この「出向とは」第1回で、出向とは「会社の命令で他の会社の仕事につくこと」と簡単に定義し、「出向の場合には労働者は出向元の会社と出向先の会社との間で二重の雇用関係がある」とお話ししました。
しかし、実は民法には「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」(民法第625条第1項)という使用者の権利の譲渡の制限に関する規定があります。つまり、ここでは使用者(出向元)がその権利(労働契約の当事者としての権利)を第三者(出向先)に譲渡することは労働者の承諾なしにはできないとされているのです。労働者の側からすれば、出向したくないのであれば右の民法上の規定を根拠に出向命令の無効を訴えることもできるわけで、実際に多くの裁判が起こされています。
このような出向命令の有効無効を争う場合、裁判では双方から出された証拠を基にそれぞれの個別的具体的な事情を判断して結論が導きされますから、ここで一概に有効無効の判断基準を示すことはできません。ただ、おおよその傾向を知っておくことは事前に無用なトラブルを回避するためにも重要です。以下、判断基準の傾向についてお話しますが、まずは出向に限らず労働条件についての一般原則を押さえておきましょう。
2008年3月施行の労働契約法では、第12条で就業規則違反の労働契約について
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」
とされています。
これは従来労働基準法で定められていた条文(労働基準法第93条)をそのまま労働契約法に移したもので、使用者と労働者との合意で結ばれる労働契約は、使用者が定めた就業規則の労働条件を下回ってはいけないということです。
今回の出向の例で考えてみると、就業規則で「出向はない」となっていれば、個別の労働契約で「出向もあり得る」と合意していても、出向により指揮命令権限を持つ者が変更になることは一般的には不利益な労働条件の変更となりますから、就業規則を下回る労働条件を定めた契約として無効、つまり出向はさせられないことになります。
逆に就業規則で「出向もあり得る」となっていて個別の労働契約で「出向はない」となっていた場合、就業規則を上回る労働条件が労働契約で約束されていることになりますから、基本的にはやはり出向は命令できません。
では就業規則で「出向もあり得る」と出向の可能性に触れられていて、個別の労働契約では出向について何も触れられていない場合はどうでしょうか。
実は右のような、労働契約上明確な合意がなく就業規則のみに定められた事項について、就業規則が拘束力を持つのかについては法律上明文化された規定はありませんでした。しかしこの点については多くの裁判例の積み重ねによって以下のような原則が導き出されています。
就業規則は合理的な労働条件を定め事前に周知されているものである限り、使用者と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという「事実たる慣習」が成立しているものとして、その「法的規範性」が認められる。つまり、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とに関わらず、またこれに対して個別的に同意したかどうかに関わらず、当該会社の労働者は当然にその適用を受ける。(代表的判例として秋北バス事件:昭和43.12.25最高裁大法廷判決など)
ここでいう「法的規範性」とは、例えば道路交通法に定めるルールの全部を知らなくても、社会的に交通ルールが知られ、それを守ることは承知されているわけだから、私はそのルールは知らなかった、標識が見えなかったと言っても道路交通法違反は道路交通法違反ですというようなものです。就業規則に置き換えてみると、会社が適切な周知の措置を取っていれば、従業員はその中に書かれたルールに従わなければならず、それを見たことがなかったとか知らなかったからといって適用を免れることはできないのです。
労働契約法は判例として出された右の原則を法文化し、第7条で
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」
と定めました。
会社からみれば就業規則において合理的な理由を根拠に出向の可能性を定め、少なくとも従業員が見ようと思えば見られるような状態で開示し周知の義務を果たすことが、出向を命令する法的根拠として最低限必要であるといえます。
しかし、実は民法には「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」(民法第625条第1項)という使用者の権利の譲渡の制限に関する規定があります。つまり、ここでは使用者(出向元)がその権利(労働契約の当事者としての権利)を第三者(出向先)に譲渡することは労働者の承諾なしにはできないとされているのです。労働者の側からすれば、出向したくないのであれば右の民法上の規定を根拠に出向命令の無効を訴えることもできるわけで、実際に多くの裁判が起こされています。
このような出向命令の有効無効を争う場合、裁判では双方から出された証拠を基にそれぞれの個別的具体的な事情を判断して結論が導きされますから、ここで一概に有効無効の判断基準を示すことはできません。ただ、おおよその傾向を知っておくことは事前に無用なトラブルを回避するためにも重要です。以下、判断基準の傾向についてお話しますが、まずは出向に限らず労働条件についての一般原則を押さえておきましょう。
2008年3月施行の労働契約法では、第12条で就業規則違反の労働契約について
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」
とされています。
これは従来労働基準法で定められていた条文(労働基準法第93条)をそのまま労働契約法に移したもので、使用者と労働者との合意で結ばれる労働契約は、使用者が定めた就業規則の労働条件を下回ってはいけないということです。
今回の出向の例で考えてみると、就業規則で「出向はない」となっていれば、個別の労働契約で「出向もあり得る」と合意していても、出向により指揮命令権限を持つ者が変更になることは一般的には不利益な労働条件の変更となりますから、就業規則を下回る労働条件を定めた契約として無効、つまり出向はさせられないことになります。
逆に就業規則で「出向もあり得る」となっていて個別の労働契約で「出向はない」となっていた場合、就業規則を上回る労働条件が労働契約で約束されていることになりますから、基本的にはやはり出向は命令できません。
では就業規則で「出向もあり得る」と出向の可能性に触れられていて、個別の労働契約では出向について何も触れられていない場合はどうでしょうか。
実は右のような、労働契約上明確な合意がなく就業規則のみに定められた事項について、就業規則が拘束力を持つのかについては法律上明文化された規定はありませんでした。しかしこの点については多くの裁判例の積み重ねによって以下のような原則が導き出されています。
就業規則は合理的な労働条件を定め事前に周知されているものである限り、使用者と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという「事実たる慣習」が成立しているものとして、その「法的規範性」が認められる。つまり、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とに関わらず、またこれに対して個別的に同意したかどうかに関わらず、当該会社の労働者は当然にその適用を受ける。(代表的判例として秋北バス事件:昭和43.12.25最高裁大法廷判決など)
ここでいう「法的規範性」とは、例えば道路交通法に定めるルールの全部を知らなくても、社会的に交通ルールが知られ、それを守ることは承知されているわけだから、私はそのルールは知らなかった、標識が見えなかったと言っても道路交通法違反は道路交通法違反ですというようなものです。就業規則に置き換えてみると、会社が適切な周知の措置を取っていれば、従業員はその中に書かれたルールに従わなければならず、それを見たことがなかったとか知らなかったからといって適用を免れることはできないのです。
労働契約法は判例として出された右の原則を法文化し、第7条で
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」
と定めました。
会社からみれば就業規則において合理的な理由を根拠に出向の可能性を定め、少なくとも従業員が見ようと思えば見られるような状態で開示し周知の義務を果たすことが、出向を命令する法的根拠として最低限必要であるといえます。

