先哲遺著追補 漢籍國字解全書 早稲田大学出版部
「第27巻 礼記 下 - 大学第四十二」 桂五十紂雰妨仟次 講述(1868-1937)著作権消滅
入力校注:鈴木宏治
大学 第四章
【本文】
詩云、瞻彼淇澳、緑竹猗猗、有斐君子、如切如磋如琢如磨、瑟兮遙兮、赫兮、咺兮、有斐君子、終不可諠兮、如切如磋者道*學也、如琢如磨者自脩也、瑟兮遙兮者恂慄也、赫兮咺兮者威儀也、有斐君子、終不可諠兮者、道盛徳至善民之不能忘也、
【訓読】
しにいわく、かのきのいくをみるに、りょくちくいいたり、ひたるくんしあり、せっするがごとくさするがごとくたくするがごとくまするがごとし、しつたりかんたり、かくたり、けんたり、ひたるくんしあり、ついにわするべからずと、せっするがごとくさするがごとしとはがくをいうなり、たくするがごとくまするがごとしとはみずからおさむるなり、しつたりかんたりとはじゅんりっするなり、かくたりけんたりとはいぎなり、ひたるくんしあり、ついにわするべからずとは、せいとくしぜんたみのわするるあたわざるをいうなり、
【義解】
この節は、意を誠にし明徳を明にしたる君は民の永遠に忘るべからざることを説く、
詩に云く、彼の淇水の隈を見るに、緑の竹が美しく盛んに生い茂れり、この如く徳の文章(アヤ)の美しく盛んなる君子あり、この君子は細工人が骨角を切りみがきて美器をつくるが如く順序正しく精密に学業を習い、玉石をちりばみみがきて美器をつくるが如く順序正しく精密に自ら身を修むるなり、学習と自修と既に成るや、自然に内は心厳密に毅(つよ)く、外は威儀盛大にかがやきあらわる、この如き徳の文章ある美しく盛んなる君子あり、我は終世この君子を思慕して忘るべからずと、詩にいう所の如切如磋とは君子の学問を講習する有様を言いしなり、如琢如磨とは君子の自ら修養する有様を言いしなり、瑟兮遙兮とは学習修養既に成る後心自然に厳しく慎みて強きことを言いしなり、赫兮咺兮とは威儀の盛大著明なるを言いしなり、有斐君子終不可諠兮とはこの如く盛徳あり至善に止まりし君子は民の永遠に思慕して忘る能(あた)わざることを言しなり、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経衛風淇澳の篇にあり、衛の武公の徳を美めし詩なり、
[ 淇澳 ] 淇は川の名、澳は隈なり、
[ 緑竹 ] 緑は緑に通ず、
[ 猗々 ] 美しく盛んなる貌、
[ 斐 ] 徳の文章の美しく盛んなる貌、
[ 君子 ] 位徳を以ていう、人君にして聖徳あるもの、
[ 如切如磋 ] 骨角を治めて細工する上に就いていう、切はきりてあら細工すること、磋はやすりなどにてとぎみがきて美しくすること、
[ 如琢如磨 ] 玉石を始めて細工する上に就いていう、琢はちりばみてあら細工すること、磨は砥石にてとぎみがきて美しくすること、
[ 瑟兮 ] 厳密の貌、
[ 遙兮 ] 武毅の貌、
[ 赫兮 ] 光かがやく貌、
[ 咺兮 ] 盛んに著わるる貌、
[ 諠 ] 忘なり、ワスルと訓む、
[ 道 ] 言なり、イウと訓む、以下同じ、
[ 恂慄 ] 厳しくおそれつつしむこと、
【本文】
詩云、於戲前王不忘、君子賢其賢而親、其親小人樂其樂而利其利、此以沒世不忘也、
【訓読】
しにいわく、あぁぜんおうわすれらずと、くんしはそのけんをけんとしてそのしんをしんとし、しょうじんはそのたのしみをたのしみとして、そのりをりとす、これをもってよをぼっするまでわすれられざるなり、
