2009年10月30日

若冲ワンダーランド


「若冲ワンダーランド」展のチラシ





















若冲ワンダーランド
10月24日 MIHO MUSEUM(〜12月13日)


  激動の名古屋・京都 2DAYS はMIHO MUSEUMで行われている「若冲ワンダーランド」から始まりました。

個人的な事ながら、24日の午前中には若冲展を見ないと後のスケジュールに支障がきたすため、かなりの駆け足でしたが、作品はしっかり見てきた(つもり)ですので、レポにお付き合いいただけますと幸いです。


新発見の「象と鯨図屏風」のお披露目の意味もある、この展覧会ですが、会期が6期に分かれているのが、美術館から遠いところに住む者にとってはちょっと痛いところです。
(展示物スケジュールはこちら

ちなみに私は3期の展示を鑑賞しました。

館長で若冲研究の第一人者でもある辻惟雄先生によると現在東博で行われている「皇室の名宝(1期)」の伊藤若冲の展示を第1展示とすると、こちらのミホミュージアムの展示は第2展示という意味合いもあるとのこと。


東京と滋賀、ものすごい遠距離展示ですよ、先生(´・ω・`)


東博での「動植綵絵」の写生を元にした極彩色、濃密な反復や記号の世界に対して、ミホの方は同じ写生を元にしながらも、若冲の旺盛な想像力の賜物である作品群(主に水墨画)をメインに若冲が生み出した世界=ワンダーランドを提示する展覧会となっているのが特徴です。


会場内のセクションは8つに分かれていました。
一章 プロフィール
二章 版画
三章 動植綵絵への道
四章 若冲ワンダーランド
五章 若冲をめぐる人々
六章 象と鯨図屏風
七章 ワンダーランドの共住者
八章 面白き物好き
6期にわたる会期で総件数は127点になりますが、大体1期あたり若冲作品は40点弱の展示となっています。

このうち七章は若冲の同時代人である与謝蕪村、曾我蕭白、円山応挙らの作品が展示されていました。


まず最初にプロフィールとして、今まで絵の描くことしか興味がなかった男として認識されていた伊藤若冲は実はそうではなかったということが明らかになった事が紹介されていました。

「京都錦小路青物市場記録」に、高倉錦小路の営業停止を阻止せんと奮闘する年寄・桝屋若冲(若冲は青物問屋「桝屋」の元・主人、40歳で家督を弟に譲る)の姿が記されています。

いわゆる「オタク」ではなかったというキャプションには疑問がありますが(「オタク」は本来はそういう意味ではないと思うのですよ・・・物の考え方が「オタク」的な人が「オタク」と呼ばれるんだと思います。)
若冲もやる時はやるタイプの人だったようです。


版画ではお馴染みの「乗興舟」のほかに、「元圃瑶華」「素絢帖」、色鮮やかな「花鳥版画」がありました。
若冲の版画は拓版画という中国で流行した手法で版木で彫った部分が白抜きになるというものです。
「花鳥版画」は合羽摺の手法(着色したい部分を切り抜いて穴をあけた渋紙を型紙としてあてがい、その上から刷毛で色をぬる)ですが、背景を黒にすることで拓版画に近づけようとする趣向が見られます。

3期では「薔薇に鸚哥図」「青桐に砂糖鳥」が展示されていました。
ぼかしやら、色の飛ばし(技法的になんというのが不明)が黒の背景から浮き上がって、非常に美しいです。
描かれている鳥も丸みを帯びていて可愛らしい雰囲気です。
(ちなみに「青桐に砂糖鳥」では穴ぼこだらけの葉っぱを見ることができます。)


やがて「動植綵絵」に結集されるされる若冲の彩色画ですが、まだ南画の影響などを受けている「牡丹・百合図」ですが、確かに描写はまだ固いように思いましたが、彩色の過剰なまでの細やかさや細部の描写へのこだわり加減(「百合図」での蜘蛛や蜂の描き込み)は後の「動植綵絵」に確かにつながるものと言えるでしょう。


「鸚鵡図」
伊藤若冲「鸚鵡図」鸚鵡の白が非常に細やかに彩色されていますが、白が透き通って見えてしまうのか一部彩色が施されていないように見えてしまうのは私だけでしょうか?
「動植綵絵」では白がくっきりと浮かび上がるように見えるのでですが、この「鸚鵡図」では白が一部地の絹地に溶け込んでしまっているような気がします。

使っている絹地の違いなのでしょうか?






