前日のAdventerカレンダーの方がハイレベル過ぎて急遽通常営業を取りやめた あだちです、こんばんは。

さて、こけまりの中の人に、「マリノス系blogでAdventerカレンダーやるぞ」と誘われ、良く分からないながら、まぁ、担当になった日にblog書いてupすれば良いんだな、と思っていたわけです。

あ、Adventerカレンダーはこれ。

Adventerカレンダーリンク

ところがどっこい、12月1日に始まったこの企画、あだちはうっかり12月2日担当になったわけなのですが、スタートの1日目、あやちんさんの「BLIND LOVE」が熱い!熱すぎる!

12月1日の、BLIND LOVE

これは凄いですね。 

となるとどうなったか。

12月2日担当、通常営業が非常にやりにくい事に!

(こんなハイクオリティな事やられたら、いつものように淡々とマイルの事書くわけにはいかないよなー、となり。)

そんなわけで、結果、マイルの事なのですが、 だらだらと物語風にする事とします(←ヤケ(笑))
なんでも12月2日中にUPしないといけないそうなので、かなり後半時間なくて無理やり押し込みましたが、なんか良く分からないけど、駄文を延々と読むという苦行を味わいたい方、どうぞ!

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◆主な登場人物◆

 

マラン(主人公):2015年、マリノスにハマる。

 

毬乃:マランのフィアンセ。宝塚歌劇が好き。

 

あだち先輩:職場の先輩。愛妻家。

 

ひげさん:職場の上司。

 
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 師走の足音に急かされるように、山下公園通りの銀杏並木も刻一刻と黄金色に染まり、足下を照らしている。

 空を彩る琥珀色が鮮やかな絨毯へと変わるのも、まもなくだ。

 

 それにしても、いつの事であったか。太陽の陽を浴びようと葉の一枚一枚が青々と力強く揺れていたのは。

 それはつい先日の気もするし、随分遠い昔の気すらしてくる。

 周りを行き交う人々の時計とは逆に、思わず立ち止まり、記憶の針を撒き戻す。

 

 そして横浜港から吹き込む冷たい風は、銀杏の香りのベールを纏い、記憶を呼び覚ます手助けをしてくれる。

 

 そうだ、あれは産業貿易ビルの中にあるパスポートセンターへ向かう時だ。

 

 職場の先輩に言われ、2016年、アジアを飛び回る為に、申請に訪れたのだった。

 今年から観戦し出したトリコロールの勇者たちが躍動し、まだまだ暑い真夏の夜、ホーム日産スタジアムで、1stステージ王者の浦和に快勝した直後のことだ。

 

 当時は良くわかっていなかったが、先輩に「来年のACLに備え、パスポートを用意しておく必要あるよ。」と言われたのだった。

 その時は何となくしか分かっていなかったACLという意味深な横文字。

 でも今でははっきりと分かる。今年の悔しさと共に。

 

 営業先から会社へと戻る中、一度巻き戻した時計の針を更に戻してみる。

 思い返してみれば、その出会いは偶然であり、しかし、必然だった。

 
 

  2015228日。

 この日、婚約者の毬乃と桜木町にデートに出かけ、昼食を食べ終えて散歩がてら駅前を通った時だった。

 青い、大体お揃いの服を着ている集団がビラを配っていた。

 まぁ、桜木町の駅前広場でビラが配られている事はよくある事だ、不思議でもない。

 ただ、今日配っている人達は、鮮やかなブルーのサッカーユニフォームを着ていて目立っていた。

 でも、違いはそれだけのハズだった。

 

 しかし、運命の出会いなんて、本当に一瞬の事なのかもしれない。

 

 普段は受け取ったりしないビラを、「横浜F・マリノスの試合があります、ぜひ来てください。」というどこか誇らしげな声と一緒に思わず受け取った。
 

 「We are FMarinos」と書かれたカラーの見開き冊子。

 自分で冊子の中を開けようとするより早く、毬乃の指が冊子にのびる。腕にはめられた時計の針が15時だった事を妙に覚えている。

 「マラン、来週マリノスの試合があるって書いてあるよ。」

 思わず冊子をのぞき込む。

 毬乃と付き合いだしてから随分経ち、色々な場所へと出かけたが、スポーツ観戦をした事は未だにない事に気づいた。

 ちょうど今日から一週間後の同時刻、3715時試合開始とある。

 まだ季節柄、寒いのではないか?と思いつつも、先ほど冊子を渡してくれた人の、どこか誇らしげな声が頭の中でリフレインする。


 『横浜F・マリノスの試合があります。ぜひ来てください。』


 遥か後方で、それでも色鮮やかなブルーのユニフォームで冊子を配り続ける人達を視界の隅に入れつつ、思わず毬乃に言っていた。

 「マリノスを観に行ってみようか。」「うん。」

 