【義解】
この節は、前節と同意なり、
詩に云く、ああ聖徳大なる前王は、我々思慕して忘れずと、蓋し前王は意を誠にして明徳を明にし至善に止まり無限の功徳をのこされたり、故に後の君主は前王の用いられし賢人を賢として尊び、前王の愛されし親族を親しみ、人民は前王の遺し与えられし安楽を楽しみ、前王の遺し与えられし利益を利として太平に酔いつつあり、これを以て終世前王を思慕して忘れざるなり、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経周頌烈文の篇なり、
[ 於戲 ] 嘆美の辞なり、アアと訓む、
[ 前王 ] 前代の聖王、詩にては周の文王武王を指す、
[ 君子 ] 位を以ていう、前王の子孫を指す、
[ 其賢 ] 其は前王を指す、以下同じ、
[ 小人 ] 位を以ていう、人民のことなり、
[ 沒世 ] 猶終世というが如し、
【本文】
康誥曰、克明徳、太甲曰、顧是天之明命、帝典曰、克明峻徳、皆自明也、
【訓読】
こうこうにいわく、よくとくをあきらかにすと、たいこうにいわく、てんのめいめいをこしすと、ていてんにいわく、よくしゅんとくをあきらかにすと、みなみずからあきらかにするなり、
【義解】
この節は、意を誠にして明徳を明にすることを説く、
康誥に曰く、克く我徳を明にすと、太甲に曰く、上帝の顕明なる命を顧念して、徳を正しくすと、帝典に曰く、克く我大徳を明にすと、これらは皆自ら意を誠にして明徳を明にすることを言いたるなり、
【字解】
[ 康誥 ] 書経周書の篇名、
[ 太甲 ] 書経尚書の篇名、
[ 顧是 ] 顧は顧み念うこと、是は正なり徳を正しくすること、
[ 帝典 ] 書経虞書の篇名、今の堯典のことなり、
[ 峻徳 ] 峻は大なり峻徳は高大の徳なり、
【本文】
湯之盤銘曰、苟日新、日日新、又日新、康誥曰、作新民、詩云、周雖舊邦、其命維新、是故君子無所不用其極、
【訓読】
とうのばんのめいにいわく、いやしくもひにあらたにせば、ひびにあらたにし、またひにあらたにす、こうこうにいわく、しんみんとなると、しにいわく、しゅうはきゅうほうといえどもそのめいこれあらたなりと、このゆえにくんしはそのきょくをもちいざるところなし、
【義解】
この節は、前節と同意なり、
湯王の沐浴の盤の銘に曰く、苟も一日新たにせばそれより日々に新たにし、また日に怠らずと、康誥に曰く、自らその徳を顧念して新しき民となると、詩に曰く、周は舊邦なりといえどもその施す所の教命は維新なり、こは文王が徳を修めて新たにせるなりと、以上皆意を誠にして徳を新たにすることをいいしなり、是れ故に君子はその徳を新たにせんと欲せば、処となく時となくその心力の極限を尽くし用いざる所なし、
【字解】
[ 湯之盤 ] 殷の湯王の沐浴の盤なり、
[ 銘 ] 祭統篇を見よ、
[ 作新民 ] 顧念して徳を修め新しき徳の民となるの意、
[ 詩曰 ] 詩経大雅文王の篇なり、
[ 周雖舊邦 ] 周の祖は后稷(こうしょく)にて子孫連綿して文王に至る故に舊邦という、
[ 其命維新 ] その施す所の教命は維れ新たなり、こは文王が意を誠にして徳を新たにせし為なりの意、
[ 極 ] 極限なり、心力の極限なり、
【本文】
詩云、邦畿千里、維民之所止、詩云、緡蠻黄鳥止乎丘隅、子曰、於止知其所止、可以人而不如鳥乎、
【訓読】
しにいわく、ほうきせんり、これたみのとどまるところと、しにいわく、めんばんたるこうちょうはきゅうぎゅうにとどまると、しいわく、とどまるにおいてそのとどまるところをしる、ひとをもってとりにしかざるべけんや
