2020年03月14日

『ミッドサマー』

ミッドサマーようこそ、白夜の祝祭へ。
祝祭は基本的にメインイベントが夜だから、カルトや土着信仰の奇祭であっても、朝を迎えれば元の生活に戻れるという心の余白があるもの。でもそれが白夜という太陽が沈まぬ時間で続く奇祭であったら、心の余白なんてものは存在出来るのだろうか。
怖いというよりも恐ろしい。それがこのホラー映画最大の魅力。

両親が妹の自殺に巻き込まれたとはいえ、ただでさえ彼氏依存の強いダニーの精神が不安定になる前半から、特に男性なら誰もが思うだろう。すぐに泣き叫ぶダニーは何て面倒臭い女なんだと。どないしたら彼女は落ち着いてくれるのかと。

そんなダニーが自分勝手なマーク、論文作成に勤しむジョシュ、破局までは時間の問題の彼氏クリスチャンと共にマイペースなペレの故郷であるスウェーデンの人里離れたコミュニティーで行われる90年に一度の祝祭に参加する。もちろん気分転換を兼ねた観光気分で。

ところが白夜で行われる祝祭は奇祭だ。どこか異様な雰囲気を感じつつも、帰ろうと思えば帰ることが出来るのになぜか出来ないまま流されていくダニーたちと、同じく観光で訪れていたサイモン&コニーが目にするのは、男女の老人が岩場から飛び降りる生贄の儀式。メイ・クイーンを決めるまで女性たちが踊り続ける儀式。コミュニティー維持のために外部の精子を受け入れる性交の儀式など、どれもが人間の赤い体液と白い体液を連想させるものばかり。

青い空、緑の大地、黄色い神殿、白い衣装。映像は凄くカラフルだが、祝祭参加者の表情は笑顔の割には個性が見えない。どれも作られた笑顔にも見えるからこそ、本音も見えない。けれどそれが沈まぬ太陽の下で平然と行われているから、逆にそんな現状を疑うこと自体が間違っているかのようにも思えてくる。

つまり暗い夜に行われる祝祭とは違い、何もかも見える明るい白夜に行われる祝祭なのに、最も重要なはずの祭りの本質だけが見えない状態がずっと続くと、人間の判断力は次第に劣り始め、やがてはこれまでの生活で培ってきた善悪の判断でさえも狂ってしまう。それがダニーたちがこの祝祭で経験する、身体は普通に動くのに思考回路が停滞し始めた脳は奥底で怯え始めている心のシグナルでさえ認識出来なくなる恐怖。逃げるべきなのに、逃げていない自分がいるという、傍から冷静に想像力を働かせれば働かせるほど恐ろしくなる恐怖。

だから先祖の倒木に小便をしたマークや門外不出の聖典を撮影したジョシュが行方不明になっても、途中離脱したサイモン&コニーの行方に違和感があっても、ダニーは表立って心配しない。むしろコミュニティーを手伝い始めた頃から精神不安は影を潜め、メイ・クイーン選出儀式で勝利してしまうと、彼氏のクリスチャンでさえ、彼女の視界から消え始める。

もうダニーはクリスチャンたちと共にではなく、このコミュニティーと共に行動する道を選んでしまった。喜ぶ時も泣く時もみんなで共に喜び、泣くこのコミュニティーを心の拠り所にしてしまった。
そんな彼女が自身の陰毛をパイに入れて意中の男性を誘惑した赤毛の女と交わったクリスチャンを裏切り者として9人目の生贄として選ぶのも、もはや避けられぬ宿命か。

行方不明になった外部の4人や飛び降りの男女老人、志願者2名と共に熊の皮を着せられたクリスチャンが何も喋れぬまま黄色い神殿で焼かれていく様を、メイ・クイーンとして見届けるダニーを覆う色鮮やかな花々が異様な気持ち悪さを感じさせながらフィナーレを迎える祝祭。
それは人として間違った感情に支配されたものであることを、共同寝室で毎晩泣き止まぬ赤ん坊だけが訴えていたのもまた冷静に考えると恐ろしい。

そして思わず考えてしまう。北欧と同じく奇祭の多い日本にも、もしかしたら今もなお生贄の儀式がリアルに存続しているのかも知れないと。出来れば、そういう場には遭遇したくないのは私だけではないはず…。

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acideigakan at 23:59│Comments(6)clip!映画レビュー【ま行】 

この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2020年03月16日 01:14
にゃむばななさん☆
>何もかも見える明るい白夜に行われる祝祭なのに、最も重要なはずの祭りの本質だけが見えない
まさにその通りでしたね〜鋭いです!
そしていつまでも明るい北欧では、生活リズムが狂っていって次第に思考能力が停滞してくるの、本当にあるんですyo
生まれながらにしてこの環境なら、きっとなんてことないのでしょうけど・・・
2. Posted by ここなつ   2020年03月17日 10:03
こんにちは。
なるほどですね、無垢な赤ん坊、ですね。
確かに確かに。なんであんなに泣き続けるのか?の疑問にぴたりとはまります。
単にずっと明るいからではありますまい…。いやー、怖い。
3. Posted by ノラネコ   2020年03月18日 22:08
まあ沖縄なんかには未だ参加者以外に内容が全く分からない奇祭が存在してますからね。
流石に人身御供はないでしょうけど。
人間を縫い込む訳じゃないけど、イオマンテもクマを生贄に捧げますし、同じようなルーツを持つ祭りは多い気がします。
5. Posted by にゃむばなな   2020年03月22日 23:31
ノルウェーまだ〜むさんへ

実際に白夜で思考能力が狂うことがあるんですね。
それがこういう奇祭なら考えるだけでも恐ろしいですね。
あの赤ん坊もいつかはこの奇祭が当たり前と思うようになると考えるのも、あぁ恐ろしい…。
6. Posted by にゃむばなな   2020年03月22日 23:36
ここなつさんへ

あれだけコミュニティーで子供を育てるといいながら、なぜ赤ん坊はずっと泣いてるの?という疑問がずっと心に残るんですよね。
あの赤ん坊がずっと泣いていてくれたからこそ、観客は冷静に映画を見れたのかも知れませんね。
7. Posted by にゃむばなな   2020年03月22日 23:57
ノラネコさんへ

確かに沖縄とかは土着信仰がまだまだ色濃く残ってますもんね。
人身供養がなくても、かつてはあったかも知れないと思うと、怖いもんですわ。

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