2025年01月20日16:12ナルナル的菌活書評 19号 人類はどこで間違えたのか 土とヒトの生命誌
本書から引用
「私たち生きもの」の中に人間登場
最初に陸に上がった生きものたち
進歩を求めて自然を離れ、科学技術ですべてを解決しようとしている現代社会のありよう を、自然と向き合うところから考え直し、「『私たち生きもの」の中の私」として生きる新し い道を探る必要性と可能性を探るのが本書の目的です。
進化しながら継続してきた生きものの中でヒト、つまり私たち人間が誕生しました。とこ ろがその人間がいつの間にか「続いていく」という生きものにとってはあたりまえのことができそうもないところにきているのです。自然離れをし、成長・拡大・効率というかけ声のもと、資源やエネルギーを大量消費し、炭素循環という生きものの基本を無視した社会をつくってきたためです。
引用終わり
さて、土壌菌とか、菌根菌などを中心としてこれまで書評を展開してきましたが、地球温暖化や炭素循環など、環境問題が人類にとって大きな問題になっています。
「『私たち生きもの」の中の私」
が本書のテーマです。
地球の環境問題は人類を脅かしており、コロナウイルスが蔓延したり、戦争も各地で絶えません。著者は地球生命誌という考えてを提唱しています。人間が生物の頂点に君臨するのではなく、すべての生物は40億年前に共通の祖先から進化してきたことが最近明らかになってきました。ですから、すべての生物は近縁種であるともいえ、基本的な構造も一致しています。ですから、すべての生物が仲良く暮らすこともできるのではないかと問いています。
最近の科学では、これまで植物の仲間だと思っていたキノコが遺伝子的には動物に近いことも判明しています。
さらに、本書の重要なテーマである「土」についても、身近な存在として当たり前に地上に存在はしていても、土の中はブラックホールに近い存在で、せいぜい、木が根っこ張ったり、アリやミミズ、モグラの棲家くらいにしか認識していなかったのではないでしようか。土の中が如何に生命に満ち溢れた場所であることが分かったのは、最先端科学による遺伝子解析の成果です。それまでは、調べようすらなくて、単に想像するだけの世界であったわけです。
最近、線虫という、地面の中で生きている小さな虫のことを学びました。１センチから０．１ミリサイズまで様々な大きさです。
なんと、線虫も大部分が未発見の種類らしくてその総数は１億種類に及ぶのではないかという生物学者もいるのです。当然、機能の解明も餌もよくわかっていないのです。
未知の可能性を秘めた土に回帰することで、今後の人類の歩むべき道を指示しているのではないかというのが本書の確信でありましょう。
中村先生は、地球生命誌の大先生ですが、土の中のことに関しての知見はまだまだ少ないようです。最も土を研究する研究者自体が希少な存在であったのです。
これから、土を研究する若い学者が大勢生まれてきたらいいなとおもいます。と、同時に植物の育成は、これまでの常識では、肥料に頼らなければ生育が悪くなるというのが定説でした。植物は土から必須栄養素を収奪して育つので、その分の栄養を追加しなくてはならないという考えが、日本や世界のの植物学者の主流だったのです。昔の学者さんは菌根菌の事も知らなかったし、地中の菌糸のネットワークについても無知でしたから、仕方がありませんね。窒素固定するのはマメ科の植物しか知られていませんでした。今では、担子菌(キノコ)が窒素固定をすることが知られてきました。
私は、以前から森の中では誰も肥料をあげないのに、樹木は枯れることもなくたわわに実を結んでいる姿を紹介してきました。ようやく、科学が現実に追いついてきたのだと思いいます。
低 い ⇔ 高 い
難易度 ★ ★ ☆ ☆ ☆
活菌度 ★ ★ ★ ☆ ☆
面白さ ★ ★ ★ ★ ★
新規性 ★ ★ ★ ★ ★
書名 人類はどこで間違えたのか 土とヒトの生命誌
著者 : 中村桂子
出版社 : 中央公論新社 (2024/8/7)
発売日 : 2024/8/7
言語 : 日本語
新書 : 320ページ
著者について
中村桂子
1936年東京生まれ。JT生命誌研究館名誉館長。東京大学大学院生物化学専攻博士課程修了。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始する生命科学に疑問を持ち、独自の生命誌を構想。93年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、東京大学客員教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。『自己創出する生命』『生命誌とは何か』『科学者が人間であること』『中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌（全８巻）』『老いを愛づる』など著書多数。
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「『私たち生きもの」の中の私」