【義解】
この節は、人はその止まるべき所を知らざるべからずを説き、意を誠にするは明明徳の為なれども、実は止於至善の第一歩たることを暗示す、
詩に云く、畿内千里は文物の中心にて維れ民の慕来して安んじ止まる所なりと、また詩に曰く、緡蠻となく黄鳥は己が棲処を丘隅に定め、これに安んじ止まると、子曰く、鳥すら止まるに於いてその止まる安全の所を知る、人の止まる所は至善なり、人にして之れを知らずんば鳥にだも及ばざるなり、人を以て鳥に如かずして可ならんやと、
【字解】
[ 詩云 ] 前詩は詩経商頌玄鳥の篇、後詩は小雅緡蠻の篇なり、
[ 邦畿千里 ] 邦畿は畿内はその広千里なり、天子の都ある地にて文物の中心なり、
[ 緡蠻 ] 黄鳥の鳴く声、
[ 黄鳥 ] 鶯の一種、からうぐいす、
[ 丘隅 ] 丘の隅の高く峻しく樹木の繁茂せる所にて鳥の棲処として極めて安全なる処なり、
【本文】
詩云、穆穆文王、於緝熈敬止、爲人君止於仁、爲人臣止於敬、爲人子止於孝、爲人父止於慈、與國人交止於信、
【訓読】
しにいわく、ぼくぼくたるぶんおう、ああしゅきうきにしてけいしすと、じんくんとなりてはじんにとどまり、じんしんとなりてはけいにとどまり、じんしとなりてはこうにとどまり、じんぷとなりてはじにとどまり、くくじんとまじわりてはしんにとどまる、
【義解】
この節は、文王の敬に止まりしことを説きて、人は至善に止まらざるべからずの例証とす、
詩に云く、深遠の徳ある文王は、ああその徳の光は絶えず続きて、その人に接する毎に敬という処に止まれりと、敬という処に止まれりとは如何なることかというに、その人君になりては仁愛という処い止まり、人臣となりては忠敬という処に止まり、人の子となりては孝行という処に止まり、人の父となりては慈愛という所に止まり、国人と交わりては信義という処に止まることをいいしなり、この例によりて人は至善に止まるべきことを推知すべし、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経大雅文王の篇にあり、
[ 穆々 ] 徳の深遠なるさま、
[ 於 ] 嘆美の辞なり、アアと訓む、
[ 緝熈 ] 緝は継続なり、熈は光明なり、徳の光明の継続して絶えぬこと、
【本文】
子曰、聽訟吾猶人也、必也使無訟乎、無情者不得盡其辭、大畏民志、此謂知本、
【訓読】
しいわく、うったえをきくことわれひとのごときなり、かならずやうったえなからしめんかと、まことなきものはそのことばをつくすをえず、おおいにたみのこころざしをおそれしむ、これをもとをしるという、
【義解】
この節は、孔子の言を引きて誠意の本たることを説く、
子曰く、訴訟を聴き裁くことは、吾は猶他の役人と同じく、別に変わりたることなし、ただ吾の異なりたる所は、吾意を誠にして明徳を明にして民を風化し必ず民をして訴訟することなからしむるにあるかと、かく明徳を明にして民を風化せば、詐偽の徒はその虚誕の辞を言い尽くして欺くを得ず、大いに民の志を畏服せしめ、訴訟は自然になくなるなり、この孔子言の如きを本を知ると謂うなり、
【字解】
[ 聽訟 ] 聽はききて裁判すること、
[ 無情者 ] 情は実なり、実なきものとは詐偽の人をいう、
[ 辭 ] 虚誕の辞をいう、
○以上第四章、第一章第二章の義を反復申明し、誠意の本たるに帰着す、蓋し明明徳は意を誠にするに非ざれば不可なればなり、