 マリノスを観るきっかけは、ホント、この一瞬の偶然から始まった。

 あの瞬間、桜木町の駅前を歩いていたから偶然に冊子を貰い、それで興味が湧いて37日に人生で初めてJリーグを観に行く事になったのだ。

 

 
 

 「あ、あだちさん!」

 会社の入居するビルのエレベーターホールで、同じく営業先から会社へ戻る職場のコカ・コーラを持った先輩と出くわした。

 空いた手で先輩はマランに軽く手をふる。まだまだこれからが冬本番だというのに、先輩はマランが入社した年には既に使っていた愛用のマフラーを巻いていた。

 一見するとバーバリーっぽい柄のマフラーだが、片方の端には「PRIDE OF YOKOHAMA」の文字と、1995、2003、2004の規則性ない数字。

 去年までは分からなかったこの数字の意味を、今のマランは理解しているので改めて聞く事はない。

 

 さて、まるで「レ・ミゼラブル」の作者、ヴィクトル・ユゴーのように、枝葉の話が長くなってしまったが、この先輩はマリノスが大好きで、今ではマランの一番の話し相手である。

 

 「今では」というのは、正直、マランはこの先輩が苦手だった。

 週明けに会社で会うと、祭りでも始まるのかと思う程にテンションが高い日と、今日は休みじゃないかという程に気配を消している日があり、とにかく扱いにくいのだ。もっとも、この理由は今のマランは理解はおろか共感しているのだ。

 

 エレベーターの中ではやはりマリノス談義となる。既にシーズンオフであるが、マリノスが好きな仲間が集まると、話題は尽きないものなのだ、まだファン歴1年弱の僕が言うのも何だが。

 「メール来た?」

 たったその一言で、先輩が何の話をしたいのか分かる。一昨日あった、マリノス年間チケット購入者のチケットぴあからの個人情報流出お詫びメールの件である。

 「いえいえ、僕、ハーフネンチケだったからですかね?」

 こんな具合に、先輩と会えば、いつもマリノスの話になってしまうのだ。

 

 だから、随分前に、先輩に初めてマリノスを観に行くきっかけは桜木町の駅前でウイマリ冊子を偶然に貰ったからだ、という話をした。

 するとその時先輩は、嬉しそうな表情を浮かべながら得意気に、それは必然だ、と言った。

 キョトンとする僕に、いつも以上のオーバーアクションで説明する。

 「それ、試合のちょうど1週間前の同じ時間でしょ。その時間に街中に出歩いている人をターゲットにして、市内4か所で一斉にウイマリを配ったからだよ、だから必然。」

 マリノスと偶然の、運命の出会いでいたい僕の気持ちを露知らず、先輩は得意気に言うので、以後先輩にこの話題をふったことはない。

 

 まぁ、そんな感じの先輩なのだけど、観戦初期には随分とお世話になったものだ、普段の仕事以上に。

 あの2月にウイマリを貰った後、そういえば先輩マリノス好きだったよなと思って話かけた所、一緒にセブンイレブンに来てくれ、マルチコピー機でのチケットの発券方法を手取り足取り教えてくれた。 
 もっとも、ウイマリに分かりやすく書いてあったのでその必要はあまりなかったが。

 ちなみに、アウェイに行く為の必需品だと先輩に言われ、ハピタス経由でJCBのソラチカカードを持つことになったので、チケットの支払いはソラチカカードを使っている。

 なんでも、セブンイレブンでJCBのソラチカカードを使うと、マイレージが倍付くのだそうだ。

 

 そんな感じで、僕と毬乃のチケットを用意し、とうとう2015年の開幕戦、マリノスvsフロンターレを日産スタジアムへ観に行く事となる。人生初のJリーグ観戦だ。

 実は今まで、サッカーにまったく興味がなかったわけではない。
 日本代表が試合をやる時はテレビを付けてよく観たし、ワールドカップでは友達の家に集まり一喜一憂したものだ。