「松に鸚鵡図」

構図が「動植綵絵」に近いものになってきていますが、まだ画面に情報量一杯な感じではないようです。
こちらの方の白は透き通った感じには見えませんでした。
松の枝に必死にとまる鸚鵡の姿が可愛らしいです。


「雪中遊禽図」

伊藤若冲「雪中遊禽図」


















この構図は他の作品でも見ることができますが、この作品では枝や岩に降り積もった雪の質感が特徴的かと思います。
枝から今にも落ちんばかりに積もった感じがよく出ています。

どうしても画面下の鴛に目がいってしまうのですが(何を言う自分自身がそうでしたから)降り積もった雪の描写があればこそ、鴛の鮮やかな羽の色や山茶花や水仙の彩色の見事さに心奪われます。

画面上部にはたくさんの鳥が飛び交っていますのでそこもポイントですね。


「鳥獣花木図屏風」
伊藤若冲「鳥獣花木図屏風(右隻)」






プライスコレクションからの出展。(辻先生とプライスさんとの長年のお付き合いの賜物として特別出展とのことです。)
私は静岡県美の「樹花鳥獣図屏風」の方に軍配を上げてしまいますが、色鮮やかなモザイク画と見るなら、こちらの方が上かな?と思います。
ただ、線の処理の仕方などは若冲ぽくないというか・・・
以前、何かのTV番組で西陣の下図を見たことがありますが、それに近い線をしていました。
恐らく若冲の下絵(「樹花鳥獣図屏風」に使われている可能性高し)を元に別の絵師または西陣の職人が下絵を起こした、と自分的仮説を立ててみますた。


若冲の創意工夫がより出ているのが水墨画で、写実もあればデフォルメ、さらには戯画の域に達しているものまであり、そのバリエーションの豊かさには本当に驚かされます。

「双鶏図」
3期の展示で出てきた唯一の鶏だったような・・・
あっさりとした線で描かれた雌雄の鶏です。雄の方は一筆で描いたような勢い(特に尾っぽ)や刷毛のタッチをそのまま生かしたような自由さが見れます。

「布袋唐子図」
全体的にまるまるっとしていて可愛らしいフォルムです。
布袋さんの目が「( ´∀⌒)」みたいになっているのがなんとも笑えます。
自分の頭の上に乗った唐子を「おやおや」と見上げつつ、「困ったなー」と一方では視線を下に落とす・・・そんな瞬間の表情です。

「松林図」
埋骨というか墨のにじみをそのまま林にしているところが凄いというか、なというか・・・
でも、それが林に見えてしまうのがいやはや・・・

「隠元豆図」
これはリアルな描写な水墨画とも言えます。
墨のグラデがはっきりとしていますが、隠元豆より、葉の描写に力を入れているようです。
そこここにバッタや蜻蛉が飛んでいるのも若冲らしいです。

「葡萄図」
葉っぱの描写が非常に素晴らしい。ここではいつもの穴ではなく、自然にできた枯れ具合の様がとても良く表現されているのではないかと思います。
光の透け具合も墨の濃淡で表されていて、しばし見入ってしまいました。

「松竹梅群鶴図」
松竹梅の描写はざっくりと描かれていますが手前の鶴はきっちりと描いてある、そういう対比も面白いと思います。
双幅の珍しいものだそうです。

「寒山拾得・楼閣山水図」
犬みたいな顔の寒山拾得・・・
筋目描きの岩場に埋め込まれるように描かれた楼閣もある種の異空間。
むしろ自由に描いた岩場を山水として仕立てた感があったりして。

「寒山拾得図」
ぶなシメジみたいな寒山拾得(゚∀゚)アヒャヒャ
しばしニヤニヤ
多分傍から見たら、危ない人に見えたかも

「蟹・牡丹図衝立」
牡丹図にかなりの衝撃を覚えました。強風に揺れる牡丹、その花びら、茎から葉にいたるまで、流されながらもそれに抗うようにしなやかに佇む様があまりにも力強いものに見えました。

「燈籠図」
「石燈籠図屏風」が3期途中で展示が終わってしまったため(´Д⊂)
その名残として・・・
墨の濃淡を生かしての点描はかなりの作業ではないでしょうか?