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【本文】
詩云、瞻彼淇澳、緑竹猗猗、有斐君子、如切如磋如琢如磨、瑟兮遙兮、赫兮、咺兮、有斐君子、終不可諠兮、如切如磋者道*學也、如琢如磨者自脩也、瑟兮遙兮者恂慄也、赫兮咺兮者威儀也、有斐君子、終不可諠兮者、道盛徳至善民之不能忘也、
【訓読】
しにいわく、かのきのいくをみるに、りょくちくいいたり、ひたるくんしあり、せっするがごとくさするがごとくたくするがごとくまするがごとし、しつたりかんたり、かくたり、けんたり、ひたるくんしあり、ついにわするべからずと、せっするがごとくさするがごとしとはがくをいうなり、たくするがごとくまするがごとしとはみずからおさむるなり、しつたりかんたりとはじゅんりっするなり、かくたりけんたりとはいぎなり、ひたるくんしあり、ついにわするべからずとは、せいとくしぜんたみのわするるあたわざるをいうなり、
【義解】
この節は、意を誠にし明徳を明にしたる君は民の永遠に忘るべからざることを説く、
詩に云く、彼の淇水の隈を見るに、緑の竹が美しく盛んに生い茂れり、この如く徳の文章(アヤ)の美しく盛んなる君子あり、この君子は細工人が骨角を切りみがきて美器をつくるが如く順序正しく精密に学業を習い、玉石をちりばみみがきて美器をつくるが如く順序正しく精密に自ら身を修むるなり、学習と自修と既に成るや、自然に内は心厳密に毅(つよ)く、外は威儀盛大にかがやきあらわる、この如き徳の文章ある美しく盛んなる君子あり、我は終世この君子を思慕して忘るべからずと、詩にいう所の如切如磋とは君子の学問を講習する有様を言いしなり、如琢如磨とは君子の自ら修養する有様を言いしなり、瑟兮遙兮とは学習修養既に成る後心自然に厳しく慎みて強きことを言いしなり、赫兮咺兮とは威儀の盛大著明なるを言いしなり、有斐君子終不可諠兮とはこの如く盛徳あり至善に止まりし君子は民の永遠に思慕して忘る能(あた)わざることを言しなり、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経衛風淇澳の篇にあり、衛の武公の徳を美めし詩なり、
[ 淇澳 ] 淇は川の名、澳は隈なり、
[ 緑竹 ] 緑は緑に通ず、
[ 猗々 ] 美しく盛んなる貌、
[ 斐 ] 徳の文章の美しく盛んなる貌、
[ 君子 ] 位徳を以ていう、人君にして聖徳あるもの、
[ 如切如磋 ] 骨角を治めて細工する上に就いていう、切はきりてあら細工すること、磋はやすりなどにてとぎみがきて美しくすること、
[ 如琢如磨 ] 玉石を始めて細工する上に就いていう、琢はちりばみてあら細工すること、磨は砥石にてとぎみがきて美しくすること、
[ 瑟兮 ] 厳密の貌、
[ 遙兮 ] 武毅の貌、
[ 赫兮 ] 光かがやく貌、
[ 咺兮 ] 盛んに著わるる貌、
[ 諠 ] 忘なり、ワスルと訓む、
[ 道 ] 言なり、イウと訓む、以下同じ、
[ 恂慄 ] 厳しくおそれつつしむこと、
【本文】
詩云、於戲前王不忘、君子賢其賢而親、其親小人樂其樂而利其利、此以沒世不忘也、
【訓読】
しにいわく、あぁぜんおうわすれらずと、くんしはそのけんをけんとしてそのしんをしんとし、しょうじんはそのたのしみをたのしみとして、そのりをりとす、これをもってよをぼっするまでわすれられざるなり、
【義解】
この節は、前節と同意なり、