 選手だって知っている。本田選手に岡崎選手、最近では宇佐美選手の名前をよく耳にする。日本の10番、香川選手も知っている。(香川選手の名前を出すと先輩は必ずと言っていいほど「あ、MVPの人ね」という。)

 今回初観戦するマリノスも、中村俊輔選手や中澤佑二選手など、僕でも知っている選手がいる。毬乃も中村俊輔選手を知っていただけに、怪我で観に行く開幕戦ではたぶん出ないだろう、という先輩の話に少々がっかりしていたのだが。

 

 ライブでは来たことがある新横浜の日産スタジアム。B‘zのライブを観たのは随分前だな、という事を思い出した。そういえば小学校の時に体育大会で横浜市中から集まった事もあったよな、という記憶が蘇る。

 スタジアムがあまりにも大きいのでどこで観戦すれば良いのか分からなかったので先輩に聞いた所、バックスタンドも一部に自由席があるから、初観戦にはそこがオススメ、と言われた。

 案内に従って毬乃と席を見つけて座る。ちょうどテレビでサッカーを観る時と反対側のアングルだ。自由席というから、もっと観にくく、狭いのかと思っていたがとても快適だ。座席にドリンクホルダーがあるのも有り難い。

 さて、この初観戦、1つだけ心配事があった。せっかく毬乃と来ているのに、先輩が有り余る親切心(有難迷惑ともいう)から、一緒にバックスタンドで観戦しようと言い出すのではないかと。

 しかしその心配は杞憂に終わる。先輩の方からメッセージで、ゴール裏にいる、と連絡が来たのだ。

 ほっと胸をなでおろすとともに、先輩がいるという「ゴール裏」という所が気になった。

 ちょうど先週桜木町の駅前で着ていたような鮮やかなブルーのユニフォーム姿の人が大勢いる。

 なんだろう、このテレビでは味わった事のないワクワク感とドキドキ感。試合開始の時間まで、売店で買ったマッチデープログラムと、先日もらい持参したウイマリ、そしてこの日会場でもらった「hamatra paper」に目を通して過ごす。

 

 そして選手が入場の時間となる。僕はせっかくだからと持ってきたデジカメの液晶越しに選手入場の写真を収める。

 その時、毬乃が肩をたたきながら、「マラン、綺麗!見て!」と。

 思わず覗いていた液晶画面から、毬乃が指さすゴール裏へと視線を移す。そこにはスタンドから綺麗に浮かび上がった青・白・赤の三色旗が!

 言葉では言い表せない、まるで感電したかのように体の中を何かが駆け巡った気がした。

 これが本当に今までテレビ越しに観ていたものと同じスポーツなのか?
 ゴール裏を中心に繰り出される応援歌やコール。

 僕たちの周囲の席も、手拍子のリズムがあふれている。今まで味わった事のない不思議な感覚。


 そして試合が始まった。

 と、すぐにマリノスは失点してしまう。悔しさのあまり、思わずため息が出る。それでも試合はまだ始まったばかり。

 ワールドカップで知っていた中澤佑二選手に注目して試合を観ていたら、その中澤選手から前線へ長いパスが出る。

 そのボールをトラップして、上手くキーパーの位置を確認してマリノスの選手がシュートを打つ。

 

 ネットが揺れる。

 決まった!!

 

 スタジアムがまるで生き物のように轟く。思わず毬乃とハイタッチ。誰か知らない近くの席の人たちとも喜びを分かち合う。

 場内アナウンスで、小林選手のゴールというアナウンスとゴールシーンのリプレイにもう一度喜び、精一杯の拍手を送る。

 そんな時、後ろの熟年夫婦のダンナが叫ぶ。「いいぞ!勝つぞ!」。

 そうだ、まだ同点だ。ここから試合をひっくり返して絶対勝利を観たい。無意識のうちに、膝の上に置いた手を力強く握っていた。もう一度皆と喜びを分かち合いたい!

