魔王ゼファー

作者:BUTAPENN 氏
掲載サイト:Abounding Grace
種別:現代、連載中
キーワード:逆召喚・魔王・ハートフル

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精霊の世界での争いに破れた魔王が追放されたのは「トーキョー」と呼ばれる異世界だった。
そこで魔王は佐和という女性と出会い――
そんな序盤で、よくあるタイプの逆召喚物ですね〜……などと高を括って読み進めていたんですが…………ごめんなさい! 私が間違ってました! よくあるタイプだなんてとんでもありませんでした!
いやー、たまたまネットサーフ中に見つけた、「おにぎりをこよなく愛する魔王」という煽り文句が少しばかり面白そうだったので、召喚・逆召喚って苦手だけど読んでみるかーと思い立ったんですが、読んでみるものですね。食わず嫌いはいけないわ。うん。
いや苦手と言いつつよく考えたらこのコーナーの数少ない紹介作品で魔王逆召喚物既に2本目だけど。あれ。実は好きなのか私。

私の読書趣向はどうでもいいですね。この「魔王ゼファーシリーズ」のお話をしましょう。
一言で言えば……と言ってもメインを張れる要素が大変多い作品で一言では纏めにくいのですが、この作品に対する私の最大の驚愕ポイントを申し上げますと、
「異世界ファンタジーと賃金労働者の悲哀のコラボレーションは初めて見たよ!?」
という所でしょうか。

出だしだけ見ると魔王様とヒロイン・佐和の恋愛モノっぽい感じですが実質恋愛色は薄いです、というか、愛は愛でももっと穏やかな家族愛の方がメインとなります。物語において比重が置かれるのは、ハートフルな家族愛や隣人愛(?)と、前述した通り、シビアな現実に直面する労働者の戦い!
……あの煽り文でよもやこんな展開の作品が読めようとはサッパリ想像していませんでしたが、この実に世知辛い……いやいや、リアリティ溢れる設定が魔王逆召喚というファンタジー物でありながら非常に現実的な物語という側面を見せます。
ああ、リアルと言えば。魔王なんて自称してたらそりゃ精神病扱いですよねー。うん。……まあ、どこかの精神科のHPで「精神病と妄想の境目!? 患者や周りが困ったら精神病!」というすげーなおいという説明を見たことがありますが、それを信じるなら別にゼファーさんがただの妄想屋さんだったとしても、精神病ではないのかもしれませんが。まあそこはそれ。それはおいといて。

なんていうかですね〜、佐和のゼファーさんの信じ方が何だかとてもよいのです。
普通なら誰でも妄想と思う内容を鵜呑みにするわけではなく、全く信じられる話ではないという当然の感想を持ちつつでも愛する人の言う事だから信じられる。という結論を出している所に実に深い愛を感じるのです。
恋に見られる盲目的な愛ではなく、これぞ真実の愛っぽいじゃないですか。

また、家庭を持って、魔王から一転、一家の大黒柱に姿を変えたゼファーさんの戦う様の格好良いこと。勿論剣と魔法で戦うわけじゃありませんよ。24時間戦えますかジャパニーズビジネスマン! ですよ。父ちゃんカッコイイ!
しかも、あまりにもリアルを感じるお話でありながらも「もうこれなら完全に現実設定で書いちゃえばいいじゃん」って感じにはなっておらず、本来の魔王様逆召喚の設定が存分に生かされています。ならでは感を感じる作品ってやっぱりいいです。きっと何年経っても忘れない。

カッコよくて可愛いくて凛々しくて素敵でカッコいい(かぶった)魔王様や、ヒロインの佐和だけでなく、サブキャラも皆いい味を出していています。暖かくて笑えて、心がほっこりします。
また短編連作の形式の作品ですので大変読みやすく、いろんな方にお勧めしたくなっちゃう作品です。

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