカでそんな状況になるのは本当に恐ろしい。

だからだろうか、個人的にはどこかディック・チェイニーが21世紀のアドルフ・ヒトラーにも思えてしまった。
やっぱり独裁政権だけでなく、それに似た形になる長期政権は怖いと思いつつも、安倍晋三総理はディック・チェイニーほど無口なタイプではないのでそれほどの恐ろしさはないのかなとも思っちゃいました。

深夜らじお@の映画館はドナルド・ラムズフェルド、ジョージ・W・ブッシュ、コリン・パウエルだけでなく、コンドリーザ・ライスまでそっくりに演じた役者陣を見るだけでも十分面白いと思います。

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acideigakan at 23:26│Comments(6)clip!映画レビュー【は行】 

この記事へのコメント

1. Posted by yukarin   2019年04月09日 16:41
まさかの『ワイルド・スピード』に驚きました 笑。私もかなり気になってます〜
なかなかブラックユーモアの効いた作品でしたね。登場人物が何気に似てたのも面白かったです。
2. Posted by にゃむばなな   2019年04月09日 23:45
yukarinさんへ

最後の最後で『ワイルド・スピード』の新作が気になるっていうのをオチに持ってくるのがいいですよね。
多分それが今のアメリカを表すいい例なのでしょうね。
3. Posted by 隆   2019年04月13日 16:31
政府のやる事と、民間が望んでいる事との違いが、「ワイルド・スピード」の一言にあったのでしょうね。

でも、比較としても、本作はエンターテイメントとしてWSに敗けてない、と思いましたよ。宣伝でもないでしょうしね。
4. Posted by にゃむばなな   2019年04月14日 22:57
隆さんへ

最後に『ワイルド・スピード』を持ってくるセンスもいいですが、アメリカでは『ワイルド・スピード』はそういう立ち位置なのねとも思いましたね。
これほどまでにいい例が他にないのでしょうね。
5. Posted by FREE TIME   2019年04月22日 23:21
こんばんは。
本当にブッシュとチェイニーはロクな事をしなかったなと再認識させる内容の映画でした。
ブラックユーモアも後半は漆黒レベルだったし・・・。
もう、あんな無益な戦争を起こさないでほしいです。
6. Posted by にゃむばなな   2019年04月25日 00:12
FREE TIMEさんへ

本当にアメリカって怖いですよね。
大統領と副大統領がこんな感じですし、それを本人の許可なく映画化して、それが作品賞にノミネートされちゃうんですからね。

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