 しかし、またもマリノスは失点してしまう。思わず意気消沈しかけた時、今度は前の席の子どもだ。
 「まだまだいけるよ!」。

 そうだ、まだ20分過ぎ。まだ70分はある。

 その後も攻めるマリノスにワクワクし、フロンターレの逆襲にドキドキする。スコアはそのまま1-2でハーフタイムへ。

 ハーフタイムに入ると、試合に熱中するあまり気づいていなかった寒さに気づく。やはりまだまだ3月一週目だ。

 売店へ行き、温かい飲み物を買って少しすると選手達がピッチへと出てきた。よし、後半逆転してくれ!思わず毬乃と二人して座席で背筋を伸ばす。

 しかし試合はマランと毬乃の願いとは逆に、テレビでも観たことのある川崎の大久保選手のゴールで1-3と突き放されてしまう。

 サッカーがそんなにゴールが入る競技ではない事は僕でも分かる。ここから勝つには、あと20分で3点必要なのだ。それでも根拠はないが、ここから3点獲って逆転する気がしてくる。

 なんだろう、テレビでは味わった事のないこの不思議な感覚。

 時計の針は進む一方なのに、力強さを失わないスタンドの雰囲気。無意識のうちに、僕も毬乃も必死に手拍子をしていた。

 だが、無情にも試合終了の笛。なんだかぐったりとした。隣を観ると毬乃も疲れた表情をしている。でも、どこか、楽しかった時に見せる笑顔がのぞいている。

 勝てなくて悔しかった、これは間違いない。そして同時に、楽しかった、というのも間違いない事実。

 「次こそは勝ちたい!」。

 
 

 

 今朝のサッカーニュースを思い出し、エレベーターの中で先輩に話をふる。

 「そういえば、秋元選手に東京が興味を示しているみたいですよ。」

 マリノスユース出身で、マリノスから愛媛を経て現在湘南ベルマーレの正ゴールキーパーを務める秋元陽太選手の事だ。今朝のニュースで、FC東京が獲得に乗り出しているとあった。

 先輩は普段、「マツの周り」というマリノス系ニュースサイトを閲覧して情報を得ているようだが、今朝はまだ更新していなかったので知らないと思って言った所、やはりまだそのニュースには目を通して無かったようだ。

 記事の内容をざっくり先輩に伝える。湘南ベルマーレという単語が出るたびに、胸が熱くなる。なぜなら初観戦から一か月半経った湘南ベルマーレとの試合が、僕にとっての日産スタジアムでの初勝利の試合だったからだ。

 

 
 

 3月7日の開幕戦観戦以降、僕はマリノスの試合結果をチェックするようになった。

 毬乃との結婚も近づいている為、新居探しや結婚式の計画など、土日の予定が埋まる事も多い中、マリノスがホームゲームでサガン鳥栖に勝利し、今季初勝利を上げた事を知る。

 携帯で速報を観ながら、思わずガッツポーズ。なんだかホッとした。それと同時に、実際、勝利の瞬間を味わいたいと思いは募っていく。

 

そして4月25日の日産スタジアムでの湘南戦でその思いをぶつけることとなる。

今回もセブンイレブンでチケットを毬乃の分と2枚購入した。慣れてしまえばチケット購入は楽なものだ、先輩にも聞かずに無事完了。

 

 そして試合当日を迎えた。

 新横浜駅からスタジアムへ向かう道は約15分。前回と変わった事といえば2つ。1つは、3月に来た事もあってスタジアムまでの道のりを間違えずに行けたこと。そしてもう1つは、試合へ向かうドキドキ感が高まっている事だ。

 僕だけではなく、毬乃もこの試合を楽しみにしていたようで、選手の名前をチェックしていた。2人とも気になっているのは、前回観た開幕の川崎戦後に加入したアデミウソン選手だ。

 スタジアムに入り、前回と同じような位置の座席に着く。待っている間に、皆持っているので売店でマフラーを購入してみた。選手入場時に掲げるだけで、今日は絶対勝利するぞ!という思いがとても強くなったから不思議だ。


 試合開始。

すぐにトリコロールが躍動する。盛り上がるスタジアムが2人の高揚感を高めていくのが分かる。

そして10分もしないうちに華麗にボールをつなぎ、最後は注目していたアデミウソン選手がゴール!!マリノスが先制!

この時、無意識に僕たちは立ち上がって喜んだ。周りの席の人も同じで、皆で、我が事のようにハイタッチしたり握手したりして喜びを噛みしめている。

いける、今日は勝つ!そんな思いのまま、攻め続けるマリノスに心躍らす。

前回は常に川崎がリードする展開だったので、追いついて逆転しなきゃ!という思いでいたが、リードしている時のドキドキ感もたまらない。

湘南も時折チャンスを迎えるので、そのピンチを中澤選手を中心に切り抜けると安堵したり、前回以上に忙しい90分。


 相手ゴールキーパー秋元選手の好守もあり追加点はなかなか入らなかったが、時計の針が進んで行く。そしてニュースで3日前のナビスコカップで復帰した事を知っていた、中村俊輔選手がベンチの方から出て来るのが見える。

日本代表の試合をテレビで観ていた時に何度も歓喜させてもらった選手がついに生で観る事が出来る!

