2020年02月26日

『彼らは生きていた』

彼らは生きていたこれが本当の戦争の姿。
あまりにも画期的なドキュメンタリーだ。膨大な資料を厳選したピーター・ジャクソン監督のヲタク魂なくしては完成し得なかった、誰も見たことのない映画だ。
ただ単に昔の白黒映像をカラーにしているだけではない。フィクションでは絶対に描くことの出来ない「現実」をカラーでリアルに伝えてくれる唯一無二の映画だ。

1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦について、我々はどれだけの知識を持っているだろうか。恐らく多くの方が持っているものは教科書で学んだことと、『1917 命をかけた伝令』などの映画や記録映像で得たことぐらいで、ほぼ「戦争=戦い殺し合うこと」というイメージしかないだろう。

しかしイギリス帝国戦争博物館が所蔵する2200時間を超える映像と、BBCが所有する複数の退役軍人によるインタビュー音声で構成されたこの作品には、私たちが持っている戦争のイメージとは違う姿が描かれている。

例えば志願兵の多くは年齢を誤魔化した18歳以下の世間知らずの少年たちで、愛国心よりもノリや勢いで志願し、厳しい軍事訓練も何だかんだ言いながらもこなし、命を危険に晒すという危機感もあるのかないのか分からないまま戦場へ送られるなど、戦争をしているというよりも部活動に参加しているような軽ささえ感じてしまう。

だから兵士の多くは笑顔だ。空瓶をギター代わりにする者もいれば、楽しそうに食事をする者もいる。10倍に薄められたビールに群がる者もいれば、紅茶や煙草を楽しむ者もいる。お尻丸出しで糞尿を垂れ流すような最悪の衛生環境下で、敵味方関係なく砲弾や銃弾が飛び交う時もある場所で、しかも一歩塹壕を出ればそこら辺に死体が当たり前のように転がっているにも関わらず、まるで高校球児が練習はしんどいけど、それ以外は楽しく部活動を楽しんでますと言わんばかりの笑顔が溢れている。

一方で当初は白黒映像から始まるも、兵士たちが西部戦線へ送られるあたりからカラー映像に変わり始めると、それまでの歴史的記録映像が現実的ニュース映像のように思えてくる。退役軍人の思い出話を生々しい映像で見せられているようにも思えてくる。

特にこの映画では他の作品では見られないほどに多くの死体の映像が映し出されるが、戦場にいる兵士がそういう環境に慣れるように、観客である我々もまたそういう映像に慣れてしまうのか、不思議と嫌悪感とか恐怖感というものが戦争映画を見ている時ほど感じられなくなる。

すると大砲を撃つ映像はどこかドキュメンタリーっぽく見えるのに、負傷兵が腕を細かく震わせながらカメラに映るなど意図的には絶対に作れない映像に見えるなど、どれもが現実にあった映像なのにリアルとフィクションの境目が分からなくなり始めている自分がいることに気付かされてしまう。
戦死した「人」はおらず、人間の形をした「物」が壊されただけで、生き残った者だけが「人」であるようにも思えるほど、感覚や感情が狂っている自分がいることにも気付かされてしまう。

つまり戦場という私たちが経験したこともなければ、映像ですらじっくり見たこともない非日常を超えた「異世界」をカラーという生々しさを感じさせる映像で見せられると、私たちはこれまでに得た知識とはまた違う新たな知識として認識してしまうということなのかも知れない。

そうなると前線も怖い場所というよりは、しんどい場所に見えてくる。4日交代の任務をこなすのにも疲れてくると、戦う理由も特に分かっていない兵士ばかりということもあってか、捕虜のドイツ兵と笑顔で写真に納まったりするのも日常風景になってくれば、同じドイツ人でもバイエルン人は善良だがプロイセン人は野蛮だといった好き嫌いも普通に語られるようになる。

そう、ここにも試合になれば敵味方だが、戦いが終われば友達になれるヤツもいると言わんばかりの世界があるのだ。宣戦布告のニュースをドイツチームとのラグビーの試合途中の食事時間に聞くも、ナイフで今から戦う?というジョークの後に、まぁ戦争は明日からと言い合える世界がそのまま続いているかのようだ。

そんな兵士たちだが、彼らが帰還すると戦火とはほぼ無縁のイギリス本土で失業などの冷遇を受けるというのがあまりにも不憫でならない。なかでも最後に語られる、帰還兵が最も苛立った知人の言葉。

最近見かけなかったが、どこへ行ってた?

こんな心無い言葉を浴びせられるために戦争に行った訳ではないはずなのに。後悔する兵士たちが語る「戦争はご免だ」という言葉がより重く心に残る。

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acideigakan at 23:59│Comments(2)clip!映画レビュー【か行】 

この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2020年03月06日 22:15
これは「1917」とのセットで見ると、余計に深く感じますね。
日本公開が2年以上遅れたことで、意外な相乗効果となりました。
いつの時代も、自分たちとは関係ないところで、若者たちが真っ先に犠牲になるのはやりきれないです。
2. Posted by にゃむばなな   2020年03月12日 00:55
ノラネコさんへ

日本では本当にいいタイミングになりましたよね。
史実を基にしたフィクションと、史実を集めたドキュメンタリー。その違いを楽しみながらも、若者の命が犠牲にされる共通項が見えてくる。
映画を通しての歴史はこれまた面白いものですわ。

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