詩に云く、ああ聖徳大なる前王は、我々思慕して忘れずと、蓋し前王は意を誠にして明徳を明にし至善に止まり無限の功徳をのこされたり、故に後の君主は前王の用いられし賢人を賢として尊び、前王の愛されし親族を親しみ、人民は前王の遺し与えられし安楽を楽しみ、前王の遺し与えられし利益を利として太平に酔いつつあり、これを以て終世前王を思慕して忘れざるなり、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経周頌烈文の篇なり、
[ 於戲 ] 嘆美の辞なり、アアと訓む、
[ 前王 ] 前代の聖王、詩にては周の文王武王を指す、
[ 君子 ] 位を以ていう、前王の子孫を指す、
[ 其賢 ] 其は前王を指す、以下同じ、
[ 小人 ] 位を以ていう、人民のことなり、
[ 沒世 ] 猶終世というが如し、
【本文】
康誥曰、克明徳、太甲曰、顧是天之明命、帝典曰、克明峻徳、皆自明也、
【訓読】
こうこうにいわく、よくとくをあきらかにすと、たいこうにいわく、てんのめいめいをこしすと、ていてんにいわく、よくしゅんとくをあきらかにすと、みなみずからあきらかにするなり、
【義解】
この節は、意を誠にして明徳を明にすることを説く、
康誥に曰く、克く我徳を明にすと、太甲に曰く、上帝の顕明なる命を顧念して、徳を正しくすと、帝典に曰く、克く我大徳を明にすと、これらは皆自ら意を誠にして明徳を明にすることを言いたるなり、
【字解】
[ 康誥 ] 書経周書の篇名、
[ 太甲 ] 書経尚書の篇名、
[ 顧是 ] 顧は顧み念うこと、是は正なり徳を正しくすること、
[ 帝典 ] 書経虞書の篇名、今の堯典のことなり、
[ 峻徳 ] 峻は大なり峻徳は高大の徳なり、
【本文】
湯之盤銘曰、苟日新、日日新、又日新、康誥曰、作新民、詩云、周雖舊邦、其命維新、是故君子無所不用其極、
【訓読】
とうのばんのめいにいわく、いやしくもひにあらたにせば、ひびにあらたにし、またひにあらたにす、こうこうにいわく、しんみんとなると、しにいわく、しゅうはきゅうほうといえどもそのめいこれあらたなりと、このゆえにくんしはそのきょくをもちいざるところなし、
【義解】
この節は、前節と同意なり、
湯王の沐浴の盤の銘に曰く、苟も一日新たにせばそれより日々に新たにし、また日に怠らずと、康誥に曰く、自らその徳を顧念して新しき民となると、詩に曰く、周は舊邦なりといえどもその施す所の教命は維新なり、こは文王が徳を修めて新たにせるなりと、以上皆意を誠にして徳を新たにすることをいいしなり、是れ故に君子はその徳を新たにせんと欲せば、処となく時となくその心力の極限を尽くし用いざる所なし、
【字解】
[ 湯之盤 ] 殷の湯王の沐浴の盤なり、
[ 銘 ] 祭統篇を見よ、
[ 作新民 ] 顧念して徳を修め新しき徳の民となるの意、
[ 詩曰 ] 詩経大雅文王の篇なり、
[ 周雖舊邦 ] 周の祖は后稷(こうしょく)にて子孫連綿して文王に至る故に舊邦という、
[ 其命維新 ] その施す所の教命は維れ新たなり、こは文王が意を誠にして徳を新たにせし為なりの意、
[ 極 ] 極限なり、心力の極限なり、
【本文】
詩云、邦畿千里、維民之所止、詩云、緡蠻黄鳥止乎丘隅、子曰、於止知其所止、可以人而不如鳥乎、
【訓読】
しにいわく、ほうきせんり、これたみのとどまるところと、しにいわく、めんばんたるこうちょうはきゅうぎゅうにとどまると、しいわく、とどまるにおいてそのとどまるところをしる、ひとをもってとりにしかざるべけんや
