懲戒解雇と解雇予告除外認定の関係
懲戒解雇の有効要件と解雇予告除外認定の要件の違いについて
この2つの法律的根拠を整理の続き
○解雇予告除外認定の根拠について
厚労省労働基準局のモデル就業規則では解雇予告除外について以下のように定めています
就業規則第49条(解雇)
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
3 前項の規定は、労働基準監督署長の認定を受けて労働者を第58条に定める懲戒解雇する場合又は次の各号のいずれかに該当する労働者を解雇する場合は適用しない。
この規定は、以下の労働基準法第20条の解雇の予告を根拠にするものです
労働基準法第20条(解雇の予告)
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
(第3項略)
労働基準法は労働条件の最低基準を定めた強行法規です
「強行法規」の典型は刑法で、つまり主に社会秩序の維持を目的として
現代社会の契約自由の原則の例外として法律的規範を強制する法律です
もし「契約当事者間の合意」があったとしても
この基準に反していれば合意も無効とするのが強行法規です
例えば「8時間以上働く。割増賃金は不要」と労働者が同意しても
このような雇用契約は認めないということです
労働基準法は使用者を規律する刑法ですから
最終的には裁判(刑事裁判)で厳密な解釈をもって有罪・無罪
刑罰の軽重を判断することになりますが
それ以前に行政は労働基準法を根拠として行政指導をし
労使間の最低基準を使用者に守らせようとします
これが労働基準監督署、労働基準監督官の役割であり
労働基準監督官は司法警察官として逮捕権を持ち、
検察への送検手続まで行う強制力をもって取り締まります
従ってこの労働基準監督官の判断基準は
厚生労働省から出される通達で細かく定められています
今回の解雇予告除外認定にかかわるところでは
「労働者の責に帰すべき事由」の判断を以下のように通達しています
【労働者の責に帰すべき事由】
「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当っては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責に帰すべき事由」が法第二十条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又使用者をしてかかる労働者に三十日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。
「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例を挙げれば、
(1)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
(2)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
(3)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。
(4)他の事業場へ転職した場合。
(5)原則として二週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
(6)出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意をうけても改めない場合。
の如くであるが、認定にあたっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと。
(昭23.11.11 基発1637号、昭31.3.1 基発111号)
使用者から解雇予告除外認定の申請が出された場合
労働基準監督官は上記の基準に従い「解雇予告除外認定の是非」を判断することになります
この判断基準は民事上の「解雇の有効無効」の判断基準とは全く異なります
また解雇の有効無効の判断と異なり「解雇予告除外認定の是非」の判断は
基本的に時間をかけて審理することができません
使用者から申請が出された場合には
労働者の責に帰すべき具体的事由
その解雇と解雇予告除外に就業規則上の根拠があること等
があれば、申請自体は受理され審査には入りますが
その認定の是非は当該労働者からの事情聴取によります
端的に言えば、労働者が自ら事実を認めれば「認定」となりますが
「事実ではない、やっていない」といった積極的否認ではなく
たとえ「知らない、覚えていない」という消極的否認であっても
労働基準監督署の決定は「認定しない」となります
たとえば懲戒処分の決定にあたり使用者の前で労働者が自認していても
その後の監督署の聴取の際に否認すれば認められません
そもそも労働基準法には解雇そのものの判断基準がありませんから
労働基準監督署は解雇の有効無効は判断しません
解雇が民事上の判断で有効と認められるような場合でも
解雇予告除外が認定されるとは限りませんし
実態として認定されない(労働者が積極的に認めない)ことが多いのが現実です
逆に解雇予告除外が労働者の自認により監督署に認められたとしても
後日「解雇無効」の訴えを労働者が提起した場合には
その解雇無効が認められる可能性ももちろんあります
上記のように、
懲戒解雇の有効要件と解雇予告除外認定の要件は全く違いますから
実際の運用でもその違いについて整理しておくことが必要となります