将棋ソフト不正問題の第三者委員会報告書は、三浦九段が白か黒かを措くとしても、極めて問題のある報告書です。
そもそも第三者委員会なんて、まともではありません。
コージツ事件では、公開買付者が「魚心、水心性が高いのでお勧めです」とする「第三者」が書いた評価書を基に、全部取得価格130円が決定されています。さすがにこれは、後に裁判で139円が妥当ということになりました(くわしくは、「個人投資家の逆襲」を参照してください)。

第三者委員会の一般論はさておき、将棋ソフト問題の第三者委員会報告書には問題点が山積しています。一般的なことを言うと、報告書は裁判所の判決文のように、結論を先に決めてその結論を基礎付けるように書かれています。このため、こじつけや無理な論理が多く、非常に不可解なものとなっています。基礎となる事実を素直に見て、「グレーである。」「疑わしいが証拠はない」というような結論とすべきだったのではないかと思います。以下は具体論です。
1 離席時間をことさらに強調して誤誘導していること
報告書は、「30分の離席をしたという事実がない」ことをことさらに強調し、結論の根拠にしています〔21頁〕。
しかし、スマホ不正が問題であれば、離席時間より回数やタイミングが問題なはずで、例えば
「5時間の離席一回」より
「自分の手番ごとに40回離席」の方が問題のはずです。
ちなみに上記の文章ですが「事実がない」は30分という時間だけにかかっています。実際には3回に分けて離席をしています。しかし普通に読むと離席そのものがなかったかのように読めてしまいます。
久保王将が離席時間を勘違いしていたのは事実ですが、白の証拠には一切ならない事実をことさらに強調して読み手を誤誘導しているのはいかがなものでしょうか。
2 丸山九段の利害関係には一切触れていないこと
報告書はまた、三浦九段と対戦した丸山九段が疑いを抱かなかったことをあげ、結論の根拠としています〔21頁〕。
しかし、丸山九段は、三浦九段の師匠で、「一億円払え」と主張している西村九段の弟弟子です。このような立場の方であれば、実際には疑いを抱いていても、「疑いを抱かなかった」とコメントするのはごく自然なことです。このようないわば「身内」の証言は、まったく根拠にならないのではないでしょうか?
兄弟子にそこまで配慮するのか、という意見もあるかも知れませんが、実際、西村九段は、林葉事件やLPSA事件では、兄弟子である米長九段のために動いています。丸山九段が兄弟子に不利な証言を控えた可能性は高いといわざるを得ません。
報告書は、利害関係のある丸山九段の意見を大きく取り上げる一方、久保王将、渡辺竜王、橋本八段らの意見は無視しています。
さらに言えば、丸山九段は、三浦九段が処分を受けたことでタナボタ的に挑戦者となり、高額な対局料を受け取っています。このような立場にある人が、「疑わしい」などと言えば、「対局料目当てに嘘の証言をした」と批判されかねず、危機管理という側面からも、「疑いを抱いた」とは言いづらい立場にありました。 このような点も考慮されていません。
3 一致率のばらつきについて、そもそも操作が疑われること
報告書はさらに、「一致率等が分析毎にばらつく指標である」ことを結論の根拠としています〔21頁〕。
そして、一致率について、最大で38%ものばらつきが生じたとしています〔23頁〕。しかし、同じソフトを使って、このようなばらつきが生じるのでしょうか?この点弁護士の大山滋郎氏は、次のように述べています。
「一定の性能のコンピューターを使い、ソフトの考慮時間を1分以上取った場合には、それほど大きなぶれは起こらなかった。一方、考慮時間が10秒程度なら相当のぶれが起こる。第三者委員会が、相当大きなぶれを確認したというのが、どのような条件での検査であったのか、知りたいところである。」
そうすると、38%ものぶれを生じさせるために、考慮時間を短くする、パソコンの性能を下げるなどの作為が強く疑われます。
なお、将棋連盟の棋戦では持ち時間が切れた場合ですら、1手1分〔テレビ将棋などは30秒のものもある〕が与えられるのが普通ですので、一般論として、1分未満の考慮時間を設定するのは、適切でないと考えられます。
4 渡辺戦の45桂はそもそも問題でないこと