【義解】
この節は、人はその止まるべき所を知らざるべからずを説き、意を誠にするは明明徳の為なれども、実は止於至善の第一歩たることを暗示す、
詩に云く、畿内千里は文物の中心にて維れ民の慕来して安んじ止まる所なりと、また詩に曰く、緡蠻となく黄鳥は己が棲処を丘隅に定め、これに安んじ止まると、子曰く、鳥すら止まるに於いてその止まる安全の所を知る、人の止まる所は至善なり、人にして之れを知らずんば鳥にだも及ばざるなり、人を以て鳥に如かずして可ならんやと、
【字解】
[ 詩云 ] 前詩は詩経商頌玄鳥の篇、後詩は小雅緡蠻の篇なり、
[ 邦畿千里 ] 邦畿は畿内はその広千里なり、天子の都ある地にて文物の中心なり、
[ 緡蠻 ] 黄鳥の鳴く声、
[ 黄鳥 ] 鶯の一種、からうぐいす、
[ 丘隅 ] 丘の隅の高く峻しく樹木の繁茂せる所にて鳥の棲処として極めて安全なる処なり、
【本文】
詩云、穆穆文王、於緝熈敬止、爲人君止於仁、爲人臣止於敬、爲人子止於孝、爲人父止於慈、與國人交止於信、
【訓読】
しにいわく、ぼくぼくたるぶんおう、ああしゅきうきにしてけいしすと、じんくんとなりてはじんにとどまり、じんしんとなりてはけいにとどまり、じんしとなりてはこうにとどまり、じんぷとなりてはじにとどまり、くくじんとまじわりてはしんにとどまる、
【義解】
この節は、文王の敬に止まりしことを説きて、人は至善に止まらざるべからずの例証とす、
詩に云く、深遠の徳ある文王は、ああその徳の光は絶えず続きて、その人に接する毎に敬という処に止まれりと、敬という処に止まれりとは如何なることかというに、その人君になりては仁愛という処い止まり、人臣となりては忠敬という処に止まり、人の子となりては孝行という処に止まり、人の父となりては慈愛という所に止まり、国人と交わりては信義という処に止まることをいいしなり、この例によりて人は至善に止まるべきことを推知すべし、
【字解】
[ 詩云 ] 詩経大雅文王の篇にあり、
[ 穆々 ] 徳の深遠なるさま、
[ 於 ] 嘆美の辞なり、アアと訓む、
[ 緝熈 ] 緝は継続なり、熈は光明なり、徳の光明の継続して絶えぬこと、
【本文】
子曰、聽訟吾猶人也、必也使無訟乎、無情者不得盡其辭、大畏民志、此謂知本、
【訓読】
しいわく、うったえをきくことわれひとのごときなり、かならずやうったえなからしめんかと、まことなきものはそのことばをつくすをえず、おおいにたみのこころざしをおそれしむ、これをもとをしるという、
【義解】
この節は、孔子の言を引きて誠意の本たることを説く、
子曰く、訴訟を聴き裁くことは、吾は猶他の役人と同じく、別に変わりたることなし、ただ吾の異なりたる所は、吾意を誠にして明徳を明にして民を風化し必ず民をして訴訟することなからしむるにあるかと、かく明徳を明にして民を風化せば、詐偽の徒はその虚誕の辞を言い尽くして欺くを得ず、大いに民の志を畏服せしめ、訴訟は自然になくなるなり、この孔子言の如きを本を知ると謂うなり、
【字解】
[ 聽訟 ] 聽はききて裁判すること、
[ 無情者 ] 情は実なり、実なきものとは詐偽の人をいう、
[ 辭 ] 虚誕の辞をいう、
○以上第四章、第一章第二章の義を反復申明し、誠意の本たるに帰着す、蓋し明明徳は意を誠にするに非ざれば不可なればなり、
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