注目していたアデミウソン選手との交代だった事は少し残念だったけど、トリコロールの10番がホームのピッチに舞い戻った瞬間の立会人になったわけだ。

そして終盤、試合は更に動く。日本代表にも入った事のある斎藤学選手がゴール!終盤に来て2-0!1点目同様、喜びに沸くピッチとスタンド。その渦の中にいる僕と毬乃。

90分が過ぎ、アディショナルタイムに入ると周りの席の人がガサゴソと傘を出し始める。青白赤に色づいた傘で、トリコロールのパラソル、略してトリパラと言うそうだ。

勝利の瞬間に掲げるつもりなのだろう、僕も欲しくなったが、今この瞬間、席を離れたくはない。でも欲しい!

そんな葛藤を吹き飛ばすような事が起きた。アディショナルタイムも4分を過ぎた頃、途中出場していた冨澤選手がとどめの一撃!3-0!またも沸くスタジアム!

そして試合終了の笛がなり、僕の観戦初勝利は幕を閉じた。大きなヴィジョンに映し出された「VICTORY」の文字と、綺麗なトリコロールのパラソルで埋まったスタンドが、この日来ていたアニメ・ドラゴンボールのキャラクターと一緒に脳裏に刻まれたのだった。

帰り新横浜で夕飯を食べにお店に入り、ひたすらに毬乃と試合の話で盛り上がった。周りを観ると、同じように試合帰りの人達が、実に楽しそうな顔をしていた。試合が終わってもユニフォーム姿の人が多い事からも、皆がマリノスを誇りに思っている事が伝わってくる。本当に楽しい1日だった。

 

 
 

 エレベーターが会社の入るフロアに到着してドアが開く。

 ちょうど廊下を歩いている毬乃がこちらに向かってくる所だった。

 「あら、あだちさん、営業お疲れ様です。マランもお疲れ様。」

 そう、僕と毬乃は同じ職場の同僚なのだ、残念な事に部署が違うので部屋は別なのだが。

 まったくどうでも良い話だけれど、僕の事を最初にマランと呼び始めたのは先輩だった。気づいたらそれが会社中に広まり、婚約者となった今でも毬乃は僕の事をマランと呼ぶ。なんでも、先輩の知り合いに僕とそっくりな人がいて、その人の職業から取った名前らしい。

 

 話は戻して、毬乃はちょうど僕たちの部署に打ち合わせで向かう所のようだ。3人で廊下を歩く。

 毬乃が抱えた書類のペンケースには、トリコロールメンバーズ特典のユニフォーム型キーホルダーが付いていた。



 

 湘南戦後の僕たちは、先輩に唆されるまま、トリコロールメンバーズというファンクラブに登録した。なんでも、「5試合選択券」という浦和戦を除く日産スタジアムで開催される試合を観戦できる回数券型のチケットが購入できるとの事だった。毬乃がペンケースに付けていたキーホルダーはその時の特典だ。

 そしてトリコロールメンバーズに入り、5試合券を買った事もあり、日産スタジアムで行われる試合に足繁く通いだす生活がスタートした。

 

 ゴールデンウィーク最初の広島戦には負けて落胆したものの、連休後半の名古屋戦、新潟戦と日産スタジアムで2連勝。今度は事前にトリパラを購入していた事もあって、試合後にパラソルを回して周りの方々と湘南戦以上に喜びを分かち合う事ができたのだ。

 その後も結婚の準備で忙しくなったりはしたものの、試合がナイトゲームに入りだしたお蔭もあり、マリノスを観戦し続けた。

前年優勝したチームと聞いていたガンバ大阪には、途中までリードしつつ、終盤に追いつかれてのドロー。

マリノスを観戦し始めて初めて味わう引き分けだったけれど、本当に悔しかった。そして、それだけマリノスに夢中になっている僕自身に驚いたものだ。

 


 

 「そういえば毬乃さんはこの後誰と打ち合わせなの?」

 先輩の質問に毬乃はひげさんです、と笑顔で答える。ひげさんとは、僕と先輩の直属の上司だ。僕や毬乃からすれば親子ほど年が離れている事もあり、ひげさんは人当たりの良い、感じの良いオジサマなのだ。仕事も大体好きなようにやらせてくれるので、ひげさんの評判は良い。毬乃もひげさんと仕事が出来る事が楽しみのようだ。