「雨龍図」
伊藤若冲「雨龍図」これはかなりの戯画に近いのではないでしょうか。
あんぐりと開けた口とあらぬ方向を見る目。そこには龍の恐ろしさや威厳といったものはありません。
なんでまたこんなオマヌケな龍の顔にしたやら・・・
しかしその体はしっかりと筋目描きで鱗が描かれているのは要チェックです。








「象と鯨図屏風」

伊藤若冲「象と鯨図屏風(右隻)」







伊藤若冲「象と鯨図屏風(左隻)」







(上が右隻、下が左隻、クリックすると拡大します。)
福井の旧家から見つかった若冲82歳時の作品。
現在所在知らずの同じ主題の屏風がありますが、残された図版を比較するとこちらの方がいくぶん飾りの要素も入れながら単色ながらも映えのある構成となっていると思います。
右隻の端に波頭が見えることから、この象と鯨が同じ空間に存在していることがわかり、近しい雰囲気が生み出されているようです。

象のまるまっこいフォルムがおもちみたいで可愛らしいです。
若冲が10代の頃、京の都に象が現れました。
象はベトナムから運ばれたもの、長崎から遠路はるばる京へ、そして天皇にまで謁見。さらに江戸へ運ばれます。
おそらく京の都大路を悠々と歩く象を若冲も見たのではないかと思います。

象の白さを強調するためでしょうか、背中に触れるように咲く牡丹の花が象のかざりのようにも見えたりもしますが、後ろの斜め線が画面に動きを入れているようにも感じます。

象さんの弓なりの目が非常に透明感があり、まじまじと見入ってしまいました。まるで切り抜いた穴からこちらをじっと覗いている象さんのもう一つの意志のようなものだったりして。

また鯨の方は背中しか見えませんが
波しぶきの一つ一つが意思を持っているように見えるのは、三の丸尚蔵館所蔵の「旭日鳳凰図」の波しぶきと同様の描写がされているからでしょう。
鯨も黒一色ではなくたらし込みを用いて描かれており、墨の表情を画面にうまく出しています。

ちなみにこの屏風は展示室1室を使っての贅沢な展示をしています。
近くで見るのも面白いのですが、展示室入口で全体を見ると、象と鯨の共演の楽しさが伝わってくるので、色々な距離で見ることをお勧めします。


「石峰寺図」
ミニチュアのような斜めを強調したような俯瞰図にお人形のような羅漢たちが集っている様は若冲の見た理想郷なのでしょうか?


色々見てきましたが、初見の作品が多かったので見ごたえ十分な展覧会でした。願わくば全展示作品を見たかったのです。
ただ今秋、まとまった若冲展示を東京、そして滋賀で見ることが出来たのは大きな収穫となりました。


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この記事へのコメント

1. Posted by はろるど   2009年10月31日 01:21
こんばんは。三期をご覧になられたのですね。私も同じでしたので、こちらで感想を拝見して展示の記憶が蘇りました。ありがとうございます。

ミホが鳥獣(プライス)、そして静岡は樹花が出るそうで、アナザーワールドはその辺の違いも面白そうですね。私もこの鳥獣に関しては全てアイレさんに同感です。仰る通り、どう見ても線が全然違います…。(ただこちらの方が可愛いですが。)

牡丹図は本当に衝撃的でした。
風で揺れる牡丹をあのように表現するとは驚きました。蕭白のシュールな作品のようです。

鸚鵡図と動植綵絵は修復の関係もひょっとするとあるかもしれません。(綵絵の方は修復が入ってますので。)詳細は不明ですが…。
2. Posted by アイレ   2009年10月31日 02:35
はろるどさん、いらっしゃいませ
TBとコメントありがとうございます。
はろるどさんは3期の最初の方ですね。
私は後半でしたので「石燈籠図屏風」はあいにく見られませんでした。

「鳥獣」と「樹花」の違いはかなりありますよね。「鳥獣」は桝目をそのまま動物の輪郭線として使っているものもあり、ぎこちなさがあるように思います。
ただ、色々な同定作業などをやってみないとわかりませんね。

「鸚鵡図」の白と「動植綵絵」の白があまりにも違うので、特別に書いてみたのですが、確かに修復とかありますね。それに「鸚鵡図」では裏彩色があったのかどうか?そこも知りたいところです。

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