報告書は、渡辺戦27手目の45桂について、研究の成果であり、問題ないとしています。しかし、そもそも序盤の指し手は定跡手順であり、事前の研究も可能であることから、一致率との関係では考慮外です。どこまでが定跡なのかは難しいところですが、第三者委員会は自ら「40手目以降」の一致率を計測しています。そうすると、そもそも27手目は関係ないはずなのですが、「27手目の手が研究手である」ことを結論の根拠にしています。
5 守衛からヒアリングしていないこと
三浦九段自体が、「守衛室で休んでいた」と証言しているのにもかかわらず、守衛からは一切ヒアリングをしていません。
そもそも守衛室に行ったのか、何をしていたのか、そのような事実がまったく調査されていないわけです。
これは、報告書として、やるべきことをやっていないわけで、極めて大きな問題です。
6 技巧以外のソフトとの一致率を調査していないこと
弁護士の大山滋郎は、「技巧」以外のソフトとの間で、手が分かれる局面について分析し、技巧とどれだけ一致したかを調査しています。これによると、対戦相手の技巧との一致率が33.3%に対して、三浦九段は65%となっています。このように、特定のソフトとの一致率が高いことが疑念を生んだ理由だったはずですが、他ソフトとの一致率はまったく検証されていません。
7 スマホの解析方法が不明であること
これは、将棋連盟の問題であり、第三者委員会の問題ではありませんが、スマホをどのように解析したのかはまったく不明です。
そもそも三浦九段は、スマホの提出を拒否しているのですが、にもかかわらず、報告書には、スマホの解析結果が載っています。どのように解析したのか、そもそもいつ提出を受けたのかまったく不明です。また、すくなくとも後日提出を受けたはずですが、そうすると、どうやって、「普段使っているスマホ」なのかを確認したのかも興味のあるところです。
8 棋士の意見も開示されていないこと 
  たとえば29頁に、プロ棋士の見解が「〜分かれたこと」とあり、どのように分かれたのかは書いていません。分かれたというのは、例えば黒5人、白1人でも分かれたになるわけですが、このようなことも一切開示されていません。
  そもそもプロの指し手の意味はアマチュアにはわからない部分が多く、だからそこのプロの見解なわけですが、「分かれた」だけでは話になりません。まあ、他に見られる「多数が」、という形容詞がないことから、「白」とする見解の方が少なかったのでしょうが、これも開示がなければ分かりません。
9 読み筋の一致も無視していること
  同じ29頁では、感想戦で披露した読み筋が技巧と一致していることについて、「わざわざ技巧の読み筋を述べることは考えづらい」などとしています。しかし、逆に不正をしていないとすれば、読み筋まで技巧と一致していたことになり、かなりの偶然ということになるわけですが、この点には触れてもいません。
 そもそも感想戦は、自分の指し手の根拠となった読み筋を示して説明するもので、技巧の読み筋以外の読み筋を示して説明するのは困難であったので、技巧の読み筋を披露したという方が筋が通っています。
 にもかかわらず、報告書は「考えづらい」というだけで、読み筋まで一致していたという事実を切っています。
10 偶然の積み重ねを偶然としていること
  これは報告書全体の問題ですが、一つ一つは偶然でも、何度も重なれば、偶然ではないのではないかと疑わしめることもあります。
  例えば、1億円の宝くじが当たったとか、再婚直後に相手の男性が病死したとかは、基本的には偶然です。
  しかし、10回続けて1億円の宝くじが当たったとか、再婚直後に相手が10人続けて病死したとかとなれば、「偶然ではないのではないか」と疑うのが普通です。
  にもかかわらず、報告書は、個々の事象が偶然で説明できるから、全体も偶然で説明できる、としています。このあたりは、結論先にありきという姿勢を感じてしまいます。
11 開示されていない事項が多すぎること
7などでも書きましたが、一致率の計測方法やスマホの解析方法、棋士のコメントなどが全く開示されていません。全文版のほうにはあるのかも知れませんが。

以前にも書きましたが、私は三浦九段が黒だと主張しているわけではありません。しかし、第三者委員会の報告書を根拠に白だというのであれば、それは間違いではないかと思います。