就業規則や労働契約により使用者に出向命令権があるとしても、その出向命令権の行使が有効か無効かの判断には、前回お話ししたような現行の法令等に違反していないか、権利の濫用にあたるおそれはないかなどの検証とともに、具体的に出向を命ずる場合の基本的労働条件について明瞭であるかどうかが個別的・具体的に検証されることになります。
それでは個別的な出向命令発令において、ポイントとして押さえておかなければならないところを見ていくことにしましょう。
出向の場合、当該労働者は出向元との労働契約に加えて、出向先とも労働契約を結ぶことになります。(※このコラムでは単に「出向」といった場合には「在籍出向」を指し「移籍(転籍出向)」を含みません。)従って一人の労働者にかかる労働条件をこの二つの労働契約にどのように明示するのかが問題となります。
また、労働者の出向にあたっては出向元と出向先との間の権利義務関係を定めた出向契約が締結されているはずですから、この出向契約と二つの労働契約との間で矛盾がないかなども考慮する必要があります。
当該労働者と出向元、出向先それぞれの間で労働契約上どのような権利義務関係が発生するのかは、基本的には出向元と出向先との出向契約の中で取り決めすべき問題で、その中で当該労働者の権利義務関係をどのように振り分けるかについては、特別の制限はありません。
ただ出向の場合には日常の労務提供は出向先で行われることになりますから、この労務提供の基本的部分については出向先の労働条件が適用されることとすることが通常です。
一方、通常の出向においては出向元の雇用関係が今後も継続することが前提ですから、労働者の地位に関する事項は出向元の労働条件が適用されることになります。
労働基準法では、使用者は労働契約の締結に際し労働者に賃金、労働時間その他の労働条件を明示することが求められています。
労働基準法第15条(労働条件の明示)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
また、厚生労働省令では労働条件として明示すべき具体的事項と、その中の特に重要な部分の明示方法は書面の交付によることが定められています。
出向の場合、当該労働者は従前の出向元との労働契約に加え、出向先との労働契約が新たに締結されることになります。従って労働基準法上も出向を命じる時点で、法令で定められている労働条件の明示が必要ということになります。
以下、厚生労働省令で定められている「書面による明示が必要とされる事項」に従って、出向の場合の基本的な労働条件を考えてみます。
◎労働契約の期間
労働者の地位に関する事項として出向元との労働契約に拠ることになります。ただ出向期間が明示できるのであれば出向先の労働条件の重要事項として明示すべきでしょう。
◎就業の場所及び従事すべき業務
◎始業及び終業の時刻
以上は出向先の労働条件に拠ることになります。
◎所定労働時間を超える労働の有無
◎休憩時間
◎休日
これらはやはり出向先の労働条件に拠ることになります。時間外労働、休日労働も出向先に命令権の根拠となる就業規則等があり、時間外休日労働協定(36協定)が締結、届出されている場合には出向先に命令権があり、出向先が業務上の必要を判断して命ずることができると考えられます。
◎休暇
年次有給休暇の取得日数は出向元での勤続実績で算定されます。労働者の時季指定権の行使に対する使用者の時季変更権は基本的には実際に労務の提供を受ける出向先が行使できることになります。
◎賃金の決定・計算・支払の方法、締切・支払の時期
賃金に関する事項は出向元の労働条件に従います。労働時間と並んで特に重要な労働条件となる賃金支払い義務は基本的には出向元が負うことになります。出向期間中の賃金負担をどの程度出向先に課すかは、出向元と出向先との間の出向契約の中で取り決めることとなります。
◎退職
退職に関する事項は労働者の地位に関する事項ですから、出向元の労働条件に従うことになります。特に出向先に出向のまま退職となる場合が考えられるときには、退職の手続、取扱い方法などを事前にきちんと定めておくことが必要です。
◎昇給
出向者に対する賃金の支払い義務は基本的には出向元にあります。従って昇給などの賃金の改定についても出向元がその主体となります。
しかし、賃金改定の根拠となる出向者の評価は、出向者の実際の業務を指揮し命令している出向先が行うことが適切とも言えます。出向元の基準と出向先の評価をどう結びつけるのか、出向先がどのような視点で評価を決定すべきかについては、やはり出向元と出向先との間できちんと定めておくべきでしょう。
また、評価に関しては本人へのフィードバックも大切です。直接の面談などによるフィードバックは場合によっては評価そのものよりも労務管理上の重大な要素となるものです。その方法や時期も出向者、出向元、出向先の三者で事前に調整をしておく必要があります。
◎退職金の決定・計算・支払の方法、支払の時期
退職金は会社にとっては永年の業務従事に対する慰労金、労働者にとっては賃金の後払いの意味があります。また退職金の算定にあたってはポイント制を採用する会社も増えているところではありますが、在職期間を要素にしている会社もまだ多く見受けられます。従って出向に際しては、出向元への復帰を前提としたうえで、出向期間をどのように取り扱うかをあらかじめ決めておく必要があります。
出向期間を休職扱いとしている会社も多いかと思いますが、この場合にはまずその他の休職と同様の取り扱いとし、例えば出向期間を在職期間に参入しないことが考えられます。
ただ出向の場合、単に出向元への労務の提供がなかったわけではなく、出向元の業務命令により出向先での業務に従事するわけですから、この労務提供をまったく加味しないのは相当ではありません。出向元の取り扱いとして参入しない代わりに、出向期間終了時に出向先の規定に従い手当を支給するなど何らかの補償措置が必要となるでしょう。
また出向期間中に退職となった場合に、退職金をどのように取り扱うかもあらかじめ取り決めておくべきでしょう
◎臨時に支払われる賃金・賞与
月々支払われる賃金と比較した場合、賞与は会社にとっては評価期間中の業績に応じた利益配分の意味が強いものと考えられます。従って、基本的には出向元との関係で決定されるものであったとしても、昇給以上に出向先の業績や評価に影響されるものといえます。
とはいえ労働者にとっても賞与は賃金の一時払いとして期待がありますから、機械的に出向先の基準によるのではやはり相当性を欠くことも考えられます。出向期間中の賞与の取り扱いをどうするかも、出向元と出向先との出向契約の中であらかじめ定め、出向者にも事前に説明し了解を得ておくことが必要です。
◎労働者に負担させるべき食費など
出向元と出向先の労働環境、福利厚生施設などに差がある場合、例えば食費などの負担が出向元に比べ増えることが考えられます。労働者にとってはこれも労働条件の不利益変更となりますから何らかの配慮が必要です。
会社内の配転の場合でも、多くの会社が地域手当の支給や食堂の有無による食事手当の増減などの措置を取り入れているものと思いますが、出向の場合も同様にあらかじめ補償措置を考慮すべきでしょう。
◎安全・衛生
安全・衛生面での配慮、職場環境に対する配慮義務は、基本的には出向先が負うべきものです。出向労働者分の労災保険の負担が出向先に課せられていることからも当然の義務ですが、これもあらかじめ出向契約で明示しておくべきでしょう。
◎職業訓練・講習
出向先の業務に関連した職業訓練・講習であれば、出向先がその受講命令権を持ち、また出向先が費用負担義務を負うことになります。
ただ出向元に戻った場合のスキル維持、スキルアップのために出向者が出向元の講習に参加したいと希望することも大いに有り得ます。この場合の取り扱いもあらかじめ定めておくことは必要でしょう
◎災害補償・業務外の傷病扶助
出向先での業務上の災害補償は出向先の労災補償保険の範囲内となりますし、労災保険の範囲を超える損害賠償責任も基本的には派遣先の負担の問題となります。
出向中の業務外の傷病については、健康保険の傷病手当金以外の扶助制度に出向元と出向先で差があることも考えられます。この場合もなるべく出向者に不利益のないよう措置を配慮すべきでしょう。
それでは個別的な出向命令発令において、ポイントとして押さえておかなければならないところを見ていくことにしましょう。
出向の場合、当該労働者は出向元との労働契約に加えて、出向先とも労働契約を結ぶことになります。(※このコラムでは単に「出向」といった場合には「在籍出向」を指し「移籍(転籍出向)」を含みません。)従って一人の労働者にかかる労働条件をこの二つの労働契約にどのように明示するのかが問題となります。
また、労働者の出向にあたっては出向元と出向先との間の権利義務関係を定めた出向契約が締結されているはずですから、この出向契約と二つの労働契約との間で矛盾がないかなども考慮する必要があります。
当該労働者と出向元、出向先それぞれの間で労働契約上どのような権利義務関係が発生するのかは、基本的には出向元と出向先との出向契約の中で取り決めすべき問題で、その中で当該労働者の権利義務関係をどのように振り分けるかについては、特別の制限はありません。
ただ出向の場合には日常の労務提供は出向先で行われることになりますから、この労務提供の基本的部分については出向先の労働条件が適用されることとすることが通常です。
一方、通常の出向においては出向元の雇用関係が今後も継続することが前提ですから、労働者の地位に関する事項は出向元の労働条件が適用されることになります。
労働基準法では、使用者は労働契約の締結に際し労働者に賃金、労働時間その他の労働条件を明示することが求められています。
労働基準法第15条(労働条件の明示)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
また、厚生労働省令では労働条件として明示すべき具体的事項と、その中の特に重要な部分の明示方法は書面の交付によることが定められています。
出向の場合、当該労働者は従前の出向元との労働契約に加え、出向先との労働契約が新たに締結されることになります。従って労働基準法上も出向を命じる時点で、法令で定められている労働条件の明示が必要ということになります。
以下、厚生労働省令で定められている「書面による明示が必要とされる事項」に従って、出向の場合の基本的な労働条件を考えてみます。
◎労働契約の期間
労働者の地位に関する事項として出向元との労働契約に拠ることになります。ただ出向期間が明示できるのであれば出向先の労働条件の重要事項として明示すべきでしょう。
◎就業の場所及び従事すべき業務
◎始業及び終業の時刻
以上は出向先の労働条件に拠ることになります。
◎所定労働時間を超える労働の有無
◎休憩時間
◎休日
これらはやはり出向先の労働条件に拠ることになります。時間外労働、休日労働も出向先に命令権の根拠となる就業規則等があり、時間外休日労働協定(36協定)が締結、届出されている場合には出向先に命令権があり、出向先が業務上の必要を判断して命ずることができると考えられます。
◎休暇
年次有給休暇の取得日数は出向元での勤続実績で算定されます。労働者の時季指定権の行使に対する使用者の時季変更権は基本的には実際に労務の提供を受ける出向先が行使できることになります。
◎賃金の決定・計算・支払の方法、締切・支払の時期
賃金に関する事項は出向元の労働条件に従います。労働時間と並んで特に重要な労働条件となる賃金支払い義務は基本的には出向元が負うことになります。出向期間中の賃金負担をどの程度出向先に課すかは、出向元と出向先との間の出向契約の中で取り決めることとなります。
◎退職
退職に関する事項は労働者の地位に関する事項ですから、出向元の労働条件に従うことになります。特に出向先に出向のまま退職となる場合が考えられるときには、退職の手続、取扱い方法などを事前にきちんと定めておくことが必要です。
◎昇給
出向者に対する賃金の支払い義務は基本的には出向元にあります。従って昇給などの賃金の改定についても出向元がその主体となります。
しかし、賃金改定の根拠となる出向者の評価は、出向者の実際の業務を指揮し命令している出向先が行うことが適切とも言えます。出向元の基準と出向先の評価をどう結びつけるのか、出向先がどのような視点で評価を決定すべきかについては、やはり出向元と出向先との間できちんと定めておくべきでしょう。
また、評価に関しては本人へのフィードバックも大切です。直接の面談などによるフィードバックは場合によっては評価そのものよりも労務管理上の重大な要素となるものです。その方法や時期も出向者、出向元、出向先の三者で事前に調整をしておく必要があります。
◎退職金の決定・計算・支払の方法、支払の時期
退職金は会社にとっては永年の業務従事に対する慰労金、労働者にとっては賃金の後払いの意味があります。また退職金の算定にあたってはポイント制を採用する会社も増えているところではありますが、在職期間を要素にしている会社もまだ多く見受けられます。従って出向に際しては、出向元への復帰を前提としたうえで、出向期間をどのように取り扱うかをあらかじめ決めておく必要があります。
出向期間を休職扱いとしている会社も多いかと思いますが、この場合にはまずその他の休職と同様の取り扱いとし、例えば出向期間を在職期間に参入しないことが考えられます。
ただ出向の場合、単に出向元への労務の提供がなかったわけではなく、出向元の業務命令により出向先での業務に従事するわけですから、この労務提供をまったく加味しないのは相当ではありません。出向元の取り扱いとして参入しない代わりに、出向期間終了時に出向先の規定に従い手当を支給するなど何らかの補償措置が必要となるでしょう。
また出向期間中に退職となった場合に、退職金をどのように取り扱うかもあらかじめ取り決めておくべきでしょう
◎臨時に支払われる賃金・賞与
月々支払われる賃金と比較した場合、賞与は会社にとっては評価期間中の業績に応じた利益配分の意味が強いものと考えられます。従って、基本的には出向元との関係で決定されるものであったとしても、昇給以上に出向先の業績や評価に影響されるものといえます。
とはいえ労働者にとっても賞与は賃金の一時払いとして期待がありますから、機械的に出向先の基準によるのではやはり相当性を欠くことも考えられます。出向期間中の賞与の取り扱いをどうするかも、出向元と出向先との出向契約の中であらかじめ定め、出向者にも事前に説明し了解を得ておくことが必要です。
◎労働者に負担させるべき食費など
出向元と出向先の労働環境、福利厚生施設などに差がある場合、例えば食費などの負担が出向元に比べ増えることが考えられます。労働者にとってはこれも労働条件の不利益変更となりますから何らかの配慮が必要です。
会社内の配転の場合でも、多くの会社が地域手当の支給や食堂の有無による食事手当の増減などの措置を取り入れているものと思いますが、出向の場合も同様にあらかじめ補償措置を考慮すべきでしょう。
◎安全・衛生
安全・衛生面での配慮、職場環境に対する配慮義務は、基本的には出向先が負うべきものです。出向労働者分の労災保険の負担が出向先に課せられていることからも当然の義務ですが、これもあらかじめ出向契約で明示しておくべきでしょう。
◎職業訓練・講習
出向先の業務に関連した職業訓練・講習であれば、出向先がその受講命令権を持ち、また出向先が費用負担義務を負うことになります。
ただ出向元に戻った場合のスキル維持、スキルアップのために出向者が出向元の講習に参加したいと希望することも大いに有り得ます。この場合の取り扱いもあらかじめ定めておくことは必要でしょう
◎災害補償・業務外の傷病扶助
出向先での業務上の災害補償は出向先の労災補償保険の範囲内となりますし、労災保険の範囲を超える損害賠償責任も基本的には派遣先の負担の問題となります。
出向中の業務外の傷病については、健康保険の傷病手当金以外の扶助制度に出向元と出向先で差があることも考えられます。この場合もなるべく出向者に不利益のないよう措置を配慮すべきでしょう。

