ニームの話

May 13, 2016

マリ、ニームプロジェクト2015年報告

経緯
ニームオイルの搾りかす(ニームケーキ)を雨季にあちらこちらに生じる水たまりに撒いておいたところ、その場所にはまったく蚊が発生しなかったという証言からこのプロジェクトは始まった。ニームの幼虫に対する殺虫効果、成虫への生殖抑制効果については世界的に認められていることを知り、ニームを使えば、雨季に大きな被害をもたらしているマラリアを媒介する蚊の数を抑えることで、減らすことができるのではないかと考え、実証実験を行うことにした。

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西アフリカのサハラ砂漠の南縁に位置するマリ共和国では雨季にあたる、7月から10月の間に、毎年多くのマラリアの発症を見ている。この国ではマラリアが幼児死亡原因のトップになっており、その対策は危急とされている。
7月から11月末までの5ケ月間、マリの地方都市、セグー近郊の人口300人程度のMarabougou村を対象地とし、毎週2回、村の全家屋内部、庭にニームオイルの2%水溶液を手押し式の散水ポンプで散布した。また村のすべての排水溝、雨季になって生じた大きな池にはニームケーキの撒布を行った。
9月の中間の時点において、すでに住民からは蚊がいなくなったという多くの証言を得ることができており、11月末の終了後にマラリア発症の抑制効果が明らかになるのではないかという大きな期待があった。
Marabougou村でのニーム撒布の効果を測定するために、近隣の同規模のFanzana村を比較対象地とし、データの比較を行った。
ニーム撒布期間の終了後、地域の保健センターで、MarabougouとFanzanaの受診患者の数を調べ、比較検討を行った。
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統計的にはマラリアの発症抑制を証明できず

2015年11月末、撒布期間終了後、マラリア対策国家計画 Le Programme national de lutte contre le paludisme( PNLP )の医師、Dr Oumar Traore に依頼し、Pelengana Sud保健センターを受診したMarabougou とFanzana、両村の患者数の比較とニーム撒布の効果測定を依頼した。

表1  Marabougou 村でのマラリア発生数 

表1

* 1月から11月まで

表2 Fanzana村でのマラリア発生数

表2

* 1月から11月まで
その結果、2015年7月から11月末までの期間における、Marabougou村のマラリア発症者数は8人、総人口に占める割合は、
8x100/126 = 6,36%
(126 = 302/12ケ月X5ケ月)
一方、Fanzana村における7月から11月末までの6ケ月間の、マラリア発症者数は11人、総人口に占める割合は、
11x100/162 = 6,79%
(162=389/12ケ月X5ケ月)
疫学の専門用語、相対リスクRisque relqtifなる値は、6.26/6.79 = 0.93 となり、5ケ月のニームの撒布とマラリア患者の発生数との間に関係があるとは言えない、という結論が出た。

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実証実験の方法の問題点

我々の意図と異なる結果が出てしまったが、この原因はどこにあるのだろうか。以下、原因として検討した結果である。
1. 村で患者が出ても、多くの場合、保健センターを受診しないという現実がある。保健センターの受診数をベースに統計をとることに無理があった。したがって正確な患者数を知るためには、村に入り、各戸から聞き取り調査などを行う必要がある。実際、この2村において数年間で何人も子供がマラリアと思われる病気で亡くなっているが、保健センターを受診していないため統計上はマラリアによる死亡は0になっている。これも統計の信頼性の低さを表している。

3. 実験対象の選定に問題があったのではないか?ニームの撒布の有効性を、統計的に実証するには、あまりにも対象の規模が小さすぎたのではないか。予算や態勢の問題で限界があるが、もっと大規模に行う必要があるのでは?

4. 対象選定にかかわることであるが、Marabougouは地方都市にも近く( 8km )、家も比較的きれいで、生活水準も高いように見受けられた。マラリアの被害も診療所の報告数でもそれほど多くなく、他の要因でマラリアがある程度防がれていた可能性がある。実験をするならば、もっと被害の多い地域を選ぶ方がよかったのではないか。

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住民からの聞き取り調査でわかったニーム撒布の効果

保健センターのマラリア患者に関するデータからは、ニーム撒布が及ぼすマラリア発症への影響は証明できなかったが、住民に対して行われた聞き取り調査からMarabougouでは、2015年のマラリアの発症が減っていることが明らかになった。
以下、住民の証言である。


Monsieur Bourama Tangara : (Marabougou村、村長) 64 歳,農民
扶養人数: 22人
マラリア発症件数 2014年 10件以上 2015年 3件
Madame Samake Bintou Coulibaly 39歳(寡婦) 5mere de 5児の母
マラリア発症件数 2014年 自分自身を含め4件 2015年 1件
Monsieur Youssouf Tangara : 34 歳 農民 家長 扶養人数8人
マラリア発症件数 2014年 2件 2015年  0 件
Monsieur Soumaila Sidibe : 33歳 農民 家長 扶養人数 8人
マラリア発症件数 2014年 2件 ;2015年 0件
   Madame Kosso Tangara 30 歳 4児の母 主婦
マラリア発症件数 2014年 2人子供と自分自身 2015年 0件
Monsieur Abdoulaye Coumare : 39 歳 農民 扶養人数19人
マラリア発症件数 2014年 10人以上 2015年 子供2件
Madame Fatoumata Tangara : 寡婦 64 歳 扶養人数 8 人 農民
マラリア発症件数 2014年 5件以上 2015年 1件
Monsieur Modibo Tangara :40歳 農民 家長 家族6人 撒布スタッフ
マラリア発症件数 2014年 4人 2015年0人
Madame Aminata Sanogo : 56歳 8 児の母enfants.
マラリア発症件数 2014年 4 人件 2015年 1件
住民によると、Marabougouでは2014年、4人がマラリアにより死亡。 すべて子供だとのこと。2015年のマラリアによる死亡者はいない。

以上8人の証言は、住民約90人カバーしているが、それをまとめると、
2014年のマラリア発症件数 43人以上
2015年のマラリア発症件数 8人
ということになる。もしこの証言が本当であるならば、ニームの撒布が絶大な効果をあげているといえるだろう。同時に保健センターの診療データをもとに、結論を導き出そうとした方法が、住民の保健センター利用状況を考慮するといかに間違った方法かということがわかる。一方で、聞き取り調査がすべての村民をカバーする規模でなされなかったことは、不十分のそしりをまぬがれない。全世帯を対象とした聞き取り調査はこの規模では可能だからであり、それがなされていれば、ニーム撒布に効果があることの説得力はかなり強まるだろう。


ニーム撒布を継続するにあたっての問題点と解決法
今回の実験でニーム撒布の有効性が実証できたならば、commune(最小の行政単位)や国の保健機関にニーム撒布の実施を提言する予定だった。マラリア患者数のデータの取り方が現実に合わない方法だったこともあり、はっきりとした効果の証明はできず、行政への提言には至らなかった。さらなる実証実験を行うのであれば、規模を拡大し、予算、執行態勢、検証態勢を充実させる必要がある。
Perengana sud communeには、今回の実験を説明し、2016年のニーム散布を他の村で継続するよう提案した。しかしながら、財源不足を理由に予算化することはできなかった。この国の慢性的な財源不足を考えると、大がかりな実証実験は援助に頼らざるをえないのではないかと思う。
一方で当事者であるMarabougouの住民のかなりの人々が、雨季におけるニーム撒布の継続を希望していた。昨年の撒布はすべてのニームオイル、ニームペースト、ニームケーキという材料をマリニーム協会で無償提供し、かつ撒布スタッフの日当も1人1000f(200円)支給していた。今後、それを自前でまかない、村ぐるみで散布を行えるかどうかそれはひとえに住民自身のやる気にかかっている。しかし雨季は住民にとって忙しい農業の時期でもある。忙しい時期に自分たちのためとはいえ、現金にならない時間を割くことになり、ハードルは低くはない。ニーム撒布の継続を可能にするため、次の方法を提案したい。
1.材料はニームの実の中身を砕いたニームペーストと実を搾ったニームオイルを使用した。使いやすく、安定した効果が期待できるが、それを作るのにかなり手間と熟練を要する。簡単な機械も必要となる。購入するとなるとオイルは1L 6000f (1200円) ほどかかる。もう少し簡単に材料を用意する方法を追求すべきだ思う。ケニアの村落で住民の手でニームの水溶液を作り使用していた例があった。自分たちの手で簡単に材料を作り出せれば、ニーム使用のコストと時間のハードルも下がるのではないか。
2.村落で組織的にニームの散布を行うのではなく、各家族で自分の家とその周りへの散布を行うところから始めてはどうだろうか。毎日、それぞれの家で撒布する液を簡単な方法で作り、家の中と庭に掃除の時に撒くことはそれほど大掛かりな取り組みを必要としない。村単位でやらなくても家単位でも効果は表れてくるだろう。村の中で、ニームを使った家とそうでない家の蚊の数の違いとも出てくるのではないか?したがって、村単位での取り組みが難しい場合でも、個人的に実行することを勧めていくべきであろう。

農業分野におけるニームの使用

蚊の発生を抑えて、マラリアを抑制するために利用する以外にも、ニームは、忌虫作用、殺虫作用を、人体に安全な天然の農薬として有機農業に利用できる。すでに日本でも使用している例があり、かなりの効果をあげている。
マリでは、facebookのマリニーム協会のページに「いいね」が200以上集まり、関心を持っている人々の情報交換の場所もできつつある。3月にマリの首都バマコで行われた農業関係の展示会 SIAGRI 2016 でも、有機農業生産者が出展していて、ニームについて意見交換を行い、多くの関心を持たれていることが分かった。今後は、農業生産者に働きかけ、農業分野においてもニームを実験的に使用し、データを集めていくつもりである。

マリ・ニーム協会facebookページ

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September 27, 2015

マリ、ニームプロジェクト ニームオイルの撒布に立ち会って

撒布に立ち会う

7月1日から、毎週2回、マリ共和国の地方都市、セグー近郊のMarabougou村でニームオイル水溶液の撒布を行い蚊の発生を抑え、マラリアの発病を減らす実験を続けている。ちょうど11月末までの中間となる9月13日(第20回)と16日(第21回)にMarabougou村を訪れ、撒布に立ち会った。たまたま100kmほど離れたFana周辺で植林のための苗の普及活動をしている日本のNGO、「サヘルの森」の榎本さんも都合がついたので見学に来てくれた。

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13日は、3人で1チームをつくり、3チーム計9人が撒布を行った。すべて若者で、男女半数ずつだ。撒布のためにニームオイルの原液を水で50倍に薄めて手動のポンプに入れる。準備ができるまでの間に、雨水がたまって村の中に出来ていた10m四方ほどの池にニームの実の殻を実験的に撒いた。
各チームは手分けして、村の全戸を回り、手動でレバーを上下させ、内側の土壁に、ニーム液を吹きかけていった。蚊帳のある部屋も多く、その上にも吹きかけていた。一方、排水溝のふたを開け、汚水の中に砕いたニームケーキをひとかけらずつ入れていく。この村の排水口には、コンクリートできれいな浄化槽が作られていた。すべての部屋への撒布が終わると今度は羊やロバなどの家畜の住処への撒布が行われた。この日に約2Lのニームオイルから100Lのニーム溶液を作り、1時間30分ほどで撒布した。

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ニーム撒布の効果

その後、村にいた人が集まり、ニーム撒布についての意見交換を行った。村人の話からニーム撒布の効果について
● 撒布した日と翌日は部屋の中から蚊がいなくなった。3日目になると少し出てくるが、昨年と比べると明らかに蚊の数は減っている。
● 家の中だけでなく、家の庭で宵のうちに炊事などを行うが、そこでも蚊の状況は室内と変わらない。
● 夜、村の広場で村人が集まって時を過ごすが、そこでは蚊の減少は見られない。子供も親に同伴している。
ニームの効果はあるようだが、夜、子供を連れて蚊のいる広場で時間を過ごしているので、その時に蚊に刺されることは避けられない。その対策を考えるべきだろう。部屋の中や庭ではニームの効果で、蚊が減っているので刺される機会は減少しているはずである。3日目に蚊が出てくるので、撒布頻度を週2回から3回に増やせればさらに効果は高まるだろう。

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自分たちだけでも撒布を続けるようになるだろうか?

ニームオイルの製造は難しくはないが、手間ひまはかかる。実を集め、乾燥させ、水に浸して置き、殻をむき、それを砕いて、簡単な機械で圧搾するという工程がある。すでにMr.Sangareは村人を対象に1日だけニーム製造のトレーニングを行っているので、機械を使わずに、オイルを製造することはできるようになっている。
今回は初回で、規則正しく撒布を継続させることを主目的にしているので、Mr. Sangareの機械で製造したオイルを購入し、村人に無料で供給している。効果が明らかでないものを自腹で購入することは難しいと考えたからだ。そのニームオイルの購入コストが月に92.000fcfa(日本円で約2万円)かかっている。
さらに「効果があるかどうかわからないもの」に対し忙しい農作業の時間を割いて、規則的にニームの撒布を行うことは難しいだろうとの判断から、1日一人当たり1500fcfa(約300円)手当を支給している。この経費が12人が8回行うとして、月に144,000fcfa(約3万円)かかっている。

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村人たちがニームの効果をはっきりと自覚した時に果たしてこうした補助なしに、自前でニームオイル、ニームケーキを用意し、手弁当で撒布を行うようになるだろうか?
このプロジェクトは、自分たちの周りにあるタダの材料で、自分たちの労力で蚊を減らし、マラリアを防げるようにすることを目的としている。しかし、村人、とくに老人たちの反応は、援助がずっと続くものだと考えているのか、かなり消極的なものだった。
建材にするために木を切らなければならないので、実を調達することが難しいとか、農作業で忙しく、ニームオイルを作ったり、撒布をするだけの余裕がないなどという発言があった。
こうした意識が、11月末のプロジェクト終了時にどう変化するか、どれだけニーム撒布の必要性、有効性を自分たちのものとしてとらえられるようになるか?ニーム撒布を労力を使うに値するものととらえられるようになるかどうか?それはニームの効果と村人のやる気にかかっている。
プロジェクトとしては、効果があげられるように、きちんと予定した撒布をきちん遂行し、村人にこの実験の結果についてきちんと説明し、来年以降の方針は村人にゆだねるつもりだが、同時に労力を減らす方法も考えていかなければならないと思う。
ニームオイルの製造工程の簡略化あるいはオイルに変わる簡便な方法を考え出せれば、住民の準備にかかる労力は減らすことができる。撒布にしても、ポンプを使わずに各家にニームオイルなどを、配布するだけであとは各家が自分の家と庭に撒くようにすれば、労力の分散ができるだろう。プロジェクトの終了までに住民と話し合いながら方法を考えていくことになる。



蚊帳について

ニーム撒布チームと一緒に、部屋を見て回る。多くの部屋で蚊帳が吊られたままになっていた。すべて、繊維に殺虫剤が塗り込まれているタイプで、2年前から政府によって無料配布されているという。住友化学製のオリセットネットもあった。蚊帳がきちんと張られていれば、就寝中は蚊に刺されることがなく、マラリア原虫への感染も防げるだろう。問題は、夜、子供であっても蚊帳の外で過ごす時間が結構長いことである。その時間に蚊を寄せ付けないために、殺虫スプレーや蚊取り線香やニームが使われる。物理的に蚊をシャットアウトするとともに、空気を虫よけの成分で満たすことが必要がある。蚊帳だけでは不十分なのだ。その際の虫よけとしてニームの優れている点は、人体への悪影響がないとされていることだ。一方、短所としては効力の持続期間が短いこと、においが強いことだ。
蚊帳は使われていたものの、大きな穴がたくさん開いたままになっていたものもあった。穴が開いていては用をなさない。政府はテレビなどで、蚊帳の穴を縫って防ごうと、キャンペーンを始めているそうだが、このプロジェクトにおいても折に触れて村人に説明していく必要がある。

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マラリアは大人の病気ではない?

われわれ外国人にとって、この地域のマラリアは、交通事故と並んで大きな心配だ。発病すれば重症化する可能性があり、手遅れになると死亡することもある。マラリアへの免疫ができていないからだ。しかしここに住んでいる大人は違う。マラリアの発症地域では、大人になるとマラリアに対する免疫ができて、なかなか発病しなくなるそうだ。セグーの病院の診療記録でもマラリアの病人、死亡者のリストに載っているのはほとんど5歳以下の子供、妊婦、老人だという。夜、村の広場に大人たちが集まり、おしゃべりをしている足元で子供たちが遊んでいるという。子供たちを蚊から守ろうとする意識があまりないようだ。大人にとってマラリアは脅威ではないのだろう。子供を保護する意識が低いのはその影響もあるのではないか。
この地域では、大人になるまでに何度もマラリアにかかり、免疫を獲得していく。逆に言えば、完全にマラリアを防いでしまえば、免疫もつかないことになり、大人になって発病するリスクが高まる。その意味では、重症化させないような方法で発症させておく方が長期的にはいいのかもしれない。蚊帳とかニームを使ってそれを実現させるにはどういう方法がいいのだろうか。
16日もニームの撒布に立ち会った。動物の水飲み用の器の水の中にボウフラが泳いでいたので、撒布の対象に追加した。

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July 04, 2015

西アフリカのマリでニームを使ったマラリア対策の実験が始まりました。

アフリカンスクエアーが応援している、ニームを使ったマラリア対策の実験プロジェクトが7月から始まりました。以下、それに至る記録です。

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「ニームケーキ(ニームの実からオイルを搾り取った後のかす)をこのあたりの水たまりに捨てておいたら、そこだけ蚊が全然いなくなったよ。」この一言からこのプロジェクトは始まった。

昨年2014年2月にマリの地方都市セグーで開催された音楽祭「ニジェール川フェスティバル」で出会ったニームオイルの生産者、UPROBECの工房を訪れた時のことである。オーナーのABDOULAYE SANGAREは本業のシアバターの生産のかたわら、5年前からニームオイルの虫よけや皮膚病への効果に注目し、マリ国内で唯一ニームオイルの生産を続けてきていた。研究熱心で、フランス語の文献を探しては読み、英語の文献もインターネットで探し出すと、GOOGLE翻訳を使ってフランス語に直し、知識を増やしていた。

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製品としては、小さな遮光瓶に入れたニームオイルとニームの実を砕いてペースト状にして袋詰めしたものを、虫よけ剤として、簡単な撒布機と一緒に音楽祭の販売ブースで売っていた。また首都バマコ郊外にあるInstitut Economic Ruralという農業試験場にも働きかけ、野菜栽培用にニームを供給していた。

マリは7月から10月まで雨季になり、集中的に雨が降る。その間、随所に水たまりができ、蚊が大量に発生し、マラリアの被害が広がる。特に抵抗力の落ちている妊婦や幼児はマラリアにかかりやすく、死亡数も多い。マリの5歳以下の幼児の最大の死亡原因はマラリアとなっている。雨季になるとセグーの墓地では毎日のように、マラリアで亡くなった子供の埋葬が営まれる。

政府は蚊帳の配布や化学殺虫剤の撒布などを行っているが、高価な化学薬品を使っての対策は不十分であり、お金を使う割に効果が出ていないと国のマラリア対策機関、マラリア対策プログラム Programme Pour Lutte Contre Paludismeの責任者も嘆いていた。

ニームの除虫作用については、世界的に広く知られ、人体への安全性についてもアメリカをはじめ世界的に認められている。虫のふ化の阻害と幼虫への殺虫作用も効果が確認されている。
実用面でも「定期的に撒布していたら、虫がいなくなった」「テーブルなどを拭いていたらゴキブリがいなくなった」などの話はマリの国内だけでも数多くある。

一方、ニームの木はもともとフランスの植民地時代にインドから移植され、現在では西アフリカ一帯に広がり、北部の乾燥地域を除き、どこの村に行っても必ず見つかる木になっていて、マリの国の木と定められている。住民は固くて大きなニームの木を、日蔭をつくる木、材料や燃料として重宝しているが、実や葉はほとんど利用されず、破棄されている。したがって、ニームの実や葉を除虫に使えるのであれば、その原料費はほとんどただということになる。

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先の話に戻るが、「そんなにニームに蚊の発生を防ぐ効果があるなら、市役所に働きかけて市の事業としてやってもらったらいいじゃない。」と軽く提案したところ、なんと「それはいい考えだ。」ということになってしまった。
アフリカでは、我々日本人にとっては当たり前のちょっとしたことでも、意外に気づかず、外国人に聞いてはじめて気づき、アイデアがわいてくるというようなことがよくある。また外国人が話を聞き、賛同してくれたということで勇気がわいてきたということもあったのだろう。孤独から逃れた彼はプロジェクトに向けて活動を開始した。今回私は一般的な提案とブレインストーミングと議論で彼の背中を押しただけだった。それ以外は、実際の計画が始まる直前の6月まで何もしていない。何度も「話を聞いてくれてすごくうれしい。やる気が出てきた。」と言われ、それに応えるように、ひたすら背中を押し続けて1年。ようやくこのプロジェクトは稼働した。

このプロジェクトは蚊の発生を防ぐというニームの働きを利用して、マラリアの発生を減らす効果があるかどうかということを実証することだ。具体的には、7月から10月までの雨季の4ケ月間、ある村を決め、定期的にニーム溶液の撒布を行い、その間のマラリア患者の発生数を調べ、同規模の近くの村と比較するという方法で行う。まずは社会実験。結果がよければ、マリ全体にプロジェクトを広げていくという方針だ。

国際的に奨励されている化学薬品の殺虫剤撒布の問題点として、1.薬品に晒される住民の健康への影響 2.耐性蚊の出現を招く 3.化学物質による環境への悪影響 4.材料経費がかかる というようなことが考えられる。それに対し、現地に生えている天然木、ニームを使った蚊の駆除は、自然にやさしく、人間にもやさしく、しかも安価な方法であり、効果が実証されればマラリア予防の方法として大きな影響を与えることになるだろう。

また、自分たちでニームオイルを作り出し、撒布するためのトレーニングも行い、基本的に材料を自力で用意し自分たちで撒くことで、金をつかわずにマラリア対策の活動ができるような実例、自助によるマラリア対策の実例を作ることにもなる。

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今回のプロジェクトの活動母体として、Association Malienne du Nime (マリニーム協会)という非営利団体を設立した。メンバーが少なかったので私も副会長として役員に参加した。6月の初めに正式に登録を済ませ、プロジェクトの準備を始めた。プロジェクトを行う村は市の推薦で、Segou中心から8km東のMarabougou村に決まった。人口320人、総部屋数250部屋、浄化槽数64ケ所の小さな村だ。近くの同規模の村を比較する村として選んだ。Marabougou村のミーティングで村民の中から男6人、女6人の実行メンバーを選出した。このメンバーが毎週1回、64ケ所の浄化槽にニームケーキを入れ、週2回すべての村の部屋にニーム溶液の撒布を行う。

プロジェクトのメンバーにマラリア対策プログラムの医師も参加しており、毎月、Marabougou村と比較する村を訪れ、マラリア患者の発生状況をチェックする。Marabougou村については昨年のマラリア患者のデータも残っていて、それとの比較も行う。

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当初、ニームの撒布には行政機関の許可やニームが有害ではないということの証明が必要ではないかと考えたが、いずれも必要ないということがわかり、認可や許可の面での問題はほとんどなく、7月初日からの実験開始を迎えられた。

プロジェクトの経費としては、約50万円を見込んでいる。これについては、日本でのニームオイル販売による売上や寄付を回すことで協力するつもりだ。日本においてもニームは有機農業や園芸を中心に広く使われている。化学薬品に頼らない除虫剤、土壌の抗菌剤、土壌改良剤として、大きな可能性をもつ商品なので、日本においても普及を行っていきたい。


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