 もちろん僕も、ひげさんと一緒に仕事をするのはやりやすくて好きだ。ただ、あくまで上司と部下の関係のハズだった。それがまさか、僕の初アウェイの試合で会う事になろうとは。

 
 

 

 ガンバ大阪とホームで引き分けた後、早くマリノスの勝利が観たいと思い、日程を観ると次の日産スタジアムまでは20日以上間がある。

 その間にある試合は、アウェイ山形でのナビスコカップ予選最終戦と、アウェイ甲府戦だった。

 さすがにアウェイまではなぁと躊躇していたが、山形戦の翌日に、半休で午後から会社に来た先輩が山形に行ってきたので仕事後に色々話を伺うと、アウェイもホームと違った楽しさがあるようだ。

 僕自身は気づいていなかったが、相当熱心に話を聞いていた様子から、僕がアウェイにも行ってみたいという事を先輩は汲み取ったようで、日曜日の甲府戦、一緒に行かない?と誘われた。

 話を聞いてみると、甲府にバスが出るらしい。横浜駅に集まって、後はスタジアム直行。そして試合後に横浜駅に戻ってくる。

 観光は一切できないのは、せっかくアウェイに行くのだから観光してみたいという気もありつつ、でも甲府戦は日曜日という事を考えると、試合だけ観に行って帰ってくるのもありだな、と思ってお願いする事とした。

 

 そして試合当日の朝、毬乃と横浜駅の天理ビル前へ。既に先輩は来ていて手を振ってくれる。少し急ぎ足で先輩のもとへ行くと、驚いた。

 なんと隣には、上司のひげさんもいるではないか。思わず丁寧にひげさんに挨拶する僕と毬乃。にこやかにお早うというひげさん。そして、横でその様子を楽しんでいる先輩。事前に教えてくれれば良いのにほんと先輩は人が悪い。

 しかし、こんなにも身近にマリノスが好きな人が多い事に驚いた。横浜の会社という事もあるけど、普段は上司なのに、今日はマリノス好きの仲間である。

 バスに残りむと、車内はユニフォームを着た人や、サッカー談義をしている人など、これから試合に向かうので皆、とても楽し気だ。

 集団でバスに乗って出かけるなんて学生時代の修学旅行以来かな?何だかとても楽しい気分になった。

 しかも、その目的が、大好きなマリノスを応援する為なのだから、凄いなぁと感心しながらバスに心地よく揺られて甲府へ向かう。

 今まで日産スタジアムでしか試合を観たことのない僕らにとって、アウェイのスタジアムというのは新鮮だった。

 観光はできないと思っていたけれど、スタジアム周辺には屋台も出て、名物の鶏ホルモンなども食べる事ができた。そういえば日産スタジアムでも広場にトリコロールランドというイベントが行われているよなぁと、ホームでも色々イベントがある事をアウェイに来て再び認識する事となった。

 

 さていつもは同じ自由席でも、日産スタジアムではバックスタンドで観ているが、甲府の自由席はゴール裏のみだ。

 ここは昔、芝生席だったんだよ、という先輩の蘊蓄を聞きながら、初めてマリノスのゴール裏に入った。

 勝手な先入観で、怖い人ばかりだと思っていたけれど、スタンドを見渡すと皆人の良さそうな方ばかり。そして、ブルーのユニフォームを纏い、試合前の時間を思い思いに楽しんでいる。初めてのゴール裏だったが、これは楽しめそうと直感で思った。

 

 さて、選手がアップの為に出て来る。コールを送るスタンド。応援歌が分からないだろうからと、ホームゲームで配られている応援歌の歌詞が載っているhamatra paperをわざわざ先輩が持ってきてくれた、感謝。

 最初は照れがあるのでなかなか声を出す事が出来なかったけど、試合が始まると自然と声を出すようになっていた。

 ただ、ホームでしか観たことがなかったので、試合になれるまで少しかかった。マリノスといえばユニフォームはブルーとインプットされているのに、今日はアウェイで、この試合は金色のユニフォームを着ている。対する甲府がブルーを着ているので、なんだか調子が狂う。

それでも僕なりに応援し続ける。そして、前半終了間際、反対側で良く分からなったけどマリノスが先制!スタンド中が歓喜を爆発させる。周りの人とハイタッチしたりと、いつもに比べ声も出した分、ピッチと共に戦っている気がいつも以上にして、ゴールが入った時の喜びも一入だった。

 だけれど試合は終盤に甲府に追いつかれてしまった。一瞬落胆するも、まだまだいける!そう信じて無意識のうちに手拍子も大きくなり、声を精一杯だした。

 しかし結果は1-1でドロー。せっかくアウェイまで来たのに、残念!そう思いながら帰りのバスに乗り込んだ。

 アウェイまで行ったのに勝てなかった事を引き摺っている僕に帰り際、優しく、また次応援しよう、とひげさんに言われ、次の試合へと気持ちを切り替えた事を良く覚えている。仕事だけでなく、プライベートでもひげさんは良い人だった。こうして僕の初アウェイ試合は終わった。

 


 

 3人で自分たちの部署に入った時、ふいに思い出した。

 「今日12月2日ですよね?」。それがどうした?という顔をする先輩。「今日誕生日じゃないですか?」。

 あぁ、と先輩も毬乃も合点が行った顔をして、答えた。

 「礼真琴さんの誕生日!」
 

 いやいやいや!僕の言っているのは、12月2日はひげさんの誕生日という事だ。なのに、毬乃も先輩も宝塚歌劇にハマっている。そこで、同じ12月2日が誕生日のタカラジェンヌの名前が先に浮かんだようだ。

 礼真琴さんに関しては過去に何度かマイル系ブログの「屋根下あだちメモ」に登場している、あだちさん注目の男役スターだ。
 お父様は元Jリーガーで日本代表にも選ばれた浅野哲也さん。浅野哲也さんは今年、JFLからJ3への昇格を決めた鹿児島ユナイテッドの監督をされている。

 ちなみにあだち家の一押しは、宙組の桜木みなとさんとの事である。横浜出身で、名前の由来も桜木町と横浜港から取るという、非常に横浜愛を感じるタカラジェンヌさんである。


 さて、礼真琴さんの誕生日から、宝塚トークで盛り上がりそうになる毬乃と先輩に、ひげさんの誕生日という事を告げた。

 2人は、そうだ!ひげさんの誕生日だ!と思いだしたようだ。先輩は、あぁどおりでこの物語でひげさんがとても良い人に描かれていると思ったら、今日誕生日だからだねと、納得した顔をしていた。

 そしてひげさんのいるデスクまで行き、3人でお誕生日おめでとうございます!と伝えた。ひげさんも有難うと答える。そして先輩は自分のデスクに戻ると鞄から紙袋を出してひげさんに渡した。

 封を開けるひげさん。中からはマリノスのユニフォームが出てきた。誕生日プレゼントのようだ。そういえば先日、僕と毬乃も、結婚祝いにと、マリノスのユニフォームを先輩から頂いた。どうやらユニフォームプレゼントを先輩は持ちネタにしているようだ。

 以前伺った話では、先輩が一緒に応援している仲間の中に、イノウエ君というナイスガイがいて、先輩の誕生日に、先輩の好きな年のユニフォームをプレゼントしてくれたそうで、先輩はそれにとても感激し、仕舞にはプレゼントの持ちネタにしたのだった。



 

 さてユニの話はこれくらいにして、僕たちの話に戻すと。

 甲府で引き分け、2ndステージも近づいてきた所、先輩から「ハーフ年間チケットというのがある」と教えてもらった。2ndステージの残り試合を全て観る事ができるチケットだ。迷いなく2人分申込をした。

 そして2ndステージも2人で楽しく、ホーム&アウェイのマリノス応援ライフが始まる・・・ハズだった。

 

 

 結婚が近づくにつれ、バタバタと忙しい。それでも試合はナイトゲーム期間なので時間的には問題なく行け、アウェイもあらかじめ予定を立てておけば応援に行く事は可能。

 だから、ごく自然に毬乃に、次アウェイはどこへ行こうか?と尋ねた時の事だった。

 「ねぇマラン、私もマリノス好きになって、一緒にマランと出かけられて楽しいけど、これから結婚して、色々お金もかかるけど、大丈夫なの?」

 
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長くなりすぎて livedoor blogさんから「本文長すぎるので短くしてください」と表示されたので一旦このへんで。

その2はこちら 

(fmbh経由で入って頂けると嬉しいです。)