2024年09月01日17:23ナルナル菌活書評16号 菌類の隠れた王国: 森・家・人体に広がるミクロのネットワーク
菌類の隠れた王国: 森・家・人体に広がるミクロのネットワーク 単行本（ソフトカバー）
; 2024/6/24 キース・サイファート (著), その他
最近は、植物共生菌に関する一般向けの本が多数出版されるようになった。
しかし、ほとんどが外国で書かれた翻訳本だ。この本の著者キース・サイファートもカナダ、オタワ在住で、カールトン大学教授だ。40年以上にわたり、五大陸を股にかけ菌類を研究してきた。カナダ農業・農産食料省研究所では長年、農場や森林、食品の中の菌類について、また、屋内のマイコトキシンの抑制、菌類が原因の動植物の病気を研究してきた。International Mycological Associationの会長、Mycologia誌の編集長なども務めた。
序文を書いたロブ・ダンは、ノースカロライナ州立大学教授。著書の『家は生態系』は『ナルナル的菌活書評』を書こうとしたきっかけを作ってくれた本で諸表の第1号となった。 『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』（以上、白揚社）、『世界からバナナがなくなるまえに』(青土社)などがある。アメリカ、ノースカロライナ州ローリー在住。
【以下は、本書の出版社による紹介文。】
カビ・キノコ・酵母・地衣類…ちっぽけで地味なのに、
地球や文明を動かすほど強力な生き物！
面白雑学満載で楽しく読めてためになる、ありそうでなかった菌類の一般向け入門書！
・キノコを栽培して食料にするアリがいる
・2万3000通りの性別をもつキノコがいる
・世界一大きな生物は菌類（重量にしてシロナガスクジラ200頭分以上）
・森の木々はキノコの菌糸を通して情報伝達している
・脳に侵入し甲虫を操るゾンビ菌がいる
・たった1種類のカビが原因で北米の栗は絶滅した
・ビール酵母とパン酵母は「家畜」菌
分類や生態から、植物や昆虫との共生、農業や発酵など人類との関わり、病原体としての脅威、新素材や新食品開発などの最新テクノロジーまで、菌類のあらゆるトピック総まくりの一冊。
:::::::::本書への賛辞:::::::::
「見えていないだけで、菌類はそこら中にいる。森や農地、食べ物や薬の中にも――さらには私たちの家や体にまで。（……）菌類がいかに私たちの暮らしを豊かにし（時折、脅かし）ているかを鮮やかに描いた素晴らしい本」
――ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』著者【この本もまたナルナルの菌活書評10号として紹介している。世界中の菌類学者もまた不思議なネットワークでつながっているのだろうか】
「アマチュア菌類学者の参考書として、これ以上の情報源はない。網羅的で正確、それでいて魅惑的な本」
――ユージニア・ボーン『マイコフィリア』著者
:::::::::本書の目次:::::::::
イントロダクション ダストの中の多様性
第1章 コロニーの中の生活 菌類の進化
第2章 ともに生きる生物 相利共生から寄生、生物学的侵入まで
第3章 森 木を見て菌を見る
第4章 農業 世界で七番目に古い職業と菌類
第5章 発酵 食品、飲料、堆肥
第6章 秘密のすみか 菌類と屋内環境
第7章 ホロビオント マイコバイオームとヒトの体
第8章 マイコテクノロジー 菌類のある暮らし
第9章 高度一万メートル 菌類と地球の持続可能性
【以上】
この本は昨年発行されたものだが、菌類の生態についてほぼ網羅している。
下の写真は、私が付箋を貼った個所だ。
付箋だらけになってしまって、かえって訳が分からなくなっているくらいだ。
しかし、どのページも示唆に富んだ出来事をわかりやすく説明してくれている。
【33P イントロダクション ダストの中の多様性】
で書かれいる文章を紹介する。
私たちは生物多様性が失われつつある時代に生きているが、それと同時に、あらゆる生命が思いもよらない形で広い範囲でつながり合っていることに気づきはじめてもいる。
この本では、菌類はヒーローと悪者の両方をつとめる。人間は脇役にすぎない。
進化系統樹の上では、菌類は私たちヒトのごく近所にいて、植物よりも動物との類縁性のほうが高い。菌種の数は一五〇万種から一五〇〇万種(現実的なところでは五一〇万種だろうか)と考えられている。しかし、菌類学者が顕微鏡を使って研究を始めてから二〇〇年もたっているのに、分類して名前がつけられているのは約一四万種にすぎない。つまり、観察と分類が完了したのは菌類全体の五パーセントに満たないということだこの二〇年で、DNA解析によって未知の菌種が思いもよらないほど多数存在することが明らかになってきた。 少しずつだが、私たちは菌類という大きなパズルに足りないピースを埋めつつあると言える。
菌類が、植物よりも動物に近いと云うことも初めて聞く方がほとんどだろう。
こんなエピソードてんこ盛りの本書は、知ってると知らないとでは、生活のレベルが格段に異なるし、農家や植物栽培家にとってもその仕組みを知ることで、無駄な施肥や作業をやらなくても済むかもしれない。
とりわけ、人は、地球の支配者だと思っている方も多い。影の支配者が菌類であることを本書から知ることができるだろう。
尚、最終章では地球の生態系の保護について書いている。これもまた、一読の価値ありである。
低 い ⇔ 高 い
難易度 ★ ★ ★ ★ ☆
活菌度 ★ ★ ★ ★ ★
面白さ ★ ★ ★ ★ ★
新規性 ★ ★ ★ ★ ★
書名 菌類の隠れた王国: 森・家・人体に広がるミクロのネットワーク
著者 キース・サイファート (著) 熊谷玲美(訳)
出版社 白揚社
発売日 2024/6/24
価格 ￥2